見出し画像

少年と猫

あるところに心優しい少年がいました。
少年はとても優しかったので、捨てられているものをほっておくことが出来ず、家に持ち帰っては、おとうさんとおかあさんに怒られてしまうのでした。

かたっぽだけの小さな靴や、
ぬいぐるみ、漫画の本に、壊れかけの傘、
「どうか捨てないで」という声が聞こえるようで見つける度に拾っては、
自分の宝箱にこっそりしまっておくのでした。

ある時、少年は薄汚れて弱りかけた子猫が捨てられているのを見つけました。
ミャーミャーと弱々しく鳴くその子猫を、
やはり見捨てるわけにはいかず、
少年は家に連れて帰ることにしました。

おとうさんとおかあさんは案の定たくさん怒りましたが、少年はその子猫を育てることに決めました。

お風呂に入れたり、ミルクをあげたり、
それはそれは甲斐甲斐しく世話をしましたが、
捨てられた子猫はなかなか少年になつこうとはしませんでした。

子猫は前の飼い主に酷い目に遭っていたので、
少年に心を開くことができなかったのです。

「お前はどうしてそんなに可愛いの?」
毎日のように子猫にたくさんの愛情を注ぎましたが、子猫は決して懐こうとはしませんでした。
それでも、子猫は少年の用意してくれるエサを食べては温かい寝床で安心してぐっすりと眠るのでした。

少年はいつの間にか青年になっていました。
青年は相変わらず捨てられた物を放っておくことができないどころか、女の人もたくさん拾ってくるようになっていました。
そして女の人を捨てられない青年はたくさんの女の人からたくさん恨まれて、
たくさんの女の人に捨てられるようになってしまいました。

捨てられた青年は、今ではすっかり大人になった猫にこう言いました。

「これで僕とお前は同じ捨てられた者同士だね」

そう言うと、猫は青年の顔を舐めはじめました。
大人になっても懐かなかった猫が、やっと心を開いてくれたことを喜んだ青年は猫をギュッと抱きしめると、猫は青年にそっとキスをしました。

するとどうしたことでしょう。
猫がみるみるうちに美しい女性に変身したのです。
あまりに驚いた青年は
「僕はずっと君のことを大切で可愛い猫として育ててきたのだ。今さら女性になられても僕はどうすることもできないよ」と告げると、その女性から逃げてしまいました。
物も人も捨てられなかった青年は、
生まれて初めて拾ってきたものを捨てたのでした。

再び捨てられた、かつて猫だった女性は、猫に戻ることもなく、女性として生きることも出来ず、身投げをして死んでしまいましたとさ。

おしまい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?