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”思いつき”定義集㉜「ふ」

【不条理】道理が踏みにじられること。何が道理か判然としない場合もあるが、例えば体罰、強盗目的の暴力、種々のハラスメントなど、余地なき不条理は今も尽きない。
 そもそも、生それ自体が不条理と言えなくもない。黒人が差別される社会の極貧家庭に黒人として生を受けた子ども、女性ゆえに学校へ行けない社会で女性として生まれる――実例には事欠かない。
 もとより不条理を撥ね退けるべく死闘してきた「善人」は多数存在してきた。それゆえの現在である。にもかかわらず「善人」は概ね早死にする(殺されてきた場合も)。少なくともアウシュヴィッツではそうだった――その旨を体験的に叙述したのはフランクルだったかレーヴィだったか。
◆推し文献:レティシア・コロンバニ『三つ編み』(早川書房、2019年)、ブレイディみかこ『両手にトカレフ』(ポプラ社、2020年)、キム・ボヨン『どれほど似ているか』(河出書房新社、2023)。

【付随的損害(コラテラル・ダメージ)】軍事作戦における民間人の巻き添えの死傷。紛うことなき殺傷行為だが責任を問われることはない。戦闘員への攻撃でより多数の民間人が犠牲になることの方が多い(1990年代以降で挙げれば、ソマリア、セルビア、アフガニスタン、イラクなど)。そして現下のイスラエルの作戦はその典型例(「自分が生きのびるためには殺してもいい」らしい)。
 ちなみに「誤爆」による殺戮では賠償金がわずかに支払われたことはある。その際も決定的な証拠とメディアの力が必要。ほとんどが泣き寝入りであることは言わずもがな。
◆参考文献:軍事作戦とは離れてしまうが、ジグムント・バウマン『コラテラル・ダメージ』(青土社、2011年)がある。いわば社会経済的な「付随的損害」への批判的考察である。人を蔑ろにして痛めつける社会を俎上に挙げているでは共通している。

【文学】(近代以降)人間への洞察にもとづく人間のための物語。想像力こそは作品の源泉。その想像力が人間の営みに加勢し得てきたことだけは断言できる。
 良書を読むにも人生は短かすぎる。みたいなことをショーペンハウエルは言っていたが、もとより教訓無用。作品を楽しむこと。面白ければそれでいい。
◆参考文献:伊藤整『小説の方法』(筑摩書房、1989年)、本多秋五『物語戦後文学史(上中下)』(岩波同時代ライブラリー、1992年)、高橋源一郎『ニッポンの小説――百年の孤独』(ちくま文庫、2012年)。
◆推し文献:シリーズ『新潮日本文学アルバム』(いっぱいあるが古いので気になる作家をターゲットに)、池澤夏樹=個人編集『世界文学全集』(河出書房新社)など。


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