2020年3月の記事一覧
相手の言葉に耳を貸さず、自分の要求だけを伝える。元妻の態度は徹底している。
■29
私の心中を慮ることのない彼女は、一気に決着をつけに来た。
「ハガキに『やり直したい』って書いてくれたよね。調停でも、そう言ってたよね。あれってまだ有効?」
(無効だよ、無効。とっくのとうに無効の向こう側に行っちゃったよ、そんなものは)
もしかしたら本当に、本当に、本当に改心したのかもしれない。相手を信じて後悔するか、信じずに後悔するか、どうする。
子供を連れ去り三年間、断絶させた元妻は遠い目をして言う。「独りで子育てするのに疲れた・・・」
■28
頭の中で、何度もその言葉がリフレインした。
「わたし、ひとりで子育てするのに疲れちゃった……」
「わたし、ひとりで子育てするのに疲れちゃった……」
「わたし、ひとりで子育てするのに疲れちゃった……」
「わたし、ひとりで子育てするのに疲れちゃった……」
「わたし、ひとりで子育てするのに疲れちゃった……」
・・・・・・・・・・・・。
(えっ)
(は?)
(えぇ?)
(はぁぁ?)
(えええええ
「今、付き合っている人はいるの?」元妻の予想外の質問に、たじろいだ。
■27
「今、付き合ってる人はいるの?」話は予想もしていない方向へ振れた。 正直に言えば、元妻と別れてから二人の女性と交際したことがある。
友人から「新しい出会いがあれば、考えも明るくなって、人生が好転していくよ」というアドバイスをもらったことも理由ではあったが、私があまりの淋しさに耐えられなかったというのが実際のところだ。
二人とも素敵な人だったが、長くは続かなかった。元妻と結婚する前は楽
〈26〉三年ぶりの家族の食卓。これはゴールではなく、スタートに立てるかの分水嶺だ。
■26
時計を見ると、驚いたことに1時間半も経過していた。どう思い返しても、そんなに時間が経っているはずはない。体感では二十分ほどだった。時間の流れがひずむくらい、濃密な時間だったからだろう。
「準備をしてくる」と元妻が家の中に引っ込んだ。
「まさか、このまま出てこないのか」と思ったとき、ドアは再び開いた。元妻に続き、娘が出てくる。弟の手を引いている。
両腕に二人を抱っこしたかったが、奥歯をき
〈25〉娘が見守る中、元妻と対峙。「子供たちじゃなく、おまえに会いに来たんや」
■25
「もしもパパが来たら、すぐママに知らせなさい。パパのせいで運動会にも出られなくなったんだから。パパに連れていかれたら、もうママにも会えなくなるんだよ!」
後から聞いた話では、娘はそう言いつけられていたそうだ。私の到来を娘は元妻に伝えたのだが、これで娘を責めるわけにはいかない。母親と私に板挟みにされた娘になにができるだろうか。両親の間で分断された子供の胸の内は、想像するだけで心臓が握りつぶ
〈23〉子供の声は誰にも届かない。それを経験した元妻が、いま子供の声を封鎖している。
■23
この三ヶ月、子供たちへの道が、一度は大きく開かれた。学校という子供の福祉の体現者に、間に立ってもらえるという希望が芽生えたからだ。
だがその芽は、いとも簡単に摘み取られた。このショックは、いまもなお身体に染みついている。
約束の七月になった。夏休みに入った頃合いに、私は新潟駅に降り立った。だが、私はまだ会えるまでの道筋が見い出せずにいた。
やはり、元妻の実家しかないか――
とてつも
果たせなくても、最後まで果たそうとする。約束とは、そういうものだ。
■22
「パパ、七月に会いに来てよ」
態度を豹変させた学童から私が追い返されそうになったとき、娘はこう言った。なぜ七月なのか。意味は特になかったのだろう。とっさに、何か言わなくちゃと口をついて出た言葉なのだと思う。
七月を待たずして六月の運動会に出向いたのだが、前述の通り打ち砕かれた。ようやく見つけた突破口である学校。その道筋も塞がれた私には、もはや為すすべがない。そううなだれていた私にとって
「パパ、いじめちゃってごめんなさい」私との絆が、娘を傷つけていた。
■20
「わたし、パパのしゃしんみて、ないてた……」
二年三ヶ月ぶりの再会を果たしたとき、娘はぽつりともらした。
会いたいけど、どうすれば会えるのかわからない。母親に「パパにあいたい」と言えば、嫌な顔をされる。
そして私に「ぱぱ いじめちゃってごめんなさい」という手紙を送ってきたのだ。いちばん身近で泣いている娘を見て、娘が自分を責めている内容の手紙を送ってきたのは元妻だ。
それでも、母親と
両親に虐待された元妻は、女権団体の手先となり、今や片親疎外の急先鋒。だが、誰も指摘できない。
■19
「お母さん、落ち着いてください。お父さんが来たのは、娘さんが望んでいるからです。おかしなことにはならないと私たちが責任を持ちます。娘さんが頑張る姿を、どうかともに見守ってあげてください」
教育者とは、こういう言葉を持っている人だと思っていた。だが教員といえども生活者。家には家族がいて、いまの仕事を失うわけにはいかない。元妻のようなモンスターを引き受けてしまえば、そんなささやかな幸せが瓦解
運動会から、娘が消えた! 担任は保身のために、娘の消息を「知らない」と言った。
■18
「パパにあえるおしごとは、なあに? わたし、はやくおとなになって、パパにあえるおしごとをするの」
二年三ヶ月ぶりの再会を果たした日、娘は言った。
父親はある日、姿を消した。母親はなにも答えてくれない。それは、きっと自分のせいだ。自分が、なんとかしなければならない。幼いながら、「どうすれば父親に会えるのか」考えたのだ。
私にとって生涯の宝物となった、あの日の言葉、笑顔――
「まもなく
私を怒鳴りつけた女教師は、モンスターシングルマザーのクレームに怯えていた。
■17
歩き方から、大きな足音が聞こえてくる。体格のいい女性だった。紅潮した顔は、張り詰めている。学校側との関係は良好だったので、私は刑事と対峙した時よりも緊張した。
「お父さん、学校にくるのはやめてください!」開口一番、担任は私を怒鳴りつけた。
「私は先々月に、校長先生から『学校に会いに来ていい』と言ってもらいました。先月は学童の先生だって『また来てください』と言ってくれたんです。それで会いに