マガジンのカバー画像

映画感想room

36
非英語圏の映画が好み。フランス、ロシア、チェコ、北欧、中欧、東欧、中東、時々南米。
運営しているクリエイター

記事一覧

映画『アノニマス・アニマルズ 動物の惑星』

映画『アノニマス・アニマルズ 動物の惑星』

久しぶりに好きなテイストの映画を観たのでこの場(note)に紹介してみようと思う。

2020年のフランス映画。
某猿の惑星と近いテーマではあるものの全く違う切り口の世界観である。

人間に扱われている動物の視点で、動物が人間を扱っている世界を描き出している。
鳴き声はあるものの全く台詞(人間の言語)がないので、常に前頭葉フル活用して空気を読み続ける必要がある。
台詞がない事で多く人から共感を得ら

もっとみる
映画『異端の鳥』

映画『異端の鳥』

上演前からずっと気になっていた映画なので、珍しく映画館に足を運んでみた。
鑑賞した結果、胸が抉られるような気持ちになったが、本当に観てよかった。酷い映画ではあるが最高だった。今回は兎に角、気持ちをぶつけたくて書いたのであまり気にせずに。

舞台は第二次世界大戦中の東欧の何処かの国という設定ではあるけれども、世界観が自然主義文学のエミール・ゾラの庶民の描写を彷彿させられた。
田舎の貧困層の庶民の優し

もっとみる
映画『水を抱く女』

映画『水を抱く女』

2020年のドイツ・フランス合作の恋愛映画。

水を司る精霊ウンディーネの神話をモチーフにして現代ドイツを舞台に描かれた恋愛ファンタジーである。

ベルリンの都市開発を研究する歴史家ウンディーネ。恋人のヨハネスが別の女性に心移りし、悲嘆にくれていたウンディーネの前に、愛情深い潜水作業員のクリストフが現れる。数奇な運命に導かれるように、惹かれ合うふたりだったが…。

水の精霊の神話についての知識なく

もっとみる
映画『ロード・オブ・カオス』

映画『ロード・オブ・カオス』

2018年制作のイギリス・スウェーデン・ノルウェーの映画。

ノルウェーで1980年台に活動していたブラックメタルバンド「メイヘム(Mayhem)」の悪魔崇拝を元にした過激な活動やバンドメンバーでの凄惨な内ゲバが描かれている。全て嘘のような本当の話、故に面白い。

正直、この映画の冒頭からかなり笑った。
恐らく私の笑点のズレもあるだろうが、過激で悪魔的な事を本気でカッコいいと言い出す彼等は半分本

もっとみる
映画『LAMB』

映画『LAMB』

2021年のアイスランド・スウェーデン・ポーランド合作の映画。

ある日、アイスランドで暮らす羊飼いの夫婦が羊の出産に立ち会うと、羊ではない“何か”の誕生を目撃する。2人はその存在をアダと名付け育て始める。

北欧の映画らしく登場人物も少なく、控えめな心理描写で静かにストーリーが展開してゆく。
台詞も少なく、目線や表情で何が起こっているのか想像させる演出も自然な不気味さを感じ取れて、想像力をかき立

もっとみる
映画『娘は戦場で生まれた』

映画『娘は戦場で生まれた』

シリア、アメリカ、イギリスで製作された2019年のドキュメンタリー映画。

アレッポに住むジャーナリスト志望の学生・アワドが2011年のアサド政権に抗議するデモ活動をスマートフォンで撮影をした事で始まる内戦の記録である。

この映画には実際の負傷者や死体が登場するシーンが多々ある。
しかし、それが日常の当たり前の風景だとグロテスクな恐怖心よりも、意外と淡々とした映像に見えた。
演出された映画では必

もっとみる
映画『プラットフォーム』

映画『プラットフォーム』

2019年公開のスペイン映画。

くだらないホラー映画を観たいと思っていたのに、サムネイル画像の洗練されたデザインに惹かれて観る事にした。
結果、想像超える秀作だった。

部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が"プラットフォーム"と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかない。
主人公の男性はあ

もっとみる
映画『ムーンライト』

映画『ムーンライト』

2017年のアメリカ映画。

アカデミー賞を受賞して話題に上ったこともあるようだが、実際にこの映画を観たら納得できる。
ただの『LBGT』を描いただけでもないし、ただの『ブラックムービー』ではない。それぞれの心の中にある弱い部分、曖昧な部分に響くようなヒューマンドラマである。

恐らく90年代のアメリカ・マイアミの低所得者住宅に薬物中毒の母親と暮らす少年・シャイロン。子供の頃から弱弱しいと言われ虐

もっとみる
映画『mid90s』

映画『mid90s』

2020年のアメリカ映画。

90年代のロサンゼルス。母親と家庭内暴力を振るう兄と暮らす13歳の少年のストリートを舞台にした青春を描いている。

90年代カルチャーを比較的リアルに表現されていると思う。BGMもファンクやソウルを元ネタにしたHIPHOPが流れていたり、友人宅でのハウスパーティーとか当時のライフスタイルが描き出されていて、登場人物と同じ気持ちを共感できる。

確かに当時、いや、今でも

もっとみる
映画『THE GUILTY』

映画『THE GUILTY』

2018年デンマーク映画。

兎に角、この映画はすごいと思った。
地味に見えるほど無駄を省いた演出だからこそ、人間の心情が伝わってくる。

警察官であるアスガー・ホルムはある事件から現場から離れ、緊急通報司令室のオペレーターとして勤務していた。
ある女性から誘拐されそうになっているという通報を受ける。電話越しに聴こえる車の発信音、切羽詰まった女性の声、子供の声…、目に見えない情報を頼りに事件の解決

もっとみる
映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』

映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』

2017年のイギリス・アイルランドの映画。

『籠の中の乙女』や『ロブスター』を監督したヨルゴス・ランティモスの作品の割にはファンタジー感は少ない。
しかし、現実的な設定、描写であるが故に忍び寄る恐怖と狂気を感じざる得ない。
比較的有名な映画なので、主なストーリーの流れは検索したらすぐに上がってくるだろうから割愛する。

催眠的な心理的要素と呪術的なオカルト要素が存分に描写されているように感じられ

もっとみる
映画『Bo 堕ちていく少女』

映画『Bo 堕ちていく少女』

2013年 ベルギーの映画。

 ざっくり言ってしまうと、家庭にやや問題のある少女の援助交際の話。
何処の国でもよくある出来事だとは思うが、それを1人の少女にフォーカスして描いてる。
よくある話であってもそれぞれの当事者は様々な気持ちになったり考える事は数多くあると思う。
 
ベルギー映画は初めて観たが、かなり英語に近い単語が多くて意外だった。
そして、主人公の少女がとても可愛い。

本来ならドロ

もっとみる
映画『残酷で異常』

映画『残酷で異常』



2014年のカナダのホラー映画。

軽い気持ちで変なホラー映画を観ようと思って雑な邦題のこの作品をチョイス。
完全に期待を裏切られて驚きを隠せない。勿論、良い方に。

妻を殺したとして不当に非難された男が謎の施設で妻の死を永遠に追体験することを宣告される事からストーリーが始まる。

記憶を紡ぐように断片的なパラレルワールドを延々とリピートして行き来し、何故妻を殺してしまったのか、その背景をじわ

もっとみる
映画『ボーダー 二つの世界』

映画『ボーダー 二つの世界』

2018年のスウェーデン映画。

ジャンルとしてはホラー映画に分類されているが、深みのある心理描写がヒューマンドラマとして充分に見応えがある作品である。

確かに設定には不思議な部分もあるが、それが私には差別問題等の違う事柄の比喩にすら思えた。

人と違う容姿や身体的な問題の苦悩、同居する異性との関係、父親の介護や心の擦れ違い、自身の出生についての謎、心を開いた人との問題…。

心理面のリアルな描

もっとみる