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月星真夜(つきぼしまよ)
2024年6月30日 06:38
カレッタ汐留の展望台から地上に降りると、高層ビルが再びウサギとカメを取り囲み、その高さから二人を見下ろしていた。「未来的な景色が目を引くけれど、このあたりには歴史の息吹も感じられるんだよ」と、カメは穏やかに話し始めた。「たとえば、1872年に日本初の鉄道が走った新橋駅が復元されているんだ」と彼は続け、二人は旧新橋停車場に向かって歩き出した。「当時は西洋建築が珍しくて、日本初の鉄道ター
2024年6月25日 06:43
弥生美術館から続く廊下を渡り、ウサギとカメは竹久夢二美術館へ足を踏み入れた。夢二といえば美人画が頭に浮かぶが、その印象とはまた別に、そこには夢二が描く動物の世界が広がっていた。「竹久夢二といえば、猫を抱いている女の人の絵のイメージがあるけれど、こんなにかわいい動物の絵も描いていたんだね」とカメが話し始めた。「こんなにもいろいろな動物を描いていたなんて、ちっとも知らなかったわ」と、ウサギは微
2024年6月24日 06:00
薄曇りの空の下、根津駅に降り立ったウサギとカメは、言問通りをゆっくり歩き始めた。弥生式土器発掘の碑を過ぎ、緩やかな暗闇坂を下っていくと、弥生美術館が現れた。レトロな香りが漂う美術館で待っていたのは、和モダンの雰囲気に満ちた憂いを帯びた女性が描かれた「マツオヒロミ」の作品だった。「そう、この絵よ。初めて図書館で見たときに心に強く残ったの。まるで時間が溶け合っているみたいな不思議な魅力があるの
2024年6月16日 06:04
静謐なSOMPO美術館の中で、ウサギとカメは神秘的な空気を感じていた。目の前の絵画には広大な北欧の風景が描かれ、その中には妖精や神話の神々が巧みに溶け込んでいた。絵の中には高い山々がそびえ、深い森が広がり、澄んだ湖が静かに輝いている。そして、長い冬の極夜が、どこか現実とは違う世界を語りかけているようだった。ウサギは足を止め、4枚の絵が寄せ集められた作品をじっと見つめた。絵は、何か深い意味を
2024年6月8日 06:01
山手西洋館を巡っていると、カメの視界に一つの案内板が飛び込んできた。道の片隅にひっそりと置かれたその案内板には、手描きの優しい文字が綴られていた。「ブリキのおもちゃ博物館?」その看板を見た彼の心の中に、一瞬で好奇心が芽生えた。気がつくと、彼は隣にいたウサギの手をそっと握りしめていた。「行ってみようか」カメの言葉にウサギが微笑むと、二人は自然に足を進めた。示された道を歩いていくと、や
2024年6月5日 05:58
薄暗くダウンライトが灯るその部屋の中で、ウサギはピンク色のクレヨンを手に、そっと絵を描き進めていた。彼女は時折、描いたものから目を離しては遠くを見つめ、またゆっくりとクレヨンを動かした。小さな手はためらいながらも、確かな意志を持って色を加えていった。やがて、静かな部屋に澄んだ声が響いた。「できた!」それは、「うさくらげ」が生まれた瞬間だった。彼女は自らの全てを注ぎ込んだ作品を、静かにスタッ
2024年6月4日 05:33
鮮やかな色の流れと幻想的な音の渦が、かすかな香りを纏って、ウサギとカメを優しく包み込んでいた。二人のまわりは夢の中のような、案内図のない迷宮の世界だった。「何か不思議なことが起こりそうね」とウサギは静かに言った。その一言が、未知の世界への扉をそっと開いた。ここは麻布台ヒルズの地下に広がるチームラボ・ボーダレスの世界。「一度行ってみたいわ」と、いつかウサギが呟いたその言葉が、二人をこの場所に
2024年6月2日 05:04
夕焼けが西の空に消えかかる頃、ウサギとカメは、ダイバーシティ東京の巨大なガンダム立像を通り過ぎ、シンボルプロムナード公園へと足を踏み入れた。「私に見せたいものってなに?」とウサギがカメの顔をのぞき込んで尋ねると、彼は少し照れくさそうに微笑み、「もう少しだけ、秘密にさせてくれないかな」と答えた。周囲は次第に人影もまばらになり、寂しさが漂い始めた。しかし、目を凝らしてみると、前方に小さな光がち