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都市・芸術・文化論

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図書館情報学の専門性に関するノート

図書館情報学の専門性に関するノート

(約5,200字)

 マルティン・シュレッティンガーが1808年から1829年にかけて刊行した著作『図書館学全教程試論』を起点に提唱した「図書館学Bibliothekswissenschaft」をルーツにする図書館情報学は[1]、一方で「知識」の解明と組織化を基本的姿勢としつつ、他方で20世紀後半におけるデジタル空間のインフラストラクチャー化に伴う情報技術の過剰な進化への対応のため、その視野を徐

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私達が皮肉なインスタレーションと化す——MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜感想

私達が皮肉なインスタレーションと化す——MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜感想

(約3,300字)

 就職活動が本当の意味でひと段落し、来年度から広島の大学で図書館職員をすることになった。日本を代表する大都市とは言え地方にIターンすることになったわけだが、実は自動車免許を何一つ有していない私にとって、免許取得が現在最大の課題となっている。3日前から免許についての情報を収集しつつ、明日以降で諸々の手続きを行う予定だ。いずれにせよ、今日は日曜日なので何もできない。約100日後に

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写真の「死」に触れる――「TOPコレクション セレンディピティ:日常のなかの予期せぬ素敵な発見」展について

写真の「死」に触れる――「TOPコレクション セレンディピティ:日常のなかの予期せぬ素敵な発見」展について

(約7,300字)

5月21日は、日付が変わった0時時点から動いていた。0時10分に京都駅八条口を出発するバスに乗り、朝7時に東京の秋葉原駅へと降り立つ。何一つ営業していない駅周辺を散策し、山手線と東海道本線を乗り継ぎ秋葉原から神奈川県立文学博物館へ足を運んだ。午後からは文学フリマへ、自身が執筆した原稿が載った本を一冊頂戴しに向かう。今回は早稲田大学ボカロマゾ研究会と、早稲田大学負けヒロイン研究

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1960年代における筆跡の消去は今?——「Re: スタートライン 1963-1970/2023現代美術の動向展シリーズにみる美術館とアーティストの共感関係」感想

1960年代における筆跡の消去は今?——「Re: スタートライン 1963-1970/2023現代美術の動向展シリーズにみる美術館とアーティストの共感関係」感想

(約3,800字)

 ついこの間に京都市京セラ美術館に行ったばかりだというのに、また岡崎公園に来ている。先日は京都京セラ美術館に行った後に京都府立美術館に行くことができず、自動ドアが閉まっているところだけを見て帰ったのだが、その帰りに京都国立近代美術館で見かけた「現代美術の動向」という文字列に、ふと興味を持ったのが今日のいきさつだ。先日は京都市京セラ美術館まで自転車で向かったものの、今日はどうし

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過去と未来の接続点=「現在」の表象可能性——「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」感想

過去と未来の接続点=「現在」の表象可能性——「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」感想

(約5,000字)

 岡崎の5月は例によって人であふれていて、京都市京セラ美術館前にあるバス停では市バス職員とボランティアらしき人が「京都駅に向かわれる方は東山駅から地下鉄を利用してください」と観光客に呼び掛けている。「京都餃子大作戦」なるイベントが開催されていた公園内では園内に子どもの姿も多く、私は自転車を押して公園内をゆっくり歩くことにした。岡崎公園周辺は人が多のはいつものことだが、外国人観

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都市の摩擦熱——近代と前近代がもたらすもの

都市の摩擦熱——近代と前近代がもたらすもの

(約7,000字)

はじめに 2022年の夏、私は京都から大阪の泉北ニュータウンまで通う日々を送っていた。午前6時に起床し、朝食をとり、メールを確認して大阪へ向かう。泉北に到着するのはいつの間にか9時頃だ。用事が終わるのは18時ごろで、そこから京都に戻ると20時を超える。すでに9月11日に音源のリリースが控えていた自分はその準備にも明け暮れ、あっという間の夏だった。とはいえ、2時間超もの時間をか

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美術の地層を巡って——「すべて未知の世界へ:GUTAI 分化と統合」展感想

美術の地層を巡って——「すべて未知の世界へ:GUTAI 分化と統合」展感想

(約4,000字)

 先日にスペースで都市についての話をしてから、意識するように都会の景色を眺めるようになった。近代建築が数多く残されている大阪のビルを観察すると、一方で昔ながらの景観を保ちながら、他方で昔ながらの外装の上からまるで生えてきたかのように巨大な摩天楼が建築されていることが分かってとても面白い。中之島美術館に向かう連絡橋にかかる「中之島ダイビル」も、モダン建築のような低層の上に、まる

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《エンパイア》は呼吸する——『アンディ・ウォーホル・キョウト』展感想

《エンパイア》は呼吸する——『アンディ・ウォーホル・キョウト』展感想

(約4,000字)

 いつもは図書館での仕事がある日曜日。今日はキャンパス全域での電気工事の都合で臨時休館であり、久しく休みとなった。仕事がなくとも図書館に行くことも最近では増えた気がするが、今日は臨時休館だ。実のところ、大学図書館の利用証は他に2枚ほど持っており、勤務先以外の2つの大学図書館を利用する資格も持っているのだが、どうやら一方は毎週日曜日に閉館しており、もう一方は17時までの開館だそ

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浄化されていく京都の街で——これからの「観光客」のための試論

浄化されていく京都の街で——これからの「観光客」のための試論

(約7,000字)

はじめに 23時。スポーツウェアに着替え、自室を出る。およそ1年前に市内に住み始めて以降、京都御所をランニングで一周することが私の日課だ。外出自粛要請が出ては消えてを繰り返すこの時代、深夜の京都はどこか静かである。23時といえば、市内を漏れなく走る京都市営バスの各種が最終便となって出発していく時間だ。今出川通りを東向きに走る私の隣を追い越していくのは、今日の最終便である錦林車

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ウィズコロナにおけるアニメの「演奏」——「Vivy -Fluorite Eye's Song-」と「takt op.Destiny」について

ウィズコロナにおけるアニメの「演奏」——「Vivy -Fluorite Eye's Song-」と「takt op.Destiny」について

(約4,800字)

はじめに 所属する大学院で受ける最後の授業は、オンラインだった。

 私は今年、大学院を修了する。長年在籍してきたなかでそれ程大きな変化も感じないまま私は数年間の院生生活を過ごしてきたのだが、それでもなお、新型コロナウイルスに関係する最後の数年間は凄まじかった。人文学を専門とし、実験を一切しない院生だった自分にとっては研究上では深刻な影響もなく、オンライン会議ツールがあればさ

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「母親」の亡霊——「サマーゴースト」の精神分析的「余白」

「母親」の亡霊——「サマーゴースト」の精神分析的「余白」

(約7,200字)

はじめに 深夜2時の河原町通り沿いを走っていると、イチョウの黄色くなった葉が側道を埋め尽くしているのが目に入ってくる。その光景を見ながら、秋はおろか、夏さえもが既に遠く過去の光景のように思えてしまう。とはいえ、まだ数カ月しか経っていない今年の夏をまるで「過去の思い出」と言い切るのは、私にとって違和感でしかない。今年の夏は紛れもない過去ではあるのだが、まだ完全な過去ではない。そ

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到達できない〈ヨーゼフ・ボイス〉に思いをはせて

到達できない〈ヨーゼフ・ボイス〉に思いをはせて

(約3,800字)

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 まだ16時過ぎにもかかわらず差し込んでくる夕陽によって、冬が本格的に到来してしまったことを強く感じてしまう。斜陽が、ほとんど地下に埋まった国立国際美術館のガラスを美しく反射していた。部屋を京都市内に設けて以降、大阪市内に顔を出すこともめっきり少なくなってしまった

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鉄道趣味はどこを目指すのか――長谷川大貴の鉄道写真

鉄道趣味はどこを目指すのか――長谷川大貴の鉄道写真

(約5,000字)

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はじめに

国立京都近代美術館の隣に流れる河川(著者撮影)

 「京都の川」は、もっと透き通っている印象だった。国立京都近代美術館のすぐ隣に流れる川を撮影しながらそう思った私だったが、そもそも鴨川と堀川以外の京都の川をあまり見ていないような気もする。京都に流れるお

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