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冬日(とうじつ)第9話(最終話)
【第1話はコチラから】
ふうん、と由紀は案外気のなさそうな返事をする。
「あれ、チョコ苦手だっけ」
「ううん、いや、チョコレートをあげる日って」
「そう、大昔の行事だよ」
ふうん、と、袋の中を暫し見つめる。
「悪くないわね」
気もそぞろな返事に山下は違和感を覚えつつも、由紀がそのまま風呂へと促す。
「お風呂はもう入ってるから。たぶん温度も大丈夫」
「そうか、ありがとう。そのチョコ、先に食べてなよ
冬日(とうじつ)第8話
【第1話はコチラから】
それは、この社会において言い憚ることであった。
それを打ち明けたのは、山下への信頼の証だと思っている。
だから他の人間に室田の思いを漏らしたことはない。
しかし。
この社会構図の中で、今さらその点を覆すことはおよそ無理だろう。
そうは思いながら、室田の人道観には感心していて、やはり上司で良かったとも思う。
自壊については、適応検査そのものの信頼性が揺らいでいる可能性を
冬日(とうじつ)第7話
【第1話はコチラから】
覚悟を決めるのに時間が掛かったのも事実だが、医師の厚意に甘え続けるわけにもいかない。
その日は晴れ上がっていて、広場には一面の雪が広がっていた。
開放的な空気を求め、彼女に広場へ出ることを提案した。
彼女は喜び、患者用の着衣のまま軍支給のダウンを着こむ。
きれいな青空だね、と彼女は言う。
同意して、それでも上の空だったのかもしれない。
彼女は気付かないのか、気付か
冬日(とうじつ)第6話
【第1話はコチラから】
二名だけでなく、今や部下にも何が起きたのか分かっていた。
彼女は泣いている。
しかし、理解はそこまでだった。
やがて、地の底から這い上がるようにして聞こえてくるものがあった。
くつくつと、彼女は笑っていたのだ。
部下が横顔を覗き込むと、女と同じような虚ろな目をしていた、と言う。
その目から大粒の涙をこぼし、肩を揺らしながら笑い出していた。
危険を肌で感じる。
冬日(とうじつ)第5話
【第1話はコチラから】
だっていいじゃん、思いを託して贈り物をするなんて。
予感が脳裏を過る。
苦悩する人間の傾向として、人間性を求めるために一時的な感情過多に陥る。
彼女がそれに該当するなんて考えたくなかった。
俺の口にチョコレートを放る。
解放された香りが鼻腔を満たす。
それにチョコレートが好きだしね。
そういう彼女が口を重ね、ほどけ出したチョコレートを求めてくる。
絡みつく甘さの先に
冬日(とうじつ)第4話
【第1話はコチラから】
統治下に置いたはずのヲ地区が、増加率を管理できないままだった。
そのため、ヲ地区以降は如何を問わず捕獲後に廃棄、という命令が下っている。
その命を負うこの部隊は、少しずつだが確実に憔悴している。
戦争下とも言えない一方的な抑圧の中で、廃棄される彼等はどう見ても人間だ。
最初の内は無視できても、その事実は嫌でも目に付く。
割り切れる者もいたが、もはや彼我の別がつかずに
冬日(とうじつ)第3話
【第1話はコチラから】
「考えすぎですよ。室田さんは苦労性だからなあ」
憐れむような山下の声に、今度は室田が苦笑いを見せる。
「ほっとけよ」
「これでも心配してるんですよ、根詰めすぎも良くないですからね。
どうです、気分転換に今日あたり」
「なにが心配だ、飲みに誘う口実だろ」
「そんなことないですって」
「まあいい、しばらく飲みに行ってないからな、久々に行くか」
「さすが話の分かる人は違う」
冬日(とうじつ)第2話
【第1話はコチラから】
「正規登録の信憑性なんて、今更悪い冗談くらいにしか聞こえないぜ」
「確かに」
と、山下が鼻で笑い飛ばしながら苦笑いを混ぜる。
「でも、そのお陰で取引がまとまりました」
「調整廃棄を引き取ったって言ってもタダじゃないだろ」
「ええ、それでも対価は市場価格の五十分の一です。損害賠償から比べれば蚤の毛ほどの損失ですよ」
「損失には変わらんからな」
「しかし全てを管理下に置けるな
冬日(とうじつ)第1話
残酷なほどに青い空。
凍てつく空気。
容赦なく刺さる日の光。
目を潰すほどに眩い、一面の白。憶えているだろうか、あの光景を。
そして私は、今でもあの光景の中にいる。
***
「それじゃあこの内容で先方に投げてみて」
確認した書類を部下に渡し、仕事を先へ促す。
それから再びデスクトップに目を落とした。
途切れた意識をつなぎ直し、室田は報告書の作成に勤しむ。
仕事を始めた頃は忙