小径章(こみち・あきら)

くさぐさのもの書くただのものぐさ。 ここには身辺雑記と過去の佳作、および2022年以降…

小径章(こみち・あきら)

くさぐさのもの書くただのものぐさ。 ここには身辺雑記と過去の佳作、および2022年以降の新作を投稿します。2021年までの過去作はこちら https://akira-komichi.tumblr.com/ ご感想お待ちしてます。

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  • 【現代語訳】樋口一葉「やみ夜」

    樋口一葉の「やみ夜」を1章ずつ現代語訳しています。週1のペースで更新できればと思っています。

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夜の観察

 夜というものの暗さが、まず第一に身体を包みます。とぷんと闇に身を差し入れて、全身を浸してみて、夜はとびきりの無音か、うだるような騒音にしゃかしゃかと降りしきら…

星の自傷

血を流して星がたたずむ 数々の稜線を伝って 流れた跡が赤黒く固まる 星は誰もがみなしごで 数十億光年の空隙を 前後左右に保ったまま 怠惰に無意志的に発光する おのずか…

世界の最果て

空想に耽る花曇りが 頭上でちぎれて消えたので きみがたたずむその場所は 世界の最果てにちがいない 見知らぬ子犬が鼻を鳴らして 目の前を通り過ぎるのを きみはだまって…

2024.6.27-30のらくがき

やさしき自裁

揺籃は雑音にかしぐ 光が綾をなして周囲を包んでは いくえにも温もりを巡らせ自足するのを 雲がしずかに地上へ振り落とす 揺籃は無音を裂く 落下のただなかに すべての温…

空の炎症

偏執する大気が まだらに人々の息を止めては 太陽が 野放図に地を灼く 野垂れて息もたえだえの農夫が 酸素の吹き溜まりで延命を強いられる 一面の収奪は 生物一般に観測さ…

時はみなしご

机上の空論を くるくる弄ぶ もしも願いが叶うなら いちばんに掃除用具を 飾り付けてやろう 目白駅の鼻白む景色は 弁証法とはほど遠い みな俯きがちに列車へ急ぐ ここから…

休日

小綺麗なしわぶきを 宙に散らす 落下する唾液の粒子が 外気に流れて おどけてみせる いま空は 絶望的に青い 言葉は重力に抗う 退屈は地べたに丸まって われ関せず

交信

きらびやかな鈍重さを瞬いて街を歩くかれらを すり抜けてあなたの声があたしに 軌跡は糸となって街を縫い そのたびかれらの歩行に断ち切られるのを あなたは構いもせずなお…

僕の過渡期

過渡期にあって 収集しきれぬ群衆 それは内なる群衆 僕は都市 群衆のあるところには つねに孤独があるから 僕は彼らの あらゆる孤独を内包する 単一の狂騒

いと屑

喉元に絡まる糸屑が、ケッと咳込んでもなかなか取れないそいつが、僕の粘膜にじわじわと張りついてつい今しがた安らかな午睡に耽る。僕はといえば穏やかなある山の中腹をハ…

存在理由(レゾン・デエトル)

みつからない一瞬が 頭のなか たとえば追いかけていた猫を見失ったときの 頬をはたかれたような茫然のただなかに ふと閃くことがあるから きょうも期待と予期をひた隠し 押…

朗読:夜の観察

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本文はこちらより。 https://note.com/akirakomichi/n/n4a11b278ae73

朗読:葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」

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ネットで話題になっていたので朗読音声を投稿します。ちょっと噛んでるところはご愛敬、ってことで。

交差点

 すみれは交差点に立つことを想像する。渋谷のスクランブルみたいに大きな交差点では意味がない、かといって田舎のさびれた、人のまともに通らないところでもないような、…

仮面葡萄会

仮面をかぶった老若男女がおびただしい葡萄の山をミサのように輪になって踏みしめ踏みしめ、足を取られた貴婦人がぐずぐずに崩れた葡萄に倒れ込むのをだまって粛々と輪にな…

夜の観察

 夜というものの暗さが、まず第一に身体を包みます。とぷんと闇に身を差し入れて、全身を浸してみて、夜はとびきりの無音か、うだるような騒音にしゃかしゃかと降りしきられて、それが通過するか跳ね返るかで自分の身体に空いたきめの細かさを測りながら、ひとびとは縦横無尽に街を、それぞれの容積で歩き回り居座り、自分の穴からぷくぷくと夜空の方に浮いて出ていくあぶくの数々を、ここでは世迷いごとと呼びならわしています。

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星の自傷

星の自傷

血を流して星がたたずむ
数々の稜線を伝って
流れた跡が赤黒く固まる

星は誰もがみなしごで
数十億光年の空隙を
前後左右に保ったまま
怠惰に無意志的に発光する
おのずから光る役割のみを
誰かから託されて
誰が託したのかなんて誰も知らなくて
どうして光るのかも自分では分からない
戸惑うそぶりすら許されぬまま
星々は光りつづけ
恒星として登録されて
等級など付けられて

月明かりに目を覚まされたある観

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世界の最果て

世界の最果て

空想に耽る花曇りが
頭上でちぎれて消えたので
きみがたたずむその場所は
世界の最果てにちがいない

見知らぬ子犬が鼻を鳴らして
目の前を通り過ぎるのを
きみはだまって目で追いながら
野垂れ死ぬときを待つだろう

さびれた広場でミュージシャンが
声を限りに歌いつづけるのを
きみは遠くで聴きながら
彼の歌声がビニル袋と一緒に
道端を転がるのを見るだろう

妻を失った男が流れ着き
首をくくろうとするとき

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やさしき自裁

やさしき自裁

揺籃は雑音にかしぐ
光が綾をなして周囲を包んでは
いくえにも温もりを巡らせ自足するのを
雲がしずかに地上へ振り落とす

揺籃は無音を裂く
落下のただなかに
すべての温もりを忘却して
運動方程式を連綿と履行する
固有の質量になり果てる

赤子はフリーフォールを眠りながら
上空一万フィート
零下四五度の大気圏を
すみれの花叢に思いなす

空の炎症

空の炎症

偏執する大気が
まだらに人々の息を止めては
太陽が
野放図に地を灼く
野垂れて息もたえだえの農夫が
酸素の吹き溜まりで延命を強いられる

一面の収奪は
生物一般に観測される
平均化作用にほかならない
ひずんだ荊が猫を裂く
落ちくぼんだ地面に血が沁み入る

明示された恒時条件に
うなだれて従う日常を
空の炎症が阻害する
風の鋭さに切り裂かれて
ますます亢進する病を
電柱が気怠げに眺めては
ベッドにう

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時はみなしご

机上の空論を
くるくる弄ぶ
もしも願いが叶うなら
いちばんに掃除用具を
飾り付けてやろう

目白駅の鼻白む景色は
弁証法とはほど遠い
みな俯きがちに列車へ急ぐ
ここから南へ行くと
焦土だとでもいうように

迷路は終わらない
空襲はいつも頭上に
予感が景色をひろげて
くつろやかな陽射しに透かし見る彫刻
産みの苦しみ
産み育てられる苦しみと
ふたつながらひとつに
溶け合って雲のした
ああ時はみなしご

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休日

小綺麗なしわぶきを
宙に散らす
落下する唾液の粒子が
外気に流れて
おどけてみせる
いま空は
絶望的に青い
言葉は重力に抗う
退屈は地べたに丸まって
われ関せず

交信

きらびやかな鈍重さを瞬いて街を歩くかれらを
すり抜けてあなたの声があたしに
軌跡は糸となって街を縫い
そのたびかれらの歩行に断ち切られるのを
あなたは構いもせずなおも声を
どうしてそんな無謀にも
街を縫いつくし織り上げて
完全に静止させようとするかのように
あなたは声を
なおも声を

あたしの耳殻はあなたの声に
つけ根から巻きつかれ圧迫されて
あなたの試みが完遂する前に
壊死してしまうことを望む

僕の過渡期

過渡期にあって
収集しきれぬ群衆
それは内なる群衆
僕は都市
群衆のあるところには
つねに孤独があるから
僕は彼らの
あらゆる孤独を内包する
単一の狂騒

いと屑

喉元に絡まる糸屑が、ケッと咳込んでもなかなか取れないそいつが、僕の粘膜にじわじわと張りついてつい今しがた安らかな午睡に耽る。僕はといえば穏やかなある山の中腹をハイキングに出掛けて、わかれ道を前に呻吟ひとつしなかった。喉元のそいつは声帯がいっこうに振動しないことを不審がって、すこやかな眠りを覚まされてしまった。
「やい、いやに静かだね。こころなしか乾いた粘膜がくら闇のなか、静寂に晒されてキインとして

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存在理由(レゾン・デエトル)

みつからない一瞬が
頭のなか
たとえば追いかけていた猫を見失ったときの
頬をはたかれたような茫然のただなかに
ふと閃くことがあるから
きょうも期待と予期をひた隠し
押し殺し
だれの目も届かない日常の奥深くで
みつからない一瞬を待ち侘びる時間が
ぴいんと糸を張る
それに足をかけて
かろうじて僕は立っている

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ネットで話題になっていたので朗読音声を投稿します。ちょっと噛んでるところはご愛敬、ってことで。

交差点

 すみれは交差点に立つことを想像する。渋谷のスクランブルみたいに大きな交差点では意味がない、かといって田舎のさびれた、人のまともに通らないところでもないような、ちゃんと都市の血管として機能していてかつ見晴らしのきく、夕焼けがわりあいに似合う交差点、具体的にどこと言われるとよく分からないので、それはすみれのなかにある交差点の純粋なイメージ、すみれ的世界における交差点のイデアみたいな、そういう交差点の

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仮面葡萄会

仮面葡萄会

仮面をかぶった老若男女がおびただしい葡萄の山をミサのように輪になって踏みしめ踏みしめ、足を取られた貴婦人がぐずぐずに崩れた葡萄に倒れ込むのをだまって粛々と輪になって踏みしめ踏みしめ、虫の息の最後の力を振り絞って掴んだ足首が死にかけの身体の埋没と同じ速度で沈んでいくのをみなうつむきつつ輪になって踏みしめ踏みしめ、マーチは二拍子、あるいは四拍子、ワルツを踊れないことに不満を覚えた老婦人の足取りが乱れて

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