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少し楽しようと思って転職したら逆に楽過ぎて心配なんですけど?~成長と自分らしさの間でキャリアの岐路に立たされた29歳(カズキ)の悩み②解説編~

こんにちは。株式会社シンシア・ハートで代表取締役をしている堀内猛志(takenoko1220)です。
前回のnoteでは、「40代半ばからのスタートアップへの挑戦は無謀なのか?~キャリアの後半を考える大手企業管理職45歳の悩み①~」について書きました。

どんな人をペルソナとしているかは上記のnoteからご確認ください。今回のnoteは今回のモデルであるかずきは条件がいいはずの転職でなぜミスマッチを感じてしまったのか、どうすべきだったのか、ということについての解説していきます。


転職時は「今不足しているモノ」が得られるか以上に「今満足しているモノ」がちゃんとあるかを確認する

転職を考えるときにほとんどの人は「今の環境よりも良くなること」を期待します。当たり前ですね。

しかし、それがゆえに、現職ですでにあるモノ(=満足しているモノ)を確認しない傾向にあります。「あるのが当たり前」と無意識に考えているためにわざわざ確認しようと思わないんですよね。これが今回のカズキの事例では転職失敗の一番のトリガーでした。

このような問題を避けるために、以下のような優先度チャートを作っておくべきです。

転職時に使える優先度チャート

作り方は以下の通りです。

1.自分が働くうえで大事にしていることを全部書き出す
2.その中で重要な5つの指標を選ぶ
3.現職でそれら5つの指標がそれぞれ5点満点中で何点かを決める
4.転職先ではそれらの5つの指標がそれぞれ何点にしたいかを考える
5.ただし、合計点数は現職と同じにすること

大事なポイントは1と5です。
1ですべての指標を出し切ることが大事です。カズキの場合、ここで出し切らずに欲しい指標ばかり考えたことで失敗しました。まずは全て出し切りましょう。そこから5つ選ぶという順番を踏むことで大事な指標の選び忘れを防ぐことができます。

また、5のように現職と転職先の点数を変えないこともポイントです。ほとんどの人が転職するときには現職よりもすべての指標を良くしたいと考えますがそれは不可能です。だって、あなたの力が転職時に劇的に上がるわけじゃないのですから。

何かを得ることは何かを失うことです。この調整の思考を持ちましょう。もちろん現職があまりにひどい環境であれば転職時に総合点数が上がることもあるのですが、ほとんどの人の転職では上がらないと思って活動を実施してください。そうすることで転職先に過度な期待をせずに済むので、妥協や我慢ができる指標とも転職後にうまくアジャストすることができます。

たまに、すべてを兼ね備えた企業がどこかにあるはずなので諦めずに探したい、という人がいます。白馬の王子様が見つかるかのような考えですね。それはその人の自由なので止めはしないのですが相当確率は低いです。だって、見つかったとしても白馬の王子様があなたを選んでくれる確率は相当低いのですから。良い条件の企業が求める条件は相当高いのです。

企業ごとの「基準解釈違いの罠」に落ちないよう具体的に確認する

次の失敗ポイントは「基準解釈違いの罠」です。
これは転職時に限ったことではないですが、人のコミュニケーションのズレは解釈対解釈で起きやすいです。具体的には以下の通りです。

上司:「この業務をなるはやで終わらせて!」【解釈】
   (1時間以内に終わらせて欲しい)【事実】
部下:「わかりました!」
   (今日中でいいかな?)【解釈】

よくある話ですね。部下は「なるはやとは何時ですか?」と聞けばこのズレは起きませんでしたが、お互いに「おそらく伝わっているだろう」という過度な期待をしてしまったことで確認せずに進んでしまい、結果お互いにストレスがかかる結末を迎えることになるわけです。

これが転職時にもよく起きます。

「若いうちから昇格できます」
「アットホームな会社です」
「権限移譲がしっかりしているので自由にできます」
「コミュニケーションが活発です」
「頑張れば頑張るほど報酬は上がります」

このようなセリフは自社を説明する人がよく使いますよね。でもそれぞれ具体性に欠けています。

「若いうちから昇格できます」の『若い』って一体何歳でしょうか?スタートアップなら20代前半をイメージするでしょうが、大手企業なら30代後半で課長になることを『若い』と捉えていることがあります。

「頑張れば頑張るほど報酬は上がります」はどれくらいのピッチで上がるのでしょうか?受け取りては天翔知らずだと思っていたところ、半期の評価の昇給のキャップが1万円だった、なんてこともよくあります。報酬制度のレンジにキャップは絶対にありますからね。

カズキは「スタートアップはみんな同じ感じではないか」と解釈してしまいました。人の数だけ解釈があるように、企業が違えば解釈は絶対に異なります。同じスタートアップカテゴリーに入っても解釈の違いは必ずあるのです。

主体的な人でも「自分で変えられるモノ」と「変えられないモノ」があることを認識する

カズキは主体的な人材です。だからこそ自己責任で考えて自らの手で環境を変えようとしました。その意志や姿勢は素敵です。しかし、組織には変えられるモノ、変えられなくはないけど時間がかかるモノ、変えられないモノがあります。

変えられるモノ:自分の責任権限の範囲内にあるモノ
変えられないモノ:自分の責任権限の範囲外にあるモノ

組織とは、同じ目標を持ち、それぞれの役割を持った集団のことです。つまり、個人にはそれぞれ責任と役割があり、まずはそれを個々人が徹底することで組織がシステムとして機能します。

目的よりも先にルールが来ないように、目的に沿ってルールはどんどん変えるべきではありますが、常に変えていてはルールそのものの意味がありません。野球で例えるならピッチャーの役割とファーストの役割は明確に違うのです。その役割の違いを認識せずにファーストがマウンドで守備を始めたらカオスです。

つまり、まずは自分の責任と役割を果たすことが組織が機能するうえでの必要十分条件であり、それらを明確にするために作成されたのが決裁権限表です。カズキは小さなスタートアップでリーダーを任されていたので、かなり自由度が高い働き方ができていたのでしょう。従業員数も少ないので、ファーストの位置からレフトやセンターに指示ができていて、且つ、それぞれのメンバーも柔軟にアドバイスを聞き合っていたのかもしれません。

しかし、規模が大きくなるとそれは難しくなります。ファーストのポジションだけでも複数人の候補が存在するくらい大きなチームではポジションごとに練習を行うために違うポジションとのかかわり合いは希薄になります。ファーストとセカンドのように近いポジションなら連携プレイも必要でしょうが、レフトに飛んだボールをファーストが獲るようなことは絶対にないように、遠いポジションほど連携は薄く、コミュニケーションは少なくなるのです。

連携がなく、コミュニケーションが少ないメンバーからいきなり指示命令やアドバイスが飛んで来たらどう思うでしょうか。多分イラっとする人がほとんどのはずです。つまり、そのようなことがないように自分の役割責任をきちんと果たし、チームがシステムとして機能するようにそれぞれがそれぞれの決裁権限の中でのみ動けばいいのです。

このチーム規模の違いによるシステムの違いをカズキは認識できていませんでした。それぞれどのように違うのかを確認する意味で、以下の7Sに沿って企業を評価するとわかりやすくなると思います。

マッキンゼーによる組織の7S ※HEART QUAKEより引用

つまり、現職の風土や文化が気に入っているという人は、上記の7Sが現職に近いかどうかを確認するとわかるということです。文化を言語化するとやはり解釈になりやすいので、文化を形成する要因となる上記7Sについて具体化すると文化の解像度が上がるでしょう。

ちなみに、企業文化と企業風土は似ていますが違うモノです。これらの違い、及び、文化が浸透しているかを確認することも重要になるので、以下のnoteを参考にしてもらえればと思います。


各年代でやっておくべき「時間投資」を間違えない

複業で稼ぐこともフリーランスになって稼ぐことも簡単になりましたが、1社目で少し専門力がついた20代の人がすぐに複業を始めたり、フリーランスになってタイパよく稼ごうとすることには待ったをかけたいと思っています。

それは20代や30代前半という大事な時期に「自分の時間」や「インスタントな知識」をお金に換えるだけの消費行動に使うのはもったいないと思うからです。

お金と同じく時間の使い方も3つに分かれます。

投資:後々リターンが見込まれることに使う時間。勉強など
消費:日々生活していく上で欠かせないことに使う時間。移動など
浪費:何も生み出さないことに対して無駄に使う時間。必要以上の惰眠など

この3つでいくといかに浪費時間をゼロにして、消費時間を効率的にして、投資時間を多くとるか、ということが大事になります。

また、この時間は投資、この時間は消費、と完全に分かれるわけではなく、やり方次第で投資にも消費にもなる時間があります。例えば、私が今書いているnoteがまさにそうです。何も考えずに単に文章を書いているだけなら浪費の時間になりますが、短期目線でマーケティングを意識した記事を書いていれば消費の時間になり、長期目線でブランディングを意識した記事を書いていれば投資になります。

▼noteを書く時間は意識次第で意味が変わる
投資の時間:長期目線のブランディングとしてファン増加を狙った時間
消費の時間:短期目線のマーケティングとして今の売上向上を狙った時間
浪費の時間:何も考えずに単に文章を書いて発散している時間

まあ今の時代は浪費というか何も考えずに書いた文章がいきなりバズって本を出すなんてことも起こる時代ではありますが、そんな奇跡はなかなか起きないとすると上記になりますね。

そして、投資と消費を考えるうえで重要なのは、PL脳からBS脳になることです。この脳を持っていないと消費よりも投資が重要なことに気づけません。

PL脳:原価(使う時間)を下げ利益額を向上させる ☛タイパ/コスパ
BS脳:資産を回転させ原価(使う時間)を極力ゼロにして利益を生み出す

タイパ、コスパを求める若者が増えていますが、その考え方こそPL脳です。かける時間を減らして最大限の利益を得る考えは悪くないですが、少しの原価(時間)で生み出せる利益はたかだかしれています。具体的に言うと、複業の少しの時間や少しの知識だけを使ったフリーランスとしての対価はごく少額の小遣いにしかならないということです。

あなたの20代~30代をそんな消費の時間に使っていいのでしょうか?と問いかけてください。

各年代では以下を意識すると良いという考え方があります。

20代:(V)バラエティ。いろいろやってみるのがいい  
30代:(S)スペシャリティ。専門性で戦う  
40代:(O)オリジナリティ。あの人っぽいよね、と言われるようにする
50代:(P)パーソナリティ。あの人と仕事したい!と思われるようにする

40代、50代を上記のように生きるためには、20代、30代を上手に使う必要があります。例えるなら、20代、30代は足し算の時間で、40代、50代は掛け算の時間になります。

20代/30代:足し算の時間
 ☛ ●●力や▲▲力を身に着ける/●●力や▲▲力を磨き上げる
40代/50代:掛け算の時間
 ☛ ●●力×▲▲力でオリジナルの★★力を生み出す

若者は生き急ぐので早く掛け算の生き方をしたいでしょう。しかし、ゼロに何をかけてもゼロのように、持っているスキルがないのに掛け算はできません。まずは専門力を作り、磨くという足し算の時間があって初めて掛け算が活きてくるのです。

会社員でいるよりも複業やフリーランスで個人で稼ぐ方がコスパ、タイパは絶対にいいです。しかし、20代でそのように働くのは間違いなく消費の時間になり投資にはなり得ません。なぜならば、複業の業務委託人材やフリーランスに依頼する内容は、「あなたがすでに持っているスキルをこすり続けてできること」だからです。逆に言うと「あなたが持っていないスキルを使ってできること」はあなたに依頼はこないわけで、新たなスキルや経験の獲得にはならないということです。

わかりますよね?つまり、短期的にはコスパよく稼げているつもりになりますが、そのスキルをこすり続けていても新たなスキルの獲得にはならず、いつしか枯渇して売り物にすらならなくなるということです。そこに20代という時間を使い続け、30代半ばを迎えている、、、という状態になると怖いですよね。

よって、20代に会社員として働くのは悪くないと言えます。だって会社員だと未経験の仕事に対して教育という名目でアサインしてもらえ、なおかつ報酬がもらえるのですから、消費でもあり投資でもあるのです。

フリーランスになる!と会社を飛び出た人が再度会社に戻ってくる理由のほとんどは、上記のことに気づき、成長が止まる自分、消費行動ばかりしている自分に恐怖を感じるからです。

カズキに当てはめると、短期で欲しい報酬、働き方は手に入っても、将来的に掛け算として使える専門力(カズキで言うと組織マネジメント力など)が手に入らないかもしれない環境で時間を使っていいのか?という疑問がわいたわけです。ここまで読んだ人はわかると思いますが、BS脳で考えると今の環境で短期的な報酬を得る働き方は早めに辞めた方がいいということですね。

まとめ

日本ではまだまだ退職/転職を離婚/再婚と同じくらい重大なことに考えている人が多いです。できれば何度もしたくないし、一生に一度の決断くらい重いものに考えています。だからなかなか決断に踏み切れずに新卒で入った会社でキャリアの我慢大会をしたり、ミスったと思う転職先でも数年は頑張ろうみたいな苦行を自分に課したりする人がいます。

キャリア、転職について、学ぶ機会がないうえに、周りに詳しい人もいないのであれば失敗するのは当たり前です。しかし、今回のnoteのようなことをちゃんと頭に入れて活動すれば、自分の限りある生命時間を無駄にすることなく活用することは可能です。

そして、それは若い人の方が有利なのは間違いありません。だって投資する時間が多ければ多いほどリターンは大きいわけですからね。ただ、30代以降の人がもう遅いと思うこともありません。気づいた日が人生で一番若い日です。是非、気づいた瞬間に行動を起こしてみてください。

キャリアや転職の相談は以下より受け付けています。

それでは今日も素敵な一日を!

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