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【1話完結小説】火事だ!

道で不審者に襲われた時「助けて!」よりも「火事だ!」と叫んだ方がみんな出てきてくれる…そんな話を咄嗟に思い出した。
夕暮れ時の住宅街。今まさに不審者と対峙した私は大声で叫ぶ。

「火事だ!!!」

近所の家々の玄関や窓がすぐさま開く。

「火事?」「どこ?」「どこも燃えてなくない?」「全然燃えてないよ!」「悪戯?忙しい時間帯に人騒がせな!」

みんな炎が見えないことを知るとサッサと自宅に戻ってゆく。ドアや窓の閉まる無情な音。

「あっ、ちょっ、みんな待って!不審者が…」

言い終わらぬうちに住民達の姿は目の前から消えてしまった。

「…世も末だな」

不審者が気の毒そうな顔でこっちを向き、肩をすくめた。
それから私達はすぐ意気投合して、駅前の居酒屋に行き、不審者に襲われた時のベストな対応について熱く語り合ったのだった。

〈終〉

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