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名もなき芸術家

昔々、あるところに、名もなき芸術家がいました。名もなき芸術家は誰にも知られることもなく、毎日毎日名もなき芸術を創っていました。そして彼は死んでからも名もなき芸術家として芸術とともに忘れ去られていきました。

名のある芸術家もいました。彼の創る芸術はどんなものでもいつも人気だったので、彼が死んでからも名のある芸術家として、彼の名前も、芸術も語り継がれていくことになりました。

100年経っても、200年経っても、大きな立派な美術館には名のある芸術家の芸術が並び続け、時代や国を超えて愛されていました。

そんな様子を天国で眺めていた名もなき芸術家は、神様にこう尋ねました。

「名のある芸術家の創った芸術のように、後世まで語り継がれるものとわたしのような名もなき芸術家が創ったものの違いはなんなのでしょう」

「・・・不変の真理があるかどうかだ」
と神様は言いました。
「国や時代に限定された真理ではなく、
絶対に変わることのない宇宙の真理があるものが残る。それが名のある芸術家にあって、残念ながらお前にはなかったものだ」

名もなき芸術家はそれを聞いて悲しそうに言いました。
「では、わたしはなんのために創っていたのでしょうか、なんのために」

「いいかい」と神様は優しく続けました。
「全てはわたしの手の中にある。何一つこぼれてなんかいないんだよ」 

それまでなんの価値もないと名もなき芸術家自身が思っていた、名もなき芸術たちがキラキラと光り輝くのを彼は感じました。

「偉大なものであれ、取るに足らないものであれ、全てのものの中に神聖な表現の美しさを私は見る」

神様はそう言って、地上にある全ての名もなき芸術たちを大いに祝福されたのでした。

おしまい。


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