機関投資家との対話でも、DEIは企業経営にとって避けて通れない時代。“異才”を尊重し合うことは成長のドライバーになる | セーフィー株式会社
「フェアな労働市場をつくる」をミッションに掲げるXTalentは、DEI向上を目指す企業を対象としたアンコンシャス・バイアストレーニング(以下、UBT)を提供しています。
様々な企業のDEIの在り方にフォーカスし、広く社会に発信することを目的にした「#DEIのカタチ」シリーズとして、UBTを受講したセーフィー株式会社 取締役 経営管理本部本部長 兼 CFO 古田 哲晴氏、ESG推進室 部長 中内 陽子氏、ESG推進室 松本 舞氏にインタビューし、同社のDEIへの向き合い方やUBTの感想、他企業へのメッセージを伺いました。
事業特性によって育まれた、
”異才”へのリスペクト
ーーセーフィー様では、どのような姿勢でDEIに向き合ってこられたのでしょうか。
古田:当社には、以前から多様性を尊重するカルチャーが浸透していました。そのカルチャーを表す「異才一体」という言葉があります。お互いの才能を尊重し、コミュニケーションをしっかり取り、皆でサービスを提供していくとの意味が込められているものです。
このカルチャーは、防犯カメラ・クラウド録画サービスの事業特性によって育まれたと捉えています。当社のサービスは、ハードウェアのエンジニアやAI技術者、設置工事の技術者、倉庫管理担当、営業担当など多種多様な能力をもった人たちの協力が不可欠だからです。
こうしたDEIの土壌はあったものの、企業規模が大きくなるにつれ、経営陣も含めた社員のダイバーシティをさらに担保していかなければ、中長期的な競争力を維持するのは難しいだろうと考える場面が増えていました。そのため、社員数が300人に届こうとしていたタイミングでESG推進室という専門部署をつくり、組織としてDEIも含めてサステナビリティを推進する体制を整えたのです。
ーー2021年の上場を機に、DEIへの意識に変化はありましたか。
古田:大きな意識の変化はないものの、機関投資家などと話をする中で、DEIは企業経営にとって避けて通れないものだと肌で感じるようになりました。
特にESGの先進地域であるヨーロッパのファンドは、投資のポリシーにESGスコアの基準を設ける傾向もあり、私も具体的な取り組みについて質問を受けた経験があります。当社はまだ上場直後であり、グロース市場にいる企業ですので、ESGの具体的な取り組みは「行っている施策の内容を伝える」という粒度しかできておらず、その点も含めて投資家からのESGの評価は[n/a]となっております。
今後市場からは定量的なデータも含めた、しっかりとしたESG開示を求められると想定しておりますが、投資家から当社のようなステージに対するESG進捗の期待値もまだ低いため、実際にそのような要望を現時点で受けているわけではありません。今後、しっかりとESG開示を充実させていくと、期待値とともに要望も上がっていくと想定しております。
ただ、当社は上場対策としてDEIを推進してきたわけではありません。上場以前から、持続的な事業成長には社員の多様性が欠かせないとの認識を経営陣がもっていました。ジェンダーや年代、国籍、バックグラウンドが多様な組織は、意思決定の精度が高まり、スピード感をもった事業成長が実現できると思うのです。たとえば業務ツールの導入ひとつとっても、管理職だけで決めるのではなく、デジタルネイティブ世代の社員の意見も取り入れた方がより良い選択ができるでしょう。中長期的な時間軸で経営を捉えると、社員の多様性は必須だと思っています。
働きやすさのカギは、
社員の家族まで大事にする風土
ーー社内向けのDEI推進策としては、どのようなことをされていますか。
中内:社員がより働きやすい環境をつくることや、職種ごとの専門性が高いからこそ他部門と交流する機会をつくることを意識して、経営管理本部が中心となって各種施策が実施されています。
その一例が、毎月の「ワークライフ座談会」です。月ごとに「ヘルスケア」や「ワーキングペアレンツ交流」などテーマを決め、興味のある社員が自由に参加して情報交換をしています。その他にもランチ費用の補助制度や、新入社員研修において相互理解を深めるワークを実施するなど、さまざまな取り組みがあります。
松本:私はセーフィーへ入社してからまだ半年ほどと日が浅いのですが、お互いを知り、尊重する文化があることを感じます。さまざまな施策を通して、他部門の方と交流できるのはとてもありがたいです。
また、それぞれが家庭を大事にしている雰囲気も感じています。私を含め育児中のメンバーはスケジュールに「子どものお迎え」などと予定をオープンにしている方が多いので、私も気が引けることなく育児に時間を割くことができています。
古田:私は、毎週水曜日の夕方以降は育児優先にしており、他のメンバーに共有するためにもスケジュールに入れていますね。
中内:古田のように、上層部が率先してワークライフバランスを取る姿勢を見せてくれると、現場のメンバーも、仕事と家庭の時間とを両立しやすくなる効果があると思っています。また、当社はワーキングペアレンツのサポートにも力点を置いており、最近では男性の育休取得者も増えてきました。
さらには、創業時から続く任意参加の社内行事として、社員とその家族が参加するバーベキューを開いています。家族も含めてセーフィーの仲間であるというカルチャーが根付いているのは、私が当社を好きなポイントのひとつでもあります。
マネジメント層同士が、
バイアスについて臆せず話せる関係に
ーーすでにDEIに関するさまざまな取り組みをされており、風土としても根付いているように見受けられるのですが、今回、マネジメント層にUBTを実施したきっかけや背景について教えてください。
中内:松本が前職でアンコンシャス・バイアスに関する研修を受けたことがあり、当社でも実施したいと提案をもらったことが最初のきっかけでした。私も過去に在籍していた会社で同様の研修を受けていて、日々のマネジメントに活かせる実感値があったんです。
当社の中長期的な成長を見据えても、新卒採用やグローバル展開を進めるこのタイミングでDEIの意識を揃えておくのは価値があると考え、部長以上のマネジメント層を対象に実施しました。
古田:私がUBTを実施したいと考えたのは、バイアスに対する現状を把握しておきたいと思ったからです。自分を含めた経営陣がそれぞれどのようなバイアスをもっていて、それが日々の判断にどう影響しているのかは普段の行動からは見えにくいので、サーベイで定量的にわかるのも魅力的に感じたポイントでした。
ーー古田さん、中内さんはUBTに受講者として参加されて、どのような気づきや学びがありましたか。
古田:概念は理解していましたが、トレーニングを通じて知識の再整理ができました。そのうえで、バイアスやその捉え方は十人十色だと感じたことが印象に残っています。マネジメント層がお互いを理解する重要な機会となりました。
受講後は、バイアスに対する感度が上がったように思います。カジュアルな会話においても自覚的になり、自然と言葉に出し合えるようになりました。今までだったら気に留めなかったであろう会話も「今のはバイアスが影響していたかもしれない」と一歩立ち止まって考えるようになりましたね。また、バイアスは自覚しにくく、忘れやすいものでもあるからこそ、意識する機会を増やしていきたいとも思っています。
中内:私も、古田と同じ感想を抱いています。そして当社のマネジメント層はバックグラウンドが多岐にわたっており、DEIに関する知識や経験もさまざまです。今回、一緒にUBTを受講して共通認識をもてたことは、今後の経営にも活きると思います。
ーー企画された立場として、中内さん、松本さんからUBTの感想をお聞かせください。
中内:UBT全体を振り返ると、DEIサーベイとトレーニングを組み合わせて実施できたことも有用だったと思います。全社員に実施したDEIサーベイの結果から、当社の社員は帰属意識が高いことがわかりました。社員を大切にする風土が社員自身にも伝わっており、当社の一員だと思ってもらえていると確認できたのはよかった点のひとつです。その一方で改善の余地がある項目も見えてきて、今後さらに会社をよくする方向性を考えるきっかけになりました。
また、受講者に対してUBTの1か月後に再実施したDEIサーベイでは、面接や1on1での発言に留意するようになったとの声が多く挙がりました。相手からバイアスのかかったコメントがあった際には、「こういう考え方もありますよね」と他の視点を提示できるようになったとのコメントも出ています。受講者それぞれが、自分の意識と行動の変化を感じているようです。
松本:経営陣がバイアスについて学び、実践する姿を見せることは社員へ好影響を与えると思い、UBTを実施したことやDEIサーベイの結果を全社員へ開示しました。
上層部が率先垂範することで全社へ根付かせることが期待できますし、サーベイは社員の皆さんの時間を割いて回答してもらったので、フィードバックがあった方が社員も得るものがあるだろうとの考えもありました。
さらには、この取り組みを社外にも発信していく予定です。
中内:当社は、情報を極力オープンにする姿勢を大切にしています。事業特性上、ステークホルダーが多岐にわたりますので、課題も含めて現状を明らかにすることで当社に共感してもらい、一緒に社会をよくしていくための協力を得ていきたいです。
DEI推進によって
社員のポテンシャルを引き出し、
経営の質を上げる
ーー今後のDEIに関する取り組みについて教えてください。
中内:当社ではサステナビリティの基本方針を定めており、その中に「多様な価値観や文化、プライバシーや人権を尊重し、誰もがチャレンジできる未来をつくる」というDEIを体現する文言を入れています。今後、DEIを含むサステナビリティの具体的な考え方を対外的に公表し、社内の理解を深める活動もしていく考えです。
また、定期的にサーベイやプログラムを実施し、社員が継続的に考えられる仕組みも整えたいと思っています。松本はアンコンシャス・バイアスの社内トレーナーの経験がありますし、他にも関連する専門性をもつメンバーが社内におりますので、そういった”異才”のタレントを活用しながら、全員で学びを深められる設計をしていきたいですね。
松本:全社にアンコンシャス・バイアスの認識を広める取り組みは重要だと考えています。誰にでもバイアスはありますが、それを自己認識できていれば仕事におけるチャレンジの幅も広がると思うのです。
たとえば、自分の能力を過小評価してしまう「インポスター症候群」があると理解していれば、チャレンジしたいことに躊躇する気持ちをマネジメントして、新しい行動に踏み出しやすくなります。社員のポテンシャルを最大限活かし、組織をさらに強くするという観点で、自分のバイアスを認識してもらうことは意味のある取り組みだと思います。
ーーこれからDEIに向き合う他の企業の方へ、メッセージをお願いいたします。
古田:組織内でDEIの意識を統一することは、時間のかかる営みだと思います。そのため、早い段階から経営陣で課題認識を揃えておくことを強くおすすめします。
たとえば、女性の管理職を増やそうとしている企業は多くありますが、外部から女性をいきなり採用しただけでは、既存社員の納得感は醸成されません。社内でジェンダーや年代を問わず管理職候補を育成し、成果を上げた人が登用されるという制度設計こそが重要ではないでしょうか。女性だから登用するといった逆のバイアスがない組織づくりによって、DEIは推進されていくと考えます。
こうした昇格制度をつくるにしても、株式市場などの外圧があるからやるのではなく、自社の成長にDEIは不可欠であるとの認識を経営陣がもつことで運用も進みやすいと思います。経営メンバーでDEIについて議論したり、トレーニングを受けたりする経験があるとよいのではないでしょうか。
また、私自身、ボードメンバー(取締役)に多様性があると議論の質が上がることを実感しています。当社の取締役4名はバックグラウンドがさまざまであり、さらに社外取締役や監査役も加わると、ジェンダーや年齢層の観点でも多様性が増します。社外取締役や監査役が入る会議は出される意見の幅が広く、議論のレベルが一段上がります。こうした私自身の経験からも、多様性を担保して、多くの視点から意見を出し合い、経営の意思決定をしていくことは重要だと考えています。
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ーSTAFFー
企画:筒井 八恵(XTalent株式会社)
取材・執筆:御代 貴子
撮影:森田 純典