シン映画日記『TAR/ター』
イオンシネマ板橋にてケイト・ブランシェット主演、トッド・フィールド監督・脚本作品『TAR/ター』を見てきた。
『リトル・チルドレン』などを手掛けたトッド・フィールド監督の『リトル・チルドレン』以来の17年ぶりの新作で、個人的にはクラシック音楽の指揮者という縁遠い世界ではあるが、『エリザベス』シリーズや『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェット主演ということで見てみた『TAR/ター』。これが見事な成功者の転落劇映画で、その描き方には所々でスタンリー・キューブリックの影響さえ伺える映画そのものがマエストロな映画だった!
あきらかにケイト・ブランシェットありきの映画で、『エリザベス』シリーズでエリザベス女王を演じたり、『アビエイター』でキャサリン・ヘップバーンを演じたり、アカデミー賞など数々の女優賞を獲得しているケイト・ブランシェットだからこそ、マエストロと呼ばれる女性指揮者が役と演者がリンクしている。
それでてっきり『セッション』のJ・K・シモンズみたいな感じのパワハラ全開かと思いきや全く違い、頂点にいるマエストロの公私の様子を見せながら、その綻びを繊細に見せる。それは自身が同性愛者という問題から宗教、音楽観の相違、メンバーの編成や人間関係など様々な問題を同時に展開し、徐々に変な方向に追い込まれる。
一番の引き金は音楽学校での講義でのトラブルになるが、これは主人公が成功者だからというだけでなく映画マニアや音楽マニアなんかでもあるあるな光景である。映画・音楽が好きならこれを見なきゃ、聴かなきゃという初心者・初級者への押しつけがましい問答にはまさしく「人の振り見て我が振り直せ」で心に響く。
「火のない所に煙は立たぬ」とはよく言ったもので、前半のターの言動は火がある所だらけだからか、常に何かが起こりそうな不穏な空気があり、後半に進むに連れそれが徐々に強くなる。そこの空気の張りつめ方や私生活やご近所との些細なトラブルは監督であるトッド・フィールド監督の『リトル・チルドレン』にも通じるものがあり、本作はさらにそれを『時計じかけのオレンジ』や『バリー・リンドン』のような転落劇をほのかに匂わせるような作りに仕上げている。
個人的にはまるで知らないクラシックの指揮者の世界だったが、見る者を終始振り回すケイト・ブランシェットの演技と脚本にラストまで釘付け。終盤の描き方も見事な都落ちで、最後まで成功者の闇を見せてくれる。クラシック好きはもちろん、そうでなくともスタンリー・キューブリック監督やミヒャエル・ハネケ監督のような不穏な映画が好きな方なら絶対必見!
評価:★★★★★
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