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#エッセイ

リレーで「自分」を抜き去ったあの日

リレーで「自分」を抜き去ったあの日

「運動神経抜群の人」
私は周囲にそう思われている。

アスリートとして活動して、引退後もトレーナー・インストラクターになり、スポーツ業界には長く携わった。今も、筋トレは趣味のひとつだ。

シングルマザーは、毎日が体力勝負。
滅多に風邪をひかない肉体は、私の武器だ。

しかし実は、子ども時代は全く運動ができなかった。

いわゆる「運動音痴」だったのだ。

● ● ●

体格は標準だった。
運動会、ぽ

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「空気」をおそれて会社をやめた私がみつけた、心にしたがう働きかた

「空気」をおそれて会社をやめた私がみつけた、心にしたがう働きかた

携帯電話をお風呂の天井からぶら下げて、シャワーを浴びていた。

18年前、まだスマホが存在しなかった「ガラケー」の時代の話だ。

夜景のきれいな港町で、私は駆け出しの新聞記者として働いていた。

今の若い記者のひとが、どんなふうに働いているかはわからない。私が新人だったころ、私が働いていた場所では、深夜でも休日でも、電話がかかってきたら15分以内に身支度をして、事件や事故が起こった場所に向けて出発

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【#キナリ杯】岸田奈美が私にもたらしたもの

【#キナリ杯】岸田奈美が私にもたらしたもの

岸田奈美という存在は、私に苦悩を生んだ。
話題になった「赤べこ」の記事以来、彼女の綴る文章を読むと心の端が、ぐにゃりとつねられたようで淡い違和感がはしる。はじめ私はこの理由がわからなかった。だけど、わかった。

わかるまでに、半年以上かかり、それまでに関連するいくつかの出来事があった。(なんと時系列関係なく、私が触れたい順で触れてく。)

一つ目に挙げる出来事は、かなり直近。今年の5月頭に、我

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「他のひとにできていることが、なぜ自分にはできないんだろう」

「他のひとにできていることが、なぜ自分にはできないんだろう」

いつもはすっかり忘れていることが、ほんの些細なきっかけで心のなかに押し寄せてくる夜がある。楽しかった飲み会の帰りに信号待ちをしながら。友人の近況報告を聞いたあとのお風呂のなかで。待てど暮らせどやってこないバスを見限って歩く道の途中で。

「どうして他のひとにできていることが、自分にはできないんだろう?」

この気持ちにとりつかれたときは、静かにやり過ごすしかないことを知っている。慌てず、騒がず。け

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人生でいちばん大切なことを教えてくれた、あるおばあさんとの1ヶ月

人生でいちばん大切なことを教えてくれた、あるおばあさんとの1ヶ月

人は死んでも、死なない「そういえば、そろそろ5年経つかな?」
「うん、そうだね。」

「今思い出しても、かっこいい旅立ちだったよね。」
「うんうん。あんなにすがすがしいお看取りは
後にも先にもないよね。」

かつての同僚と飲みに行くと
看護師である私たちは、決まってある患者さんの話をします。

名前は田中さん(仮名)
大腸がんで5年前に亡くなった患者さんです。

彼女は私が関わった患者さんの中でも

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