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シン・映画日記『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2回目)

WHITE CINE QUINTOにてキャリー・マリガン主演映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を再見した。

前回見た時、どうも掴みきれないので再見し、
今回はしっかり掴んだ。

ミラマックスとワインスタイン・カンパニーの創業者ハーベイ・ワインスタインによる一連のスキャンダルが発端で起こった「#MeToo運動」のまさしく発端部分を描いた作品。

要するに、
ニューヨーク・タイムズVSハーベイ・ワインスタイン、というよりかはミーガン・トゥーイー&ジョディ・カンターVSハーベイ・ワインスタインを『スポットライト 世紀のスクープ』のような作りで描いている。

全部が全部ではないが、記者目線の取材対象への詰め方が『スポットライト 世紀のスクープ』にそっくりなので、てっきりトム・マッカーシー監督作品かと思いきや『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のマリア・シュラーダー監督で、製作は『それでも夜は明ける』や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、『ムーンライト』、『バイス』、『ミナリ』を手掛けたデデ・ガードナーとジェレミー・クライナー、製作総指揮のトップがブラッド・ピットというプランBが全面的に作っている。
だからか、ニューヨーク・タイムズのミーガン・トゥーイーが大統領選直前にドナルド・トランプ前アメリカ合衆国大統領のスキャンダルを報道した所から始まり、そこからハーベイ・ワインスタインのスキャンダルの取材へ切り替え、このワインスタインへの取材はミーガンとニューヨーク・タイムズにとってはドナルド・トランプのスキャンダル報道後の挽回戦になっている。

この映画はドナルド・トランプのスキャンダルからのハーベイ・ワインスタインのスキャンダル取材に繋げることで完全にオンナの戦いとして見せ、『スポットライト 世紀のスクープ』やロブ・ライナー監督作品『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のような記者の取材目線での展開にしている。
このため、ハーベイ・ワインスタインによる蛮行のシーンは一切なく、取材対象者からの語りを中心にし、被害者やワインスタイン側の証言者の語りからハーベイ・ワインスタインの蛮行を想像させる仕組みになっている。
ハーベイ・ワインスタインによる蛮行シーンはあえて可視化させないという作りこそミーガン・トゥーイー&ジョディ・カンターとニューヨーク・タイムズに対するリスペクトから来ているものである。

なので、前半の取材の八方塞がり感が半端ない。そこでハーベイ・ワインスタインが大人しくしていればもしかしたら完封出来たかもしれないのにミーガンやジョディが取材した相手に対してキナ臭い動きをするから、その報復的に相手が動く。そこの動きが細やかで、窮鼠猫を噛むともワインスタインから見れば因果応報とも言える。

女性たちの戦いだが、ニューヨーク・タイムズ側にはちゃんと男性スタッフもいるので、『マンマ・ミーア!』や『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』みたいなフィリダ・ロイド監督作品みたいな偏りを見せないことも重要で、非常に冷静にリアリズムとバランスを保っている。
が、そうはいいながらもミーガンの家庭での母親や妻としての顔や取材対象者のローラの描き方、ミーガンとジョディがカフェにいた時のシーンなどフィリダ・ロイド監督作品に近いアプローチも見せ、方向的にはやはりオンナたちの『スポットライト 世紀のスクープ』となっている。

ハーベイ・ワインスタインによるインモラルな部分を排したことで『スポットライト 世紀のスクープ』に似た作りになる所をドナルド・トランプのスキャンダルとその後を挿入することで、個性を見せ、時代を描いている。だが、アメリカでも日本でも作品がもう一つ盛り上がってない。この現状をも浮き彫りさせており、この苦虫を噛み潰したような現状こそが、現代と映画、アメリカ、全世界の在り方を問う傑作である。

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