石野奈央(なおぽん)

読書を愛する積読家/9歳6歳の息子2人と暮らすシングルマザー/元アスリート/これまでのチ… もっとみる

石野奈央(なおぽん)

読書を愛する積読家/9歳6歳の息子2人と暮らすシングルマザー/元アスリート/これまでのチョット変わった経験や日々の暮らしをエッセイに/Twitter 石野奈央 @nao_p_on https://twitter.com/nao_p_on

最近の記事

恋なんて、しなきゃよかった。

二十歳の頃、千葉の八千代台に住んだことがあった。 京成線で日暮里から1時間くらい。縁もゆかりもない、まったく知らない街だった。 当時おつきあいした人に「一緒に暮らそう」と言われて借りた家。結局、彼がその家に入ることは、一度もなかった。 その頃、私はプロアスリートとして、朝は飲食店、日中は自分のトレーニング、夜はトレーナーのバイトをして稼ぎ、なんとか生活していた。 ずっと、恋をしている暇なんてなかった。 学生時代からそうだ。おかげで、いまだに恋愛偏差値が低い。 それでもよか

    • 豆より団子の鬼退治

      「もも太郎はなんで、おに退治に、豆をもっていかなかったんだろうねぇ?」と、弟が聞く。 「そんなものじゃ退治できないからだよ」と、兄が答える。 我が家の息子たちは、なぜか鬼を信じる。 インターネット検索、YouTubeで最新情報を拾い、UMAなんて作り物というくせに、鬼の存在だけは絶対だ。 「おにから電話」というスマホアプリがある。 友人から聞いて知った。多くの子育て家庭で活躍しているらしい。鬼から電話がかかってくる設定は面白いけれど、ビデオ通話のようにイラストの鬼が出るの

      • 線路はつづくよ 前橋旅情編

        我が家にはふたりの「子鉄」がいる。 子鉄、そう、鉄道を愛する子どもたちだ。 子鉄たちは、電車に乗れればご機嫌だ。いつもと違う電車ならなおさらだ。 「そうだ、前橋行こう」  私のお目当ては10月29、 30日に群馬県前橋市で開かれた『前橋BOOK FES 2022』。 子鉄たちは新幹線乗車という一大イベント。 申し分ない週末だ。そうなるはずだったのだ。  上野駅。在来線から少し離れた「特別感のあるホーム」へ向かうにつれ、子鉄たちの顔は緊張感を増していく。 次男は今日が新

        • 初秋の折から

          先日、岡山の友人から桃が届いた。 特に知らせもなくやってきた箱を開けると、ほどよく熟れた桃がゴロゴロと並んでいた。なかなか手の届かない高級品である。 息子たちも、わっと覗き込んだ。 クール便で届いた桃たちは、キンと冷えていた。 「しばらく室温におくと美味しく召し上がれます」との案内は横にのけ、まずはひとつ味わってみようということになった。 祖母から学んだ桃の切り方は、少し独特だ。 綺麗にくし型に切り分けられた桃は見栄えがするけれど、それよりも手早くて、切り手に秘密の楽し

        恋なんて、しなきゃよかった。

          房総の海岸で暴走兄弟が空を見上げた夏の日

          その日、私たちは、乗り過ごすことなく無事に、安房小湊駅についた。 息子たちは先頭まで走って、特急わかしおと記念写真を撮り、ピシッと敬礼で送り出した。 駅には、見たこともない自動改札機があった。 駅員も客もいない駅で、キャッキャと騒ぐ。 ****** 息子たちも私も、銭湯や温泉が好きだ。 前回、温泉旅行に行ったのはもう2年前で、今年こそはもう一度行こうと、春先から話していた。 行き先は、スパ三日月安房鴨川。 片道約3時間の電車旅。乗り換えが4回。 健康保険組合の夏期保養

          房総の海岸で暴走兄弟が空を見上げた夏の日

          かぞくのじかん、匂いのバトン

          小学生のころ、給食室の前を通ると、あの匂いが漂ってきた。 なんとなく甘く、青臭く、正体はわからないのに懐かしい。 何の香りだろう。ずっと考えていた。 ****** 昔から、匂いに敏感だ。 だいぶ前、テレビ番組で、あるタレントが「誰かが引いたトランプを嗅覚で当てる」というマジック紛いのかくし芸を見せていた。 私は、幼い頃まったく同じことができた。 鋭敏な嗅覚が、生活の中で最も役に立つ場面。それが料理だ。 料理は独学だ。 子どもの頃、食卓にはいつもレトルト品やスーパ

          かぞくのじかん、匂いのバトン

          『月刊なおぽん』半年を振り返る

          王様の耳はロバの耳。 わたしにとってnoteは、ツイートできない言葉を書き溜める「秘密の穴」だった。 公開しないのだからどこに書いてもよかったのだけど、あえてnoteを選んだ理由は、どこかに「いつか形に」という思いもあったのかもしれない。 …………………………………………………… 幼い頃から、文章を書くのは好きだった。 絵日記、遠足の作文、校内新聞、読書感想文コンクール、スピーチコンテストなど、舞台が大きくなる度にワクワクした。何より評価をもらえることが嬉しかった。

          『月刊なおぽん』半年を振り返る

          小さなお兄ちゃん

          得意げに九九を読み上げていると、近所の人に「すごいね!」などと褒められる。 「今の人、僕のことをとても褒めていたけど、絶対小学生だと思ってないよね」そんなことをケラケラと笑いながら言う。 「双子ですか?」 息子たちを見た多くの人がそう尋ねる。 彼らの顔は本当によく似ているし、背格好もほぼ同じだ。 今年3年生になった長男と、保育園ラストイヤーの次男。 実は4つも歳が離れている。 長男は「糖原病」という病気なのだ。 ***** 「糖原病(とうげんびょう)」という病名を

          小さなお兄ちゃん

          リレーで「自分」を抜き去ったあの日

          「運動神経抜群の人」 私は周囲にそう思われている。 アスリートとして活動して、引退後もトレーナー・インストラクターになり、スポーツ業界には長く携わった。今も、筋トレは趣味のひとつだ。 シングルマザーは、毎日が体力勝負。 滅多に風邪をひかない肉体は、私の武器だ。 しかし実は、子ども時代は全く運動ができなかった。 いわゆる「運動音痴」だったのだ。 ● ● ● 体格は標準だった。 運動会、ぽっちゃりと体格のよい子供たちがかけっこ競技で遅れをとる中、さらにその後ろを走って

          リレーで「自分」を抜き去ったあの日

          コテツの浪漫

          コテツという言葉、ご存知だろうか。 いや、そんな血に飢えたのではなく。 新日本プロレスの鬼軍曹でもない。 「子鉄」と書く。 子どもながらにして鉄道を愛してやまない男たち。 そんな謎の生物が、我が息子たちなのだ。 ◎◎◎ 電車好きに仕向けるようなことは一切なかった。 彼らは自ら、数あるオモチャの中で、電車を選んだ。 誰に教わったわけでもなく、床に寝ころび、車輪を堪能する。 長男から次男へと引き継がれた伝統のスタイルだ。 長男は電動派、次男は手転がし派。 長男はレー

          祖父と竹トンボと私

          「きれいなお嬢さんがいらっしゃった。今日はどちらから?」 3年前のある日、私は房総半島の奥地で突然、ナンパされた。 モテ自慢ではない。 手を握って私を口説いていたのは祖父だった。 認知症を患い、私が自分の孫なのも分からなくなった、最晩年の祖父だった。 (間に合わなかった) そう思った。祖父の中にもう、私はいない。蘇ることもない。 でも、そうではなかった。 この時、祖父から孫として、最後の贈り物をもらった。 大好きだった、ちょっと変わった祖父のことを書いておこうと思う。

          祖父と竹トンボと私

          「なおぽん」が生まれた日

          ここに二つの書影がある。 似ている。 平仮名で「みたい」と、入っているし。 あのとき、私は間違えて本を買った。 そして、それが全ての始まりだった。 · · • • • ✤ • • • · · 2018年にTwitterを始めたきっかけは、堀江貴文氏の「Twitterでシャワーのように情報を浴びる」という言葉だった。 早速アプリをインストールするも、問題は「名前」だった。 私は「名づけ」が致命的に苦手だ。 アカウント名やRPGゲームの主人公の名前に、1週間は悩む。 こ

          「なおぽん」が生まれた日

          そして今日も自転車に乗って

          私は今日も、自転車に乗って荒川を越える。 いつだって満員電車知らずの自転車通勤組だ。 スポーティーな通勤バイクではない。 いわゆる「ママチャリ」ユーザー。ただのママチャリではない。 「電動アシスト自転車」なのだ。 ◎◎◎ 通勤路の荒川に架かる全長500メートルほどの橋。 両端の勾配がきつく、自転車は押し歩いて渡るルールだが、サラリーマンや学生たちは鬼の形相で立ちこぎして上っていく。 それを尻目に、私はすいすいと駆け抜ける。文明の勝利だ。 敵は、天候だ。 冬は、毎朝、

          そして今日も自転車に乗って

          心は折れない

          「これまでに、ぽっきりと心折れた経験はありますか?」 私にはそんな経験がある。 その時、私は生きることに心折れた。 ぽっきりと折れて、もう戻らない。あの時、確かにそう思った。 でも、そこから私は救われたのだ。 「偶然」と「言葉」によって。 +++ 最初に就職した会社で壮絶なイジメに遭ったときも。 全く知らない土地でひとり暮らしすることになったときも。 ある階級制競技に挑戦したものの減量が間に合わず献血で400ml抜いて計量をパスしたときも。 未就学児2人を抱えて無職で