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”思いつき”定義集Ⅰ

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「定義集」「アフォリズム(箴言)集」といったジャンルは文芸の一領域として夙に確立されています。マルクス・アウレリウス、ラ・ロシュフコー、アランなど、優れた古典が読み継がれているこ…
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”思いつき”定義集㊺「わ・を・ん」

”思いつき”定義集㊺「わ・を・ん」

【わたし】エゴ(自我)。人間は自己を中心に「世界」を見渡す実存。その意味で「わたし」とはエゴイストである。「わたし」を土台として「世界」は成り立つ。ここでの「世界」は世界情勢といった意味で用いる世界(the world)のみではなく、「わたし」を「わたし」たらしめている「世界(the surroundings)」。なので実際の世界の見え方は微細であれすべて異なる。その違いこそが「わたし」の存在を証

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”思いつき”定義集㊹「れ・ろ」

”思いつき”定義集㊹「れ・ろ」

【レジスタンス】抵抗のための思想と運動。21世紀の今日では哀愁をさえ感じさせる。レジスタンスの対象は、校則を理由なく押し付けるだけの学校など身近なところから、暴力で人びとを抑圧する国家まで数多ある。しかし使用頻度は極端に低く、また成功を導くような世情にはない。弱者が強者になびくのはごくありふれた光景だが、敗北を承知してさえ強者に噛みつく人たちもいる。直近で言えば、殺されたロシアのアレクセイ・ナワリ

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”思いつき”定義集㊸「る」

”思いつき”定義集㊸「る」

【ルサンチマン】いわゆる弱者による強者に対する恨みと妬みを言う(ニーチェにおいては欠かせないキーワード)。このネガティヴな感情には落とし穴がある。
 第一に、無意識のうちに自身を弱者にはめ込み強者を措定する(内在化する)ことで弱者であり続けてしまうこと。もちろん「弱者」それ自体も相対的概念ではあるが、いわば自己充足的予言(self-fulfillment prophecy)の罠に足をすくわれかねな

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”思いつき”定義集㊷「り」

”思いつき”定義集㊷「り」

【利他(主義)】「情けは人のためならず」と言う。事実、利他的行為を偽善と呼ぶ人もいる。しかし悪よりはるかにいい(そもそも偽善とは証明不能な他者による評価・揶揄に過ぎない)。
 人は他者への貢献によって喜びを覚える。それへの応答や謝意を示されればなおのこと。これを否定する正当な理由は全くない。むしろこれこそ良質なコミュニケーションである。刹那であれ全力で利他的であることは結構大事。
 「愛」が成立す

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”思いつき”定義集㊶「ら」

”思いつき”定義集㊶「ら」

【落胆】人生にはつき物。悔恨を伴う。ただし同様の事態にあっても、“鈍感な人”の場合、落胆の度合いは小さい。(たぶん)その方が幸福だろう。“繊細な人”ほどその度合いは大きくなる。いずれにしても程度を制御することはできない。なので、その緩和の薬になるのは時間と、せいぜい周囲の人に頼ること。弱音は吐くためにあるので吐き続けていればいずれは尽きる。また悔恨は自身に必要な糧であると思い込むこと。
 凹んだ時

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”思いつき”定義集㊵「よ」

”思いつき”定義集㊵「よ」

【要領】人の素行をめぐって使われる場合、意味合いには両面がある。要領の良い人と悪い人。それぞれに両義的でもある。
 例えば「要領よく(きっちり)仕事をこなすが評価されない人」もいれば「要領よく出世するが仕事はさほどではない人」もいる。前者は尊敬されるかもしれないが後者はやっかみの種となる(その逆もある)。また「どんくさくて要領の悪いヤツだが憎めない」というパターンもあれば「要領の悪いヤツ!」と詰ら

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”思いつき”定義集㊴「ゆ」

”思いつき”定義集㊴「ゆ」

【優生思想】人間の序列化・格付けを是とする信仰の一種。強烈な自己保存の歪な顕れか、あるいは自己の弱さの隠蔽化のためか、この「思想」は正当化され多くの人たちを魅了してきた。とまれ、独善性の賜物であることは断言していい。
◆注①:ナチス=ドイツによって喧伝、受容され、その帰結としてホロコーストに至った史実は忘却を許さない。もっとも、目下進行中のユダヤ人によるパレスチナ人殺戮への実行と加担も思想的には同

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”思いつき”定義集㊳「や」

”思いつき”定義集㊳「や」

【やばい】(主に口語)①うしろめたい出来事への素直な反応。「まずいことになったなぁ」。②肯定的、好ましい出会いへの素直な感動の発露。「これヤバい」(旨い、かわいい、きれい等)。
 いずれにしても率直な反応の発露で、その利便性には「優」を付けたい。取り繕うだけの応答を含めると「可」。が、常に「舌足らず」。やはり語彙は豊富であるのがベターでは? 言語によるコミュニケーションは2割程度とされているので目

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”思いつき”定義集㊲「む・め・も」

”思いつき”定義集㊲「む・め・も」

【無理】「無理無理、絶対無理」というパターン。比喩を除けば無限にある――世界征服、ペンギンの飛翔、カメの逆立ち。道理ならぬこと、諦念を示唆するが、それを承知で乗り越えてほしいのが地震の予知。
 「無理せずに」。これには親の子への配慮や危険への警鐘などあるが、普遍的な真理がある。すなわち凡庸を重んじること。人の行ないには適当でいい場合もある。
 「無理矢理」など強制に通じるもの。これは主体と客体が前

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”思いつき”定義集㊱「み」

”思いつき”定義集㊱「み」

◆注:この項目「み」は修正しました。

【ミソジニー&ミサンドリー】それぞれ女性嫌悪と男性嫌悪。レイプや虐待など何らかの事由による生理的反応である場合を除き、無差別の”性癖”である限りにおいて質が悪い。アプリオリに「○○人だから嫌い」と言う偏見と同様。なかでも問題は嫌悪の感情がフラストレーション解消の道具となっている場合。広義のヘイトクライム(憎悪犯罪)に及ぶ危険を伴う。ある対象への憎悪と攻撃こそ

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”思いつき”定義集㉟「ま」

”思いつき”定義集㉟「ま」

【マイノリティ】少数派を意味するので「弱者」を想起するのが一般的。間違いではないが正確でもない。確かに、いわゆる性的マイノリティ(LGBTQ etc.)や障害者、宗教的マイノリティなどは差別や迫害の歴史を持つし、今もその対象であり続けている。
 ただ、宗教的マイノリティによって統治される国家もあるし(かつてのイラク、現在のアサド政権下のシリア)、アメリカのようにマイノリティではあるが甚大な影響力を

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”思いつき”定義集㉞「ほ」

”思いつき”定義集㉞「ほ」

【暴力】物理的強制力のほか、目に入りにくい色々な形態がある。構造的暴力(前回「へ」)以外にも種々の社会的排除(ハラスメント、ネグレクトなど)のバリアントがある。まずは逃れるのが先決(子どもには難しいかもしれないが)。そして助けを求める。捨てる神あれば拾う神あり。それを信じるだけの社会的基盤は存在する。
◆注:例えば「パワハラによる自殺者数」を特定するのは困難だが「勤務問題」で見ると遡る10年で20

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”思いつき”定義集㉝「へ」

”思いつき”定義集㉝「へ」

【平和】基本の「キ」は国家間戦争のない状態。概念として平和を規定するには古すぎるが、これさえ実現していないのが現今。これを消極的平和として積極的平和を唱えたのがヨハン・ガルトゥング。つまり、人びとが安全安心を得られない状況――貧困、差別、抑圧を克服してこその平和。首肯せざるを得ない。
 戦争のない豊かな社会に生まれても、例えばDVに脅かされている、あるいは引き込まざるを得ないほど痛みつけられた人に

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”思いつき”定義集㉜「ふ」

”思いつき”定義集㉜「ふ」

【不条理】道理が踏みにじられること。何が道理か判然としない場合もあるが、例えば体罰、強盗目的の暴力、種々のハラスメントなど、余地なき不条理は今も尽きない。
 そもそも、生それ自体が不条理と言えなくもない。黒人が差別される社会の極貧家庭に黒人として生を受けた子ども、女性ゆえに学校へ行けない社会で女性として生まれる――実例には事欠かない。
 もとより不条理を撥ね退けるべく死闘してきた「善人」は多数存在

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