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宝箱

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素敵だなと思ったもの、共感したもの、刺さったもの、を詰めた宝箱。 愛と尊敬を込めて。
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大学について

大学について

 23歳にデビュー作で芥川賞を受賞した村上龍は「二十代にしか書けない小説というものがある」と他著の解説内で書いた。歳を重ねると感受性が変わる。以前良かったと思っていた音楽や小説の嗜好が簡単に変わってしまう。過去の解像度が著しく落ちる。だから今のうちに思い出せる過去をすべて回顧しきらないといけない。明日になるともう二度と思い出せないものがあるかもしれない。美しい思い出の一つとして大学の四年間があった

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ワニの筆箱の彼

ワニの筆箱の彼

大学にワニの筆箱を持っている男の子がいる。

こういう一文を、一体私は何度noteで書いたことだろう。

もうそろそろ「ワニの筆箱の彼が…」という普通の書き出しで文章を始めても問題ないような気はする。でもこの「大学に〇〇な××がいる」という書き出し、結構気に入っているのでつい使いたくなっちゃうんだな。

(彼のことが書いてある記事はこちら↑)

このたび、今までは断片的に書くだけにおさまっていた彼

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遺書

遺書

葬儀には、自分の持っている中で一番お気に入りの服を着て、参列してください。喪服は禁止とします。

香典袋は、開けるときに楽しいので、可愛いキャラクターのポチ袋なんかにしてください。アンパンマンとかドラえもんとか。サンリオのだと、私がより喜ぶかと思います。中身は小銭だって構いません。ギザジュー100枚とかでもいいよ。見つけたとき、なんか特別な気分になるよね。

遺影に使う写真は、大学の卒業式の日、家

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熱帯夜は

熱帯夜は

馬鹿程、暑い夏だった。

「君もさ、クズになったらよかったんだよ。」

黒髪ショートの一つ上の先輩、僕の彼女はそう言った。
そして彼女は、元彼女になった。

「あ、これは置いていくね。この香りはもういいから。」
ボトル半分ほどになったDiptyqueのDo Sonを置き土産に、彼女は姿を消した。

「私ね、好きな人ができたら、その人っぽい香水を纏うの。お洒落でしょ? 君はねぇ、DiptyqueのD

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他人になっても世界で一番幸せになってほしい人の話

他人になっても世界で一番幸せになってほしい人の話

※約8000字あります※

これこそが運命の恋だと思ったあの人も、今ではすっかり思い出のアルバムの一ページに馴染んでいるし、あんなに大好きだったはずの声も匂いもいつのまにか思い出せなくなっている。案外そういうもんだ。

だけど、いつまでもアルバムの一ページに収めたくない人もいる。

思い返せば、あれは愛というよりは信仰だった。
この人を失ったら、もう生きている意味がないとさえ本気で思っていた。

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サブカルクソ野郎がした、花束みたいな恋について。

サブカルクソ野郎がした、花束みたいな恋について。

「花束みたいな恋をした」の二人が履いている"ジャックパーセル"は、私にとっての"オニツカタイガー"だった。

「花束みたいな恋をした」は、坂本裕二脚本の、今をときめく麦役・菅田将暉と絹役・有村架純の恋愛映画だ。説明もいらないくらい流行したけれど、この映画には主人公二人だけが分かり合える固有名詞がたくさん出てくる。好きな映画監督、好きな作家、そしてお揃いのスニーカー。このスニーカーは、ジャックパーセ

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