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#小説

【1話完結小説】コツコツコツ

【1話完結小説】コツコツコツ

コツコツコツ___

真夜中。私の部屋の窓ガラスを外から誰かがノックしている。ここ、アパートの5階なのに。
…なんてよく聞く幽霊話。無視すりゃいいじゃん。カーテンさえ開けなきゃ外に何がいようが分からないよ。私は今、そんなもの相手にしてる場合じゃないんだから。イヤフォンを耳にはめ、お気に入りの音楽を聴きながら目を閉じた。段々意識が遠のいていく。

…なんてごめんね。無視されるのって辛くて悲しいよね。

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【1話完結小説】何者

【1話完結小説】何者

彼女がぷりぷり怒りながらやって来てまくしたてる。
「知らんけど、が流行ってるんやって。よその地域の言葉を面白おかしく使わんで欲しいわ。ホンマ腹立つ。大体軽い気持ちで“使ってる私(俺)、おもろない?”って思ってんのが見え見えでめっちゃムカつく!そんなんに飛びつく人って絶対自己顕示欲強いアホやねんで。ほんで飽きたらすぐ使わんくなんねやろ」




…アレ?僕は不思議に思って尋ねた。
「この流れだ

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【1話完結小説】Trick or Treat or …

【1話完結小説】Trick or Treat or …

気だるい仕事帰り。僕はホームセンターに寄ってからいつもより少し遅い時間に最寄駅に降り立った。ライトアップされた駅前通りは浮かれた若者達の仮装行列でごった返している。今日はハロウィン。いつからこんな得体の知れない行事が市民権を得たのだろう。何が楽しいのかちっとも分からない、最低最悪の日だ。

若者達に圧倒されつつ駅前通りを抜け、ふらふらと住宅街に辿り着く。さすがにここまで来ると、ハロウィンの喧騒が嘘

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【1話完結小説】因果

【1話完結小説】因果

「この子達がいるから貴女は連れて行けないの。ごめんね」
弟1と手を繋ぎ、弟2を抱っこ紐で体にくくりつけ、母は笑顔で言った。

待って…!待って…!お母さん…!!

30年後。

母が生活保護受給の申請をしたらしく、役所が娘である私を探し当て経済的援助を打診してきた。30年ぶりに会った母は、私にとっては見知らぬおばさんも同然だった。一応孫を見せるつもりで息子達を連れて来たものの、母は興味もないようで

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【1話完結小説】存在認識

【1話完結小説】存在認識

小学校が小学校であるのは、そこに小学生や先生達が居て、彼らが「僕は小学生だ」「私は小学校教師だ」「ここは小学校である」と認識しているからにすぎない。
その証拠に、放課後になって生徒達が帰り、スポ少の野球少年達が帰り、遅くまで明日の授業の準備で残っていた最後の先生が引き上げてしまうと、途端にソレは小学校ではなくなってしまう。ソレを“小学校”として見る者が一人もいなくなった時、ソレが小学校でいなければ

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【1話完結小説】蝉

【1話完結小説】蝉

毎年夏になると蝉の鳴き声がして、「ああ夏が来たな」なんてぼんやり思うものだが、今年の蝉の声は少し違った。

「ほらほら夏が始まるよ!なんでもできる夏が始まるよ!君がその気になればなんだってできる夏がさ!いつまでも暗い部屋にこもってないで早く家から飛び出そうよ!僕らもずっと暗い土の中にいたから分かるんだけどさ、やっぱり明るくて広い外はサイコーなんだぜ!好き好んでそんな暗い部屋にずっといるヤツの気がし

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【1話完結小説】火事だ!

【1話完結小説】火事だ!

道で不審者に襲われた時「助けて!」よりも「火事だ!」と叫んだ方がみんな出てきてくれる…そんな話を咄嗟に思い出した。
夕暮れ時の住宅街。今まさに不審者と対峙した私は大声で叫ぶ。

「火事だ!!!」

近所の家々の玄関や窓がすぐさま開く。

「火事?」「どこ?」「どこも燃えてなくない?」「全然燃えてないよ!」「悪戯?忙しい時間帯に人騒がせな!」

みんな炎が見えないことを知るとサッサと自宅に戻ってゆく

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【1話完結小説】昔話:セルフ風評被害

【1話完結小説】昔話:セルフ風評被害

ある昼下がり。若く美しい旅の男がある街のある橋に差しかかった。
ちょうどその橋の上に、若く美しい女が思い詰めた様子で立っていた。その様子はまるで地上に舞い降りた天女のごとく儚くも美しい佇まいであった。
旅の男は、「なぜそんなに悲しそうな顔をしているのですか?」と思わず声をかけた。
女はうつろな瞳で答える。「私は、人として生まれたからには美しく優しい男性に愛されたいという己の欲望を生まれてこのかたず

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【1話完結小説】さようなら、向日葵の季節

【1話完結小説】さようなら、向日葵の季節

夏の終わりの夕方、つまらないいつもの仕事帰り。ふと横を見ると、畑の向日葵達が私に向かって全員こうべを垂れていた。
「ちょっ、何もそんなに謝らなくても…」と言いかけて不意に気付いてしまった。
そうか、小綺麗にして愛想よくさえしていれば許される季節はもう終わるのだ。
残された時間はあとどれくらいあるのだろう。向日葵にも、私にも。

【1話完結小説】孤独

【1話完結小説】孤独

 地球人最後の一人になった時が本当の孤独だとしたら、私達人類はまだ誰も孤独というものを知らない。
 …そんな事を考えてたら別にどうでも良くなってきて、ハブられてる2年1組の教室から抜け出した昼休み。サヨナラ、小宇宙。
 今日は青くおっきな宇宙の下でお弁当を食べよう。お母さんが私のために早起きして作ってくれたお弁当。お父さんと妹とおんなじお弁当。隣の優しいお婆ちゃんがお裾分けしてくれたミニトマトが入

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【1話完結小説】見えてるくせに

【1話完結小説】見えてるくせに

「ねぇ、私のこと見えてるんでしょ」

会社帰り、駅前の雑踏で血塗れの女が話しかけてきた。女の体は半分透けている。明らかにこの世の者ではない。
見てはいけない、答えてはいけない…。

目線をそらし無視を決め込む僕に、女はしつこく付き纏う。

「見えてるくせに!見えてるくせに!返事くらいしなさいよ!」

女の声は段々ヒステリックに大きくなっていった。僕は「早く消えてくれ」と祈りながらひたすら自分のつま

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【1話完結小説】休日の洗濯物

【1話完結小説】休日の洗濯物

晴れた休日の朝。
光の中で揺れる洗濯物を見るのが好きだ。

汚れと一緒に慌ただしい平日のしがらみもすっきり洗い落とされたかのようなブラウスやスカートやタオル。
時おり気持ちいい風が吹き抜けて、踊るようにゆらゆら揺れる。
柔軟剤のいい香りがあたりにふわふわ漂う。
今週も一週間お疲れ様。
やっと楽しい休日が始まるよ。
思い切り羽を伸ばそうね。
…それはそうと柔軟剤、変えたのかな?
僕は先週までのフロー

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【1話完結小説】考えすぎて

【1話完結小説】考えすぎて

「家まで送ってあげるよ」
下校中、車に乗ったおじさんが声をかけてきた。

知らない人について行っちゃいけない…って散々聞かされてるから知ってるけど、このおじさんはどうも近所のマイちゃんちのパパのようである。顔も声も服も車も何となく見覚えがあるのだ。私はいつも2、3回会っただけの人の顔をしっかり覚えられないので確信が持てないけれど。きっと、たぶん、そう。

でも改めて「マイちゃんのパパですよね?」と

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