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フリーライターはビジネス書を読まない

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#被災地

フリーライターはビジネス書を読まない(1)

フリーライターはビジネス書を読まない(1)

インターネットが普及する前、パソコンでテキストをやり取りできる通信サービスはパソコン通信だった。
「ホスト」と呼ばれるサービス運営業者のホストコンピューターに、電話回線でアクセスする。

アクセスしてしまえば、中身は、誰もが書き込める掲示板のほか、同じ趣味をもつ者どうしが集まるフォーラム、仲間うちだけでテキストをやり取りしたり、チャットもできた。

今のSNSの原型になったサービスは当時からだいた

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フリーライターはビジネス書を読まない(33)

フリーライターはビジネス書を読まない(33)

俺がジャーナリスト!?航空チケットを予約して乗る便が決まったら、次に版元の編集者に電話をかけた。
ことの次第を説明し、1週間後に締め切りの原稿を3日後に送ること、福岡に1泊するからその間は連絡が取れないことを伝えた。今みたいに携帯電話が普及しておらず、手軽にメールを送受信できるインフラも整っていなかった。
原稿の直しも、大阪へ戻ってからということで了解してもらった。

福岡へ出発する前日、4ページ

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フリーライターはビジネス書を読まない(32)

フリーライターはビジネス書を読まない(32)

半壊したアパートから追い出された神戸と芦屋で3日間の取材を終えて、これから1週間で原稿をまとめないといけない。書いておきたいことと書くべきことが多くて、版元からオーダーされた文字数をオーバーしそうだった。どの話を削っても、現実を伝えられないような気がする。

取材をしていく過程で聞いた話には、ひどいものもあった。
住んでいたアパートが半壊したので、避難所へ身を寄せていた男性がいた。すぐに大家さんが

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フリーライターはビジネス書を読まない(31)

フリーライターはビジネス書を読まない(31)

傲慢になるボランティアと我がままになる被災者焼野原になった街を撮り続けていたら、いつしか陽が傾いていた。この日の取材予定は終えていたから、あとは帰るだけ。来るときは鷹取から歩いてきたから、帰りは兵庫駅まで歩くことにした。

さほど遠い距離ではないはずなのに、このときの新長田~兵庫は、なぜかとてつもなく長く感じた。あたりに見えるのは、焼け焦げた家やビルばかり。歩いても歩いても、いっこうにたどり着けな

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フリーライターはビジネス書を読まない(30)

フリーライターはビジネス書を読まない(30)

燃え尽きた街新長田駅の北側エリアへ入る。このあたりは、長田区と須磨区との境界が接している。
「なんや、これ……」
目の前の広がる光景は、街ごと地上から消滅したような印象だった。

すでに瓦礫の多くは片付けられていたものの、形だけ焼け残ったビルはそのまま手付かずだったし、ここに住んだり仕事をしたりしていた人たちが日常使っていたであろう生活の痕跡が、焼け跡から垣間見ることができた。

立ち入りの制限は

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フリーライターはビジネス書を読まない(29)

フリーライターはビジネス書を読まない(29)

テント村のベトナム人母子本当は新長田駅で降りたいのだが、駅の機能が復旧しておらず通過措置がとられていた。線路は走れるけれど、駅は使えませんというわけだ。
だから三宮からJR線で鷹取まで行って、徒歩で新長田まで引き返す。

目的地は駒ヶ林公園。ここに被災者のテント村ができていて、外国人も避難生活を送っているという。外国人にとって、日本での避難生活は不便に違いない。もしかして、差別を受けているかも。

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フリーライターはビジネス書を読まない(28)

フリーライターはビジネス書を読まない(28)

ガンバッテルから震災見物にくるな!E氏から教えてもらった小学校へ立ち寄って、人形劇団を訪ねる。
すでにE氏から電話で連絡を受けていたらしく、
「カメラを――」といいかけたら、リーダーらしき女性が「すみませんでした」と恐縮しながらカメラをもって出てきた。
「たいへん失礼なことをしました。すみませんでした」とひたすら頭を下げまくるので、かえってこっちが恐縮してしまう。
「あ、もういいですよ、無事に戻っ

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フリーライターはビジネス書を読まない(27)

フリーライターはビジネス書を読まない(27)

「避難所から出て行ってくれ」の真相がわかった公民館なのに、なぜ避難所として使ってはいけないのか。なぜ追い出されないといけないのか。
避難してきた人たちと管理人との間で、トラブルになっている現場までやってきた。
当時、自分で書いた記事から抜粋する。

――
「ふだんは自治会の集会や冠婚葬祭の式場に使っているし、公共の建物だから、当然ここを使う権利があるはずだ」と、避難者は主張。だがこの建物は、自治会

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フリーライターはビジネス書を読まない(26)

フリーライターはビジネス書を読まない(26)

10日以内に出て行ってくれ
避難所の管理人から退去を求められる被災者たち芦屋からいったん梅田へ戻って、今度は宝塚へ向かう。
宝塚には「地震が発生した直後に、私立病院の院長が病院の救急車を使って、自分だけ逃げてしまった」という噂が立っているという。
当時すでにインターネットはあったけれど、TwitterのようなSNSはなく、噂の拡散はまだ口コミが主流だった。
いったいどこから、そんな噂が出たのか。全

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フリーライターはビジネス書を読まない(25)

フリーライターはビジネス書を読まない(25)

自警団が被災者を追い返した噂の真相JR芦屋駅まで、電車が通っていた。
駅舎は被害を受けたようだ。樹脂製の波板で屋根を張って、仮復旧で運用されていた。

駅前から六麓荘までバスが出ているはずだが、バス停まで行ってみると、案の定ダイヤはあって無いようなもの。仮の時刻表が貼ってあって、次のバスまで約1時間待ち。
時間が惜しい。タクシーで行こう。数台が乗り場に待機していた。

「六麓荘まで」
行く先を告げ

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フリーライターはビジネス書を読まない(24)

フリーライターはビジネス書を読まない(24)

被災地の取材に行ってくれ阪神淡路大震災の発生から2カ月ほど過ぎた3月初め、ハガキのDMに返事をくれた制作会社から、被災地を取材してほしいというオファーが来た。
取材に行くはずだったライターの都合が合わなくなったため、急遽、私に声がかかったのだった。

取材する内容を打ち合わせるため、先方の事務所を訪ねた。
記事を出す媒体は、東京にある大手出版社の月刊誌だった。
災害の記事でよくあるような「大変なこ

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