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『写真で描写』シリーズ

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撮った写真から思いついた小説っぽい一節。想像できるような、できないような。いつかこの続きを書く。#写真で描写
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山の途中

山の途中

 暇つぶしに故郷の田舎を散策していたら、いつの間にか山道に入ってしまった。
 舗装されていた道路もすっかり土と葉だけになって、なんなら木の根でできた段差で息が切れ始めている。

 しばらくして、景色が開けた。
 眺めがいいとは言えない。見渡せるわけでもない。ただの山の途中。
 こんなところなんかあったのか。いや、あってどうなるわけでもないか。まるで意味のないことをつぶやく。風が木を揺らす音と、鳥の

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加速する

加速する

 バタバタと追われるように新年を迎えて、それからずっとバタバタしている。日が沈んで終わって、昇って始まる毎日の延長で、また一年が過ぎてしまった。

 散らかったものは散らかったまま。もやもやは晴れないまま。片づかずにいるいろいろなどうのこうのはほったらかしにしたまま。
 できないまま。見えないまま。変われないまま。今年こそは。今度こそは。明日こそは。今日こそは。くりかえし。くりかえし。

 すでに

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透明

透明

 寒いね、と笑う。
 寒い寒いって、ふたりで言いあって。

 それは寒いのがおかしいんじゃなくて。
 冷たい空気はどうでもよくて。

 きみとの時間を感じたんだよ。

休まる場所

休まる場所

 旅行が好き。

 行ったことのない場所。はじめての景色。遠くでも近くでも、暮らしから抜け出して日常を切りはなすことができる。
 おいしいものを食べて、お風呂にも入って、いつもより少しお金も使って、それまでのあれやこれやだっていったん置いておく。

 それでもさ。あれだけ楽しかったのに。あんなに帰りたくないと思ったのに。
 なんだかんだ言っても、家の布団が一番安らぐんだよな。

 明日からのいつも

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見つける

見つける

 流れる川のところで見つけたとり。

「あ、いた」なんて思ってできるだけ近づいて、カメラなんか構えちゃったりもして。だけど動くから全然うまく撮れなくてもたもたする。

 そんなことをしていると、ひんやりした風を感じて、いつの間にか川の音に心を奪われている。

 これからの予定も「まぁいいか」とほったらかしにして、しばらくの時間をここで過ごしてしまうんだ。
 何かとせかせかするから、どこかでひと息つ

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雲の切れ間に

雲の切れ間に

 やまない雨はないけれど、今降る雨がわたしにとって大事な。
 そんなふうに言ったって、雨が好きになるわけでもない。

 何もすることがなく、ただ机に突っ伏している。言葉にならない考えごとを頭の中でぐるぐるまわしながら、はやく今のこの時間が過ぎてくれればなぁなんて思うだけ思う。
 一秒一秒進むだけでなんだか疲れる。楽しいこと一つでも降ってきたらいいのになぁ。

 この空はいつまでも、この空の下を濡ら

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写真で描写『風の中』

写真で描写『風の中』

 行きたいところはだいたい行った。食べたいものも、やりたいことも。長く付き合っていればネタ切れにもなってくる。

 マンネリと言われればそうなのかもしれない。

 どこでもいい。なんでもいい。二人とも旅行は好きだけど、楽しみ方はもう決まってきている。

 何か話すでもなく、この静かな風音の中をただ歩く。横を見れば君がいる。穏やかな時間は続いている。

写真で描写『これがいい』

写真で描写『これがいい』

 おしゃれなカフェでくつろぐのもいい。高級フレンチレストランでのディナーもいい。テーマパークで一日中遊ぶのもいい。
 動物園も、水族館も、美術館も博物館もいい。
 二人だけの時間が長くなるドライブも、温泉宿も最高だよね。

 特別って、探せばいくらでもある。

 だけど、きみとの一日は特別じゃないことも大切で、やっぱりこれがいいなって思った。

 近所のチェーンでお昼を食べて、すぐに帰らず少し遠ま

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写真で描写『遊ぶ』

写真で描写『遊ぶ』

 家の近くには、小さな公園がある。

 彼と二人で散歩をする時にいつも立ち寄る場所だ。ここはわたしたちのお気に入りの場所だった。なんてことない、ただの公園。何をするでもなく、すみっこにあるベンチに座って同じ時間を過ごす。

 思えばわたしたちは座ってばっかりだ。家のソファーにも、浜辺の石段にも。横に並んで座るのが、きっとわたしと彼の遊び方なんだ。
 わたしはそれが好きでたまらない。時間がゆっくり流

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写真で描写『ここ』

写真で描写『ここ』

 空にはうっすらと、雲が浮かぶ。
 青空を青いまま残して、昇ってくる太陽の光がそれを白く覆っている。

 ふわっとラップをかけるように。
 二つの間に膜を張るように。

 肝心な部分を隠している。
 大切なものを見えなくしている。
 こぼれそうになるのを塞いでいる。

 わたしは何かに目を背けている。蓋をしている。
 開けようとして少しでも動かすと、きっと崩れて落ちてしまう。
 そしてきっと、それ

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写真で描写『変わること』

写真で描写『変わること』

 こういう景色、あと何回二人で見られるんだろうね。

 そういう話をして、この季節が何回過ぎたんだろう。あの時から変わらない景色を、僕はあの時から変われないまま、懲りもせずに考えている。

 あぁ、でも。

 あの時よりも、今の景色の方が綺麗なのかもしれない。とにかく、僕は君と一緒にいることができなかった。

 前に進もう。前を向こう。そう思って歩き続けてきたはずなのに。

 考えることを放棄して

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写真で描写『通りすぎる』

写真で描写『通りすぎる』

 つい先日まで夏服を着ていた気がする。
 なんだか寒くなってきたな、と思っていたら、いつの間にかコートを着て町を歩くようになっている。

 そうやってあっけなく季節が過ぎていくんだよな。わたしは気づけずに、置いていかれる。
 毎日毎日、一日一日を過ごす。一生懸命になって、時々立ち止まって、そんなのを繰り返す。気を抜くと秋の風に吹かれて枯れてしまう。

 いつもそう。
 わたしは秋が過ぎるのに気づか

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写真で描写『ふさぎこむ』

写真で描写『ふさぎこむ』

 近頃ずっと外に出ていなかった。

 だからなのか、なんとなく生活の勝手が分からなくなっている。道を行く人も、車も、電線の鳥も、自分より少し先の時間を進んでいるような、そんな感じがする。いや、自分が置いていかれただけか。

 刺激がないから面白みがない。どんどん心が腐っていくから、少しの刺激じゃ面白みを感じない。何もしちゃいないのに、何かに飽きてしまった。

 それにしても、空ってこんなに暗かった

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写真で描写『隣の景色』

写真で描写『隣の景色』

 自転車の帰り道。

「先に行ってよ」って言われるから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。

 道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。

 君と横に並ぶのに必要なのは、道の幅か。それとも勇気か。

 景色はまだ、遠くて広い。

――――

 ちょこっと加筆して、もう少し小説っぽくしたやつ

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