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線路はつづくよ 前橋旅情編

我が家にはふたりの「子鉄」がいる。
子鉄、そう、鉄道を愛する子どもたちだ。
子鉄たちは、電車に乗れればご機嫌だ。いつもと違う電車ならなおさらだ。

「そうだ、前橋行こう」

 私のお目当ては10月29、 30日に群馬県前橋市で開かれた『前橋BOOK FES 2022』。
子鉄たちは新幹線乗車という一大イベント。
申し分ない週末だ。そうなるはずだったのだ。

 上野駅。在来線から少し離れた「特別感のあるホーム」へ向かうにつれ、子鉄たちの顔は緊張感を増していく。

背中から真剣さが伝わる

次男は今日が新幹線初乗車だ。

長男は、埼玉県大宮市の鉄道博物館に行くためだけに、上野から大宮まで新幹線に乗った経験がある。半歩ぐらい兄のリード。

200系カラーのE2系に遭遇し言葉を失う二人

ホーム待機中、行き交う新幹線を眺めて、兄弟は既に感無量の様子だった。
「親子で目的がズレている感」に不安を覚えながら、新幹線に乗り込んだ。
「新幹線で食べるおにぎりは格別だね」とコンビニおにぎりを頬張る長男。究極の味つけは「気持ち」なのだよ。

高崎で両毛線に乗り換えた。目の前に止まった電車の案内板がくるくると回り、行き先が変わった。両毛線には降乗車用ボタンもついていた。
子鉄たちは見るものすべてに目を輝かせていた。

前橋。
降りると「チューリップのうた」の発車メロディーが流れた。
兄弟はホームの先頭まで走り、電車を見送った後、ホームから向こうに広がる線路の景色をいつまでも味わっている。「早くイベント会場に…」と出かかった言葉を堪えていた時。
ひとりの女性に声をかけられた。

「もしかして、なおぽんさんですか?」

 少し迷って、「はい、そうです、なおぽんです。」とこたえた。

「わー、よかった!ほぼ日拝見して、もしかしたら、って思ったんです!」

石野奈央として、ほぼ日刊イトイ新聞に連載決定後、声をかけてくださった記念すべき一人目の「タカハシさん」に家族写真まで撮っていただいた。

私たちはどうしても親子でうつる写真が少ない。こんな風に撮っていただけるのは本当に嬉しい。
ゆっくり話もできなかったし、肝心のタカハシさんとの記念写真もうっかり忘れてしまったが、タカハシさん、あなたのことは忘れない。

改札を出た。あちらこちらのイベント幕が、場所案内の役割を果していてありがたかった。
どこの街でもだいたい迷子になる私が必死で正解ルートを探しているとき、息子たちは、顔はめパネルで遊んでいた。

とれたんずと、撮れたんず

前橋を楽しんでいる。いいじゃないか。でも、そろそろ会場に向かいたい。

駅前でバスに乗り込んで、「本町」で降りて、運転手さんの指示通り右に曲がると、イベントメインストリート、中央通り商店街があった。

おや?
おやおや?

遠目でモゾモゾと動いていたものは、下をのぞき込んでいる大勢の人々の頭だった。
アーケードの下に、信じられないほどの人が集まっていた。

いよいよ、ブックフェス、スタートだ。
本を楽しむもよし、フェス飯を堪能するもよし、私のワクワクが最高潮に達したときだった。

 「プラレール買って」

商店街の中、立ち寄ったおもちゃ屋に次男の気持ちは全てもっていかれていた。一旦、火がついたら止まらない。

「プラレール買ってよぉぉぉお!!!」

中央通り商店街の真ん中で、プラレール愛を叫んでいたのは私の次男だ。

説き伏せてだましだまし前橋プラザ元気21へ移動した。にぎわいも美味しそうなお店も素通りするしかなかった。

ビルの3階につくと、「ミッケ!」の文字を目ざとく見つける息子たち。トークイベントに後ろ髪を引かれながら、奥のミッケ!コーナーへ。

「ミッケ!ミッケ!!」

静かなミッケコーナーの真ん中で、ミッケ愛を叫んでいたのも、私の息子たちだ。

自由奔放な子鉄たちの小旅行のメインディッシュはやはり電車だった。久々の長旅を楽しみ、前橋散歩も喜んでくれていた。
いいじゃないか。
母さんは、本を交換するはずのリストバンド買っただけだよ、なんて恨み節を言わないことにしよう。お腹もペコペコだよ、なんて言わない。
君たちの笑顔が一番だ。
君たちは、そんな母を振り返りもせず、新幹線ばかり見ているけどね。

帰りはE7系に乗れるなんて!

これは、私のお土産。あの場所にいた証。
世の中全体が少しずつ前を向き始め、人が集まって、交流するのを見られただけでも、なんだか嬉しかった。

(本の交換もできたはずなのに…)

息子たちが手に入れたものはこれである。

中央線のプラレールと、上野駅にあった謎のUMAのガチャガチャ。
何しに行ったの、君たちは。

「また行こうね、ミッケ前橋!」

まぁ、いいか。
次回の「ブックフェス」に、母の楽しみはとっておくことにしよう。

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最後までお読み頂き、ありがとうございます。

我が家の子鉄たちのお話、こちらも併せてご覧いただけたら嬉しいです。


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