禁句 第19話
【第1話はコチラから】
「賭け、って言ってたろ」
男が続ける。
「俺も、賭けをしてた。
あんたと、あんたの連れに会ったときから。
会いに行っていいわけないが、それでも一度くらいなら、って、割り切れないままこの街まで来て、とうとう自分では決められなくなっていた。
住所もあるが、どう行けばいいか分からない。
それで、あんた等に聞いて、分からなければ諦めようと、そう思ったんだ。
ところが、あんたは道案内を買って出てくれた。
許されるなんて、これっぽっちも思っていやしない。
それでも、そこにすがってしまった。
すがりつつ、それでもまだ割り切れないでいた。
事情を話したのは、また賭けてみたんだ。
許されるはずのない行いを、誰かに切り捨ててもらえれば、踏ん切りもつくだろうって。
あんたの連れは案の定、怒ってどっか行ってしまった。
それでよかったんだよ。
それなのに、あんたはまだ道案内を買って出た。
会っていいわけがないんだ。
分かってる。
それなのに、こうしてここまで来てしまった」
結局割り切れないまま、たどり着いたのがこの広場だった。
夜景は、必要以上に派手でははない。
しかし一つ一つが静かに、しっかりと光を放つ。
以前よりも、多少明かりの数は増えていた。
それでも、阿倍の好む趣は失われていない。
「で、どうする」
阿倍が尋ねてみる。
男に、再びぎこちない様子が現れようとしていた。
逡巡がそうさせている。
そう悟り、だから阿倍は押し切ってみることにした。
「どうやって会いに行くよ」
不意を突かれたような眼差しで、男が安倍を見る。
「会いに行く」
「そうだよ。だってここまで来ちまっただろう」
「俺の話、聞いてたのか」
「うるせえよ。
ここまで連れてきた俺の身にもなれってんだよ。
それに俺は天邪鬼でね。
どんなに確実でも、無難な掛けはしねえんだ。
会いに行かないのが無難な選択なら、なおさら取るつもりなんかねえ。
いいか、大勢が賭けないほうに賭ければ、あるいは大勝もありうるんだよ」
「しかし」
と男が言いよどむ。
「まだそんなこと言ってんのかよ。
いいからどうすれば会えるかだけ考えろよ。
さもなけりゃ」
阿倍がそこまで言うと、携帯電話の音が遮る。
「何だよ」
聞き覚えのあるその音が、自分の携帯電話であることに気付く。
ズボンのポケットを探る。
取り出した携帯電話の液晶にに、武井の名前があった。
意外に思い、通話ボタンを押す。
「もしもし」
(続く)
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