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ノッキン・オン・ヘブンズドア

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ある映画に影響を受け、書きました。
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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第14話(最終話)

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第14話(最終話)

【前回の話】
第13話https://note.com/teepei/n/n0ef3d1ffd2e1

***

 翌日、家の片づけを再開した。

 やり直す決意を再び固めていた。
 ほとんどが不要のもので、処分をすればおおかたケリが着いた。
 小さなアパートへ引越し、近くの倉庫に雇ってもらった。
 地道な再起だった。
 でも、それで良かった。

 木村はかなりの原稿を書き溜めていたようで、亡くな

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第13話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第13話

【前回の話】
第12話https://note.com/teepei/n/na1c6754f904e

 ぽつぽつと、生暖かい雨が当たる。

 体は包まれているみたいで心地いい。
 穏やかさに満たされていた。

 暗いのは目を閉じていたせいだった。
 重く感じたが、瞼をゆっくり開けてみる。

 久々のようで、飛び込んでくる光は差すように眩しかった。
 次第に輪郭を帯び、人影が像を結ぶ。
 そして何

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第12話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第12話

【前回の話】
第11話https://note.com/teepei/n/n6660c46eb111

 ホールはさすがに閑散としてきて、話が途切れると静寂が目立つ。

「俺を、救う」

 確認するように呟く。
「そう。
あんたが友達になってくれた時、木村は救われたんだって言ってた。
だから、今度は俺が救うんだって」
 水野が遠くを見ながら答える。

「そうか」

 同じく遠くを見ながら、海でのこ

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第11話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第11話

【前回の話】
第10話https://note.com/teepei/n/n1f5bb66f2fe1

 木村は震えて泣いていた。

 相手に見える未来の死期は、水野にも共有できるが全てではない。
 表面上の光景とぼんやりとした感情までで、内面の思慮は分からない。
 見える場面も当人より短かったり断続的だったりする。
 今垣間見た木村の死期は十数年後だろうか。思ったより近い将来だったのだ。
 そこ

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第10話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第10話

【前回の話】
第9話https://note.com/teepei/n/nc84a59251ac2

 水野もまた、幼い頃から死の瀬戸際に遭遇していた。
 そのためなるべく人を避け、また近づけないようになっていた。

 その日も社会の授業をさぼり、本でも読もうと一人体育館裏へと向かう。
 そこに、半裸で埃まみれの木村がうずくまっていたのだった。

「大丈夫?」
 尋ねても木村は反応しない。
 木村

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第9話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第9話

【前回の話】
第8話https://note.com/teepei/n/na772880e1748

 当然のように答えたその女性を改めて見てみる。

 喪服のワンピースと真珠のネックレス。
 髪は肩の辺りまで、丸みを帯びた髪型が顔を包むような印象を与える。
 背は同じくらいだから、女性としてはだいぶ高い方だろう。
 切り揃えられた前髪の下から切れ長の目が覗き、それが若干の威圧感を与えてくる。

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第7話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第7話

【前回の話】
第6話https://note.com/teepei/n/ndf519cda602b

 暫くしてまた木村は本の話をしだし、また頷いたり聞き返したりした。

 散歩をしている間に日が暮れ、夕飯がてらに少し飲もう、ということになった。
 ピザとパスタがうまいんだよ、と連れてこられた店は木調の食堂風で、窓際のテーブル席に座った。

 久々に飲むビールで少し酔い、ワインを勧められて大分酔っ

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第6話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第6話

【前回の話】
第5話https://note.com/teepei/n/n7ed65d247b06

 それから電車に乗り、都心へと戻っていった。

 電車の中で、木村は以前に貸してくれた本の話をした。
 傍らで聞きながら相槌を打ち、時には聞き返したりもした。

 暫くして、木村は駅を降りるという。
 寄りたい本屋があるから、ということだった。
 一緒に行くかい、と問われ、もちろんすることもないの

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第5話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第5話

【前回の話】
第4話https://note.com/teepei/n/n15a39b4d3582

 売りにしているカレーが懐かしくてうまそうだったから、という理由で、年季のいったレンガ造りの店に入る。

 テーブルも椅子も古めかしく、その分よく手入れされていた。
 注文したポークカレーは素朴さに惹かれたためで、『海を見たことだしな』と呟いた木村はシーフードカレーを頼む。
「海を見たことがなかっ

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第4話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第4話

【第1話はコチラから】

「夏休みに映画を見に行っただろ。憶えてる?」
 ああ、と曖昧に答えたが、木村は構うことなく続ける。
「あれも海を見に行く話だったろう、それを思い出さないか」
 そうして映画のあらすじを語り始める。

 木村はその映画を以前に見ていて、既にお気に入りだった。
 それが夏休みに、小さな映画館で改めて上映することを聞きつけた。
 まるで慣れていない木村の誘い文句を今でも覚えてい

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第3話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第3話

【第1話はコチラから】

 靴が無くなった下駄箱を見つめ、じっと立つ木村。

 教室で声を荒げて以来、次に憶えているのがこの姿だった。
 もっとも最初は立ち尽くしている理由を知らず、ただ話しかけまいと木村の存在を無視して通り過ぎたのだった。

 木村に対する制裁が始まったことを知ったのは、それから少し後のことだった。

 木村を攻撃対象に選んだのは陰湿な奴らだった。

 自分より弱いと思う対象を虐

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第2話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第2話

【第1話はコチラから】

 高校三年で再び同じクラスになった。

 初めのうちはお互いに喜んだ。
 しかし、何かが違っていた。
 同じクラスには、それまで培ってきた人間関係に通じる人間もいた。
 基本的にはその人間達と一緒にいることが多かった。
 木村に話しかけることも続いたが、木村は無理してつるむことを良しとしない。
 同じクラスにいながら、いつもの連中と木村、それぞれ別で付き合うやりづらさが発

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第1話

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 第1話

「俺は君を許す」

 静かに発せられたのは、こちらが乞うたわけでもない許しだった。

想定すらしていない言葉に強い動揺を覚えもしたが、しばらくすると思い出すことさえなくなった。

 卒業式後の校門前で別れて以来、あいつとは会っていない。久々によみがえった記憶を反芻して、電車の中吊り広告を眺める。そこにあいつの顔がある。
 そして反芻する記憶は苦い。
 だがそれも、結局はどうでもよいことだった

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