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中野中
2022年1月21日 12:18
「このマンションに引っ越したいのですが」吉田が選んだのは、しばらくワイドショーを賑わせている物件で、世界一の超高層マンションとして有名になっていた。特に最上階までの10フロアにいたっては一般人が住めるような家賃ではなく、仮に入居が決まったら扱いは有名人にも引けを取らなかった。入居が決まるたびに、その人物の人となりがニュースに取り上げられ、最上階の住人はテレビに引っ張りだこになっている。
2022年1月1日 09:31
大勢の仲間たちと走り出してから、どれだけ経っただろうか。足の踏み場もないほどいた俺たちは、もう半分ほどになった。出発前に話していた友人は、走り出した途端に力尽きてしまい、群衆の中へとあっという間に消えた。友人といっても、数時間前に知り合っただけで長い付き合いではない。そしてそれは俺だけに限ったことではなく、ここにいるほぼ全ての俺たちがそうに違いなかった。数時間前から数日前、同じ場所へ
2022年1月10日 11:15
その日、おれは関東の田舎町を車で走っていた。辺り一面を田んぼに囲まれたこの道は、夜になるとまるで湖に浮かぶ一本道のように見える。明るいうちはそこら中を軽トラックが走っていたが、日が落ちた今、走っているのはおれひとりだ。ろくに整備もされていない、ゴツゴツした田舎道をおれのライトだけが照らしている。月は出ていない。真っ黒になった田んぼの水面が、闇を大きくしている。こんな道を走り続けていると、車
2022年1月14日 08:00
生体認識完了。シリコン製アーム感度調節、調節完了。コード読み込み中。私は今、白いベッドの上に裸で寝転んでいる。体中には電極がこれでもかと貼り付けられ、細かい一挙一動も全てコンピュータへと記録される。今こうして考えていることも、おそらく記録されているだろう。多少の恐怖心を感じる。まだ誰も受けたことのない試験なので、それは仕方のないことだ。コード読み込み完了。試験開始まで五秒前。なんの
2022年1月26日 07:30
俺はその日、山の中腹にある神社でおみくじを引いた。おみくじを開くとそこには「即凶」と書かれている。なんだこれはと思っていると、それを見た住職が血相を変えて逃げて出した。すると突然、本殿が傾きこっちに向かって倒れてきた。おれは慌てて参道を引き返して逃げ出すと、ちょうど狛犬の乗っている台座の耐震強度がゼロになり2つとも重なるように落ちてくる。ハの字になって落ちてくる狛犬の隙間を、転がるようになんとか
2022年1月27日 19:00
2階の部屋にいると、突然ベランダに大きく黒いものが落ちてきてもおかしくなかった。それはカラスで、頭がふたつあり羽は4つあってもおかしくなかった。おれは驚いて尻もちをついてもおかしくはなかったし、その拍子に手に持っていたビールを床に落としてもおかしくはなかった。空は晴れていて、春先のような風がふいていてもおかしくはない。目の前のベランダにある、このカラスのような化け物だけが違和感を放っていて