山の神さま

山間を進んだところにおじいさんが住んでいました。山間はとても寂しいところでおじいさんは一人ぼっちでした。あまりにもずっと一人ぼっちなのでおじいさんは山の頂上に登り、首を吊って自殺しようとしました。その時神様がこう言いました「まだ死んではいけない」と。
おじいさんは神様など信じていなかったので、自分の気が狂ってしまったのだと思い、驚いて山を降りました。おじいさんはいったいあの声は誰の声だったのだろうと考えました。
神様のことは信じていませんでしたが、幽霊については信じていたので、あの声は亡くなった母親の声に違いないと思い死ぬのをやめました。

おじいさんはずっと一人ぼっちだったのでまた母親の声がききたいと思い、今度は毒を飲んで死んでみようとしました。すると神様は再び「まだ死んではいけない」と言いました。おじいさんはまた死んだ母親の声が聞きたいと喜んで何度も何度も自殺を試みました。

首を吊ろうとしたり、毒を飲もうとしたり、崖から飛び降りようとしたり、ありとあらゆる方法で自殺しようとしましたが、その度に「まだ死んではいけない」とおっしゃるのでした。
それを母親の声だと思っているおじいさんは死のうとする度に生きようと思うのでした。

ある日、おじいさんは新しい自殺の方法を思いつきました。
それは山に行って熊に食べられることでした。
山の奥に入り込んで、草木の上に横たわって目を閉じながら熊がやってくるのを待ちました。
けれども待っても待っても熊は現れません。諦めて山を降りようとすると、ばったり大きな熊に出会しました。おじいさんは「さぁ、喜んでわたしを食べなさい」と言いました。
亡くなった母親が「まだ死んではいけない」と言ってくれるのを期待して。
しかしその声を聞かないまま、おじいさんは熊にペロリと食べられてしまいました。
その熊は山の守り神で、腹ペコで死にそうだったのですが、おじいさんを食べたことで元気を取り戻し、再び山を守り、山の生き物たちは安心して幸せに暮らすことができました。
おしまい。

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