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個人的な栞(しおり)として皆さまの作品をピン留めしております。ヒマなときに見てもらうと、ひょっとしておもしろいかも。
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#書評

原子力と〈幻視力=想像力〉

原子力と〈幻視力=想像力〉

書評:戸谷洋志『原子力の哲学』(集英社新書)

本書で語られる「原子力」とは、一般に「負の原子力」の象徴である「原子爆弾」などの原子力兵器であると同時に、「正の原子力」と考えられてきた「原子力発電」という両極を含む、全体としての「原子力」のことである。このような両極性をもって見られる「原子力」の本質とはいかなるものなのか。それを思考したのが「原子力の哲学」というわけだ。

本書では、ハイデガー、ヤ

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堀江敏幸『雪沼とその周辺』《砂に埋めた書架から》51冊目

堀江敏幸『雪沼とその周辺』《砂に埋めた書架から》51冊目

 堀江敏幸を知ったのは、白水Uブックスの『郊外へ』を手に取ってからだった。

 私はその随筆のような味わいのする創作の文章を読んだ。滋味豊かな落ち着いた日本語、しかもフランス文学を専攻している作家独特の癖のようなもの(それは魅力でもあるのだが)が、文章の香りとして立ち上っていた。

 読むうちに格好いいと思えてきて、それ以来私はすっかり好きになってしまった。

 本書はその題名が示すとおり、「雪沼

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【書籍レビュー】愛着障害  子供時代を引きずる人々

【書籍レビュー】愛着障害  子供時代を引きずる人々

今年は読んだ本の整理も兼ねてレビューをしていこうかなと思っています。単なるレビューというか、自分なりにどう消化したかという点でまとめていくつもりです。

早速ですが、今回は岡田尊司著「愛着障害 子供時代を引きずる人々」を取り上げたいと思います。

読もうと思ったきっかけは子供が初めて生まれるということで、Twitterのタイムラインに流れてきた発達心理学という言葉に興味を持ち始めたところ、愛着の発

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友だちが芥川賞をとった件

友だちが芥川賞をとった件

新潮で町屋良平『1R1分34秒』が掲載されてすぐに読み、これはぜったいに芥川賞をとると確信していろんなひとに即LINEを送ったのだが、いざほんとうに受賞となるとすごく不思議な気分になる。
かれらしい控えめで謙虚な受賞会見で質問を受けていた赤い上着は、町屋良平が文藝賞を受賞した際にかねてからの友だちたちのあいだで行ったちいさなお祝い会で着ていたものだ。質問に「一張羅です」とこたえたその赤い上着が2年

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