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記事一覧

トンベリアリ

暖かくなってくると部屋に蟻が入ってくる。
蟻には申し訳ないけれど、
見つける度にティッシュで摘んで成仏してもらっている。

1匹やっても、次から次へと蟻たちは姿を現す。
わたしもやっきになって全ての蟻をティッシュでつまむ。
やりたくない、やりたくないけど仕方がない。
もう何百匹の蟻がわたしの部屋で天に召されたことかわからない。

そんなある日、小さな蟻たちに混ざって、
大きな蟻が部屋に入ってきた。

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わたしの王冠

わたしの王冠

昔々、あるところに心の優しい王様がいました。
王様にはとても美しいお妃様がいましたが、病気で亡くなってしまいました。
お妃様との間に授かった美しいお姫様も、後を追うように亡くなってしまいました。

深い悲しみにくれる王様を、長い間王様に仕えていた侍女がそれはそれは熱心にお世話をし、励ましてくれたので、王様は少しずつ元気になっていきました。王様はいたく侍女に感謝をし、ほしいものがあったらなんでも言う

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免罪符

免罪符

あるところに素晴らしい作品を次々と作り出す、偉大な芸術家がいました。

彼の生み出す物は人々の心を掴み、
多くの人たちが彼の作品に夢中になりました。

初めのうちは謙虚だった彼も、
周りの人たちにチヤホヤされるうちにだんだんと傲慢になっていきました。

自分は偉大なのだから偉大な人としか話をしない、と作品を好きいてくれる民衆を冷たくあしらうようになりました。

自分は偉大なのだから、お金をもらって

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許された男

許された男

あるところに物や人を捨てられなくて困っている男がいました。

物を捨てられない彼の家はゴミ屋敷のようになっていました。

暇を持て余す女の人たちは
そんな捨てられない男の世話をすることで、
暇を潰すことができたのでせっせと男のお世話をしました。

男が捨てられないゴミを整理し、身の回りの世話をするという生きがいを見つけた女たちは、どんどん活き活きとしていきました。

男は女たちがなんでもやってくれ

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踊る少年

とある小さな村に踊りの大好きな少年がいました。
少年は踊りが大好きだったので、毎日のように踊り続け、どんどん上手くなっていきました。

彼の踊りは観る者を魅了し、村の人気者になっていきました。

その噂を聞きつけた、大きな国の王様がやってきて、こんな小さな村ではなくて大きなわたしの国で踊らないか?と少年を誘いました。

少年とその両親は大喜びで引き受けましたが、
大きな国で生活するにはお金がたくさ

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別れた理由

別れた理由

あるところに、幼なじみの夫婦がいました。
小さいころからずっと一緒だったので、
夫婦になることも自然なことでした。

二人は海水浴が好きでした。
夫は沖まですいすいとなんの苦労もなく泳ぐことが出来ましたが、
妻は沖まですいすいとは泳げませんでした。
その代わり、浅瀬でぷかぷか浮かんでいるのが好きでした。

でも二人はいつも一緒だったので、
夫が沖まで泳ぐならと妻も必死で夫についていきました。

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少年と猫

少年と猫

あるところに心優しい少年がいました。
少年はとても優しかったので、捨てられているものをほっておくことが出来ず、家に持ち帰っては、おとうさんとおかあさんに怒られてしまうのでした。

かたっぽだけの小さな靴や、
ぬいぐるみ、漫画の本に、壊れかけの傘、
「どうか捨てないで」という声が聞こえるようで見つける度に拾っては、
自分の宝箱にこっそりしまっておくのでした。

ある時、少年は薄汚れて弱りかけた子猫が

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二人の記憶

昔々、あるところにとても美しい少女がいました。
その美しさのうわさは村の外まで広がって、あちこちから男たちが一目彼女を見ようと集まってくるほどでした。
しかし少女は決して家から出ようとしませんでした。

男たちは、実際には一度も見たこともない少女を巡って争い始めました。

するとある男がやってきてこう叫びました。
この家に住んでいる少女は淫売だ!
何人もの男をとっかえひっかえ寝ているのだ!
騙され

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捨てられない男

捨てられない男

むかしむかしあるところに、ゴミ屋敷に住んでいる男がいました。その男はどういうわけか女の人にとってもモテたので来る日も来る日も別の女の人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、ゴミを捨てて帰るのでした。女の人たちはみんなそろってこう言いました。
「あなたはわたしがいないとダメなのね」
女の人たちがいくらゴミを捨てても、いくら部屋を掃除しても、男はゴミを外から持ってきて、またすぐにもとのゴミ屋敷に戻って

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顔のない男

顔のない男

あるところに顔のない男がいました。
自分に顔がないことがわからないように、
男はいつも仮面をつけていました。

会う人によって笑った仮面や怒った仮面、
おどけた仮面や泣いた仮面をその都度付け替えていたので、
誰にどの仮面をつけて会っていたのか次第にわからなくなり、
男はついに誰にも会いたくなくなってしまいました。

顔のないまま外に出てみようか、
ある時男は思いつき、仮面を外して外に出ました。

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名もなき芸術家

名もなき芸術家

昔々、あるところに、名もなき芸術家がいました。名もなき芸術家は誰にも知られることもなく、毎日毎日名もなき芸術を創っていました。そして彼は死んでからも名もなき芸術家として芸術とともに忘れ去られていきました。

名のある芸術家もいました。彼の創る芸術はどんなものでもいつも人気だったので、彼が死んでからも名のある芸術家として、彼の名前も、芸術も語り継がれていくことになりました。

100年経っても、20

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わたしがあなたと別れた理由

わたしがあなたと別れた理由

「どうして?」
と彼は言った。
「もうあなたとは一緒に泳げない」そう告げたのはわたしだった。
いつも沖まですいすいと何の苦労もなく泳ぐ彼にはきっと一生わからないのだと思った。
どうしてもっと沖まで泳いでこようとしないの?
海はこんなにも深くて広いのに、浅瀬でバシャバシャ泳いでたって面白くないでしょう?
海は深くて広い、泳げば泳ぐほど見たことのない景色がたくさん見つかる。
彼はそれがとても豊かなこと

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いきもの

雨が降ってきた。
ざんざんと降ってきた。
なりやむ様子がなかったので、ぼくは傘を持たずに外に飛び出して雨を飲んだ。
鉄の味がした。
雨は鉄だったのかと思った。

傘を持った人が良かったらこれどうぞと差し出してくれたけど、雨に濡れていたいんで大丈夫ですと言って返したら変な顔をして傘を持った人は立ち去った。

そうか、ぼくは雨に濡れていたいんだ、
と自分の言葉でぼくは気がついた。

雨は止む気配がない

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山の神さま

山間を進んだところにおじいさんが住んでいました。山間はとても寂しいところでおじいさんは一人ぼっちでした。あまりにもずっと一人ぼっちなのでおじいさんは山の頂上に登り、首を吊って自殺しようとしました。その時神様がこう言いました「まだ死んではいけない」と。
おじいさんは神様など信じていなかったので、自分の気が狂ってしまったのだと思い、驚いて山を降りました。おじいさんはいったいあの声は誰の声だったのだろう

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