【連載小説】shoot by 3 EP.1

(ep.1  小説家の男)


男の主張はこうだった。
夜、コンビニを出て家に向かう帰り道、背後にいやな違和感を感じた。男が歩みを速めると、もうひとつの足音もそれに合わせて速くなり、速度を落とすと、もうひとつの足音も遅くなった。まるで一定の距離を保ち、尾行しているようだった。少し先にある路地裏の手前まで行ったらダッシュして中に逃げ込もう。男はそう考えたという。

━━━ ザッ ザッ

━━━ ザッ ザッ

大きな赤提灯が目印の焼き鳥屋を通過し、右脚に力を入れダッシュして路地裏に逃げ込み走ったその瞬間。

━━━ パァン

煌びやかな繁華街から一変、別世界に飛び込んだような寂しげな路地裏に、発砲音が響き渡ったという。

『shoot by 3』

腰が抜け、這いつくばりながら逃げようとする男に黒い影がゆっくりと近づいてきた。
そして『shoot by 3』と呟くと、繁華街の方へ逃げていった。全身真っ黒だったうえに夜の路地裏だったため何も見えず、背丈や年齢、髪型などは分からないという。ただ、呟いた声からして性別は男。犯行時、周辺には誰もいなかった為、目撃者は自分だけだという。

交番に駆け込んできた男は腕を押さえ、指先からは赤い雫がぽとぽと垂れていた。しかし、それは拳銃で撃たれた傷ではなく、発砲音に驚き、転んだ際に室外機の角で擦ってできた傷だった。

「大丈夫?救急車くるからね」
「何者かに‥‥何者かに‥‥」

『おいっ、あいつ大丈夫か?なんか病気でももってねぇか』

話を聞いてみると、男は、自分は物書きのはしくれだと言った。1ヶ月前、書いた小説を投稿サイトにあげたところパクリだと炎上し、信仰者たちは潮が引いていくようにいなくなり、毎日のように誹謗中傷が届くようになったという。好きと嫌いは表裏一体で、いつでも簡単にどちらかに傾いてしまうから恐ろしい。きっとあの犯人も豹変した信仰者のひとりだという。
少しすると救急車が到着し、男は病院へと向かった。


『あいつ小説家だと言っていたが、お前知ってたか?』
「いいえ。私は本はあまり読まないので」
『たぁく、最近の若いのは家でゲームばっかしてんだな』
「いや、そんなに年変わらないですよね」

高森巡査は『ふぅ〜』と勢いよく椅子に腰掛けると、両手を頭の後ろに回し私の方を見た。

『今の話、どう思う?』
「どう、とは‥‥」
『なぁんか、嘘くせぇよなぁ』
「小説家だって話ですか?」
『いぃやぁ、突然銃を持って現れ、撃たれそうになり、目撃者はなし。あんな繁華街だぞ。銃声がしたらすぐに人だかりができるだろ。shoot by 3‥‥。あの男、な〜んか嬉しそうに話してたぞ』
「でっちあげってことですか?自分はそうは思わなかったですけど。人気商売なら、あり得ない話ではないのかなって」
『まぁよく知らんが、小説家の先生ぇらしいから、想像力は豊かだろうな』
「まぁ、撃たれそうになった割にはスラスラと話してましたけど、そうだとしたら一体なんのためでしょう。何か根拠はあるんですか?』

『‥‥警察の勘だ』

警察の調査で分かったことは以下の3点だった。

①凶器
拳銃は3Dプリンターで作製されたもので、発砲後に砕け、現場に破片が散乱していた。指紋は検出されず。
②被害者の男の証言
犯人は声からして成人男性。服装は全身黒色でフードをかぶっていた。身長、髪型、顔、国籍などその他手掛かりになるような情報は得られず。
③立ち去る際に『shoot by 3』と言い残した。

繁華街に設置された全ての監視カメラを確認したが、犯人らしき男は写っておらず、怪しい目撃情報もなかったという。

『ま、あとは上の方がどうにかするだろう〜』
「そうですね。では、巡回に行ってきます」
『今日も街の安全を、お願いしま〜す』

この時私は気づいていなかった。不気味な連続事件の足音が近づいていることに。



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