フリーライターはビジネス書を読まない(29)
テント村のベトナム人母子
本当は新長田駅で降りたいのだが、駅の機能が復旧しておらず通過措置がとられていた。線路は走れるけれど、駅は使えませんというわけだ。
だから三宮からJR線で鷹取まで行って、徒歩で新長田まで引き返す。
目的地は駒ヶ林公園。ここに被災者のテント村ができていて、外国人も避難生活を送っているという。外国人にとって、日本での避難生活は不便に違いない。もしかして、差別を受けているかも。
鷹取駅から新長田駅まで引き返し、そこから海側へ向かって歩いて15分。ブルーシートのテント村が見えてきた。思いのほか人影は少ない。
親子と思しき女性と子供の姿が見えた。
「すみません、ちょっとお話を伺っていいですか」
声をかけると「なんですか」と日本語が返ってきたが、外国語の訛りがあった。
「日本語、話せますか?」
「うん、まぁ、なんとか」
出身を訊くとベトナムだという。夫もベトナムの人で、日本で働いているらしい。
テントを張っているエリアは、日本人と外国人で別れている。だが、意図的に外国人が不便な場所に追いやられたというのではなく、外国人どうしで固まった結果、こうなったらしい。掲示板には、外国語で書かれた貼り紙もあった。必要な情報は、母国語で入手できるようだ。
お礼をいって、公園を後にする。
新長田駅へつづく大通りを歩いていると、被害のすさまじさをあらためて目の当たりにする。完全な形で残っている建物を探すほうが難しい。焼け焦げたビルや、跡形もなく燃え尽きて瓦礫の山になっている空き地、火災の熱で溶けて変形したビール瓶……。そんな中でも、仮設の店舗で営業を続けている飲食店。
目に付く限りカメラに収めていった。
時間は、お昼時を少し過ぎた頃。営業している店が少ないから、何を食べたいという贅沢はいっていられない。開いている店に入るしかなかった。
屋根をブルーシートで覆った喫茶店をみつけた。この際、軽食でもいい。
客は少なく、空いている席に座ると、紙コップでお冷が出てきた。メニューには、コーヒーや紅茶、トーストにサンドイッチといった定番メニューのほかに、きつねうどんとか親子丼なども書いてある。
たぶん町の様子があんなふうだと、喫茶メニューだけでは客を呼べないので、臨時に食事メニューを出しているのだろう。
今の自分には、むしろありがたかった。
「親子丼ひとつ」
出てきた親子丼の器は発泡スチロール製で、箸は割箸だった。もともと喫茶店だし、急なことでどんぶりの調達も難しいのだろう。
腹ごしらえを済ませたら、火災の被害が最も激しかったエリアに入る。
(つづく)
――――――――――――――――――――――――――――
◆最近の記事/まいどなニュース
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?