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毎日書くやつ

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ルールは以下。 ・書く時間は1時間以内。 ・書く分量は原稿用紙1枚分以上。 ・書く頻度は毎日。 ・書く道具はスマホ。 ・書く内容はなんでもいい。
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#記憶

明け方の海(66日目)

野宮さんが自転車にはねられたのは日が変わる直前のことだった。なぜ覚えているかというと病院に行かず終電で渋谷に行ったからだ。
ふらついて電信柱にぶつかりそうになるところをどうにか引っ張って避けさせ、野宮さん大丈夫ですか、と肩を叩くと、「まだ飲みたいのー?」とにへらにへら笑いながら言う。だって飲み屋さん大丈夫ですか、ってさー、はははは。いつも飲み終わったあとに名前を呼ぶたび、彼女はこう言ってひとりでよ

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オスローバッティングセンター(54日目)

所用で久しぶりに歌舞伎町を歩いた。
前の仕事をやっていた頃はしばしば飲みに来る機会があったが、今はとんと縁遠い。
大久保寄りの奥、区役所通りから左に入ったホストクラブとラブホテルが密集するエリア。
そこにあるオスローというバッティングセンターの前を通った時に、ふと昔ここに来たことがあるのを思い出した。

仕事を始めた新卒の頃、同じ部署に配属された同期はおれを含めて3人だった。
毎日飛び込み営業をし

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黄金期の焼印(52日目)

カープが巨人に負けたので何も書く気が起きない。

9回、追い上げたが及ばず7-8。
まだまだ優勝争いはどうなるかわからないが、ギリギリのところで決壊しないよう繋ぎ止めてきた投手陣の網が、この夏場で明らかに綻び始めてきたのを見るに、半ば諦めに近い気持ちが生まれてきている。

そもそも3連覇してきたチームとはいえ、ファンからすると不思議と盤石に見えなかったものだ。
隙のないチームというより、ところどこ

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最初に起きた朝(49日目)

胃腸炎にかかって、水をひたすら垂れ流す管になったような一日をどうにかやり過ごし、眠り、朝5時半に目がさめる。尿意と渇き。ベッドにためこまれた熱がコンロの弱火みたいに背中をあぶる。

隣で寝ている娘を起こさないように体をよじらせて夏掛けから這い出て、スマートフォンを起動する。ツイッターを眺め、ゲームのログインボーナスをもらう。アナザーエデン、ロマンシングサガリユニバース。ざあっと情報が矢継ぎ早に視界

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短歌を作っていたことがあるんだ(47日目)

少し前に岡野大嗣さんの短歌が激エモだということで話題になっていたが、不意に以前作っていた短歌を読み返したらセルフ激エモ気分になってしまった。(関係ないけど語感が美代子阿佐ヶ谷気分っぽい)

まともに作っていたのは2016年1月から2017年7月くらいまで。合計で500首弱。
まずフラワーしげる『ビットとデシベル』におののき、その半年後に山田航『桜前線開架宣言』を読んでヅガンと当てられて、ムラムラと

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鉱石拾い(41日目)

いまルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』を読んでるんだけど、こういうハイレベルな自伝的作品を読むたびに、なんでこんなに昔のこと覚えてるんだろうこの人、と思う。
単に出来事を覚えているのではなくて、その時自分を取り巻く世界がどういう匂いだったか、どういう物品で構成されてそれが自分となんの関係があった(もしくはなかった)か、周囲の人と人がどう関係しあっていたか、そんな世界の中で何を考えていたか

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フジロック遍歴メモ②(40日目)

昨日の続きです。今回もほぼ単なる個人的メモなのでそこんとこヨロシク。

【12年】
・仕事の都合で数年間行けなかった鬱憤を存分に晴らすべく満を持してフル参加。
・初日に大遅刻してきた友達がまさかのイアン・ブラウンと同じ新幹線で写真撮ってもらっててびっくらこいた。
・いきなりカフェドパリでビッグウィリーズバーレスク見てそのあと木道亭でケンジントンヒルビリーズ見る、というイレギュラースタート。両方最高

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フジロック遍歴メモ①(39日目)

この土日は娘が風邪引いて外に出られないのをいいことに、ずっとフジロックの配信を見続けていた。
子連れフジロックの覚悟がなかなか決まらないので、家にいながらのんびり見られるこの試みは本当にありがたい。

しかしずいぶん行ってないな、というかそもそも何回フジ行ったんだっけ、と思って数えてみたら、02.03.05.12.13.14.15年と計7回だった。

ブランクの時期は休めない仕事に就いていて、ここ

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カレー!カレー!カレー!(35日目)

・夏が来てしまった。夏は夏そのものでなく夏のイメージを愛でるに限る。

・死ぬほど汗かきなので汗をかく季節を憎んでいるのだが、夏は何をしても汗をかき、冬は厚着のまま暖房効きまくった室内に入って汗をかき、梅雨は湿気で汗が乾かないせいでさらに汗をかき、春秋は寒さに備えて長袖着たら案外暑くて汗をかくので、地球が憎い。

・しかしカレーを食べたら出てくる汗は、カレーが美味いので甘んじて受け入れざるをえない

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ボルタンスキーの非肉体的死体(27日目)



昨日はクリスチャン・ボルタンスキー展『Lifetime』を国立新美術館で観てきた。
彼の展示を見るのは、16年に庭園美術館で開かれた『アニミタス-さざめく亡霊たち』以来2回目。
素晴らしかったです。

今回の展示で彼のキャリアを初めてざっと通して観たけど、一貫して彼は「死体」を扱っているんだと理解した。
人が死ぬと残されるものは2種類ある。
ひとつは肉体としての死体。
もうひとつはこれまでの人

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夢に出てきた人たち(25日目)

昨晩はひどくいろんな夢を見た。
目覚めてすぐに全ての脈絡は失われて、断片的な場面がちらちらと浮かぶだけだ。
テナントに書店が入っている大規模タワーマンションに住んでいたり、SCP財団のような異常オブジェクトの管理業務をしていたりしていたのはうっすら覚えている。

もうひとつ覚えているのは、知人が3人出てきたことだった。

ひとりは大学時代からの友人。当時一番仲の良かったひとりだったのに、卒業後なん

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酔いたくない(18日目)

ひとり酒が苦手だ。
間が持たない。
飲んでる最中にひとりで何すればいいのかよくわからなくてとりあえず一口飲む。
また一口飲む。
ごくごく飲んでしまう。
結局酔いが早くなって何もできなくなる。

なのに今日も金曜日だーーーーーーと浮かれてうっかり缶チューハイを飲んでしまったおかげで意識がモヤに包まれ、エブリシングイズめんどくさい。

他の人と外で飲むなら、なんだかんだで人間の姿を保っておく必要がある

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忘れてしまう夜のこと(11日目)

酒を飲みながら波長の合う人と話していると、ICレコーダーを回しとけばよかったなんて思うことがしばしばある。
話しているうちに自分の感覚がどんどん拡張されていって、そのテリトリーが相手の感覚と接触して共鳴し、永遠に終わらない卓球のラリーみたいに会話が加速していって、心が知らないどこかへたどり着いたような気分になる時がある。

で、こういう夜のために生きているんだよな、と思いながらいつのまにか家に帰り

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ぼくは覚えていない(3日目)

ジョー・ブレイナードという美術家が書いた、『ぼくは覚えている』という本がある。白水社のエクス・リブリスから翻訳が出ている。
ちょっと変わった本だ。
何しろすべての文章が、「ぼくは覚えている。」という言葉で始まる。200ページ以上、一冊分まるまるすべて、一切の例外なく。
ブレイナードはその一言を鍵にして、記憶の詰まった小箱を開き、自分の通り過ぎていった瞬間の断片を語る。
昔好きだった人の体を思い浮か

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