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『雪に生きる』:破天荒な生き方と思考

猪谷六合雄(いがや・くにお)さん(1890-1986)の著書『雪に生きる』は、彼がスキーに出会い没頭していく中で、何でも試してみる、何でも作ってみるという好奇心に忠実に行動した半生の記録です。

ある大学の理事の方と話をしていたとき、若い時に『雪に生きる』を読んで、研究の道を目指したと語ってくれました。戦時中にも関わらず、ひたすらスキーに打ち込んだ人生。研究も同様に、すぐには役に立たなかったとしても、自分の興味の赴くまま進めることで世界を動かすことがあると語ってくださいました。

好奇心を追求し行動する


私も早速『雪に生きる』を読みました。1943年に出版された本ですが、古さを感じさせません。猪谷さんの人生は非常に大胆で、まるでフィクションのような冒険譚だからでしょう。

彼はスキーに魅了され、自ら手作りのスキー板を作るだけでなく、ジャンプ台まで建ててしまいました。当時は自分で作らなければジャンプをすることができませんでした。さらに、雪を求めて居住地域を転々としましたが、その度に自分で小屋を建ててしまったのです。

実現しなかったプラン


猪谷さんは何でも自力で作ってきましたが、特に面白いのは、実現しなかったプランです。知人とヒマラヤ登山について話していた際に思いついた登山服。この登山服は、着たままテントになるというアイデアでした。半月ほど雪の上で生活できる設計であり、顔を覆っても濾過した空気で呼吸でき雪を浄化し水にする機能、さらには暗室としてフィルム交換もできる機能が備わっていました。しかしながら、支那事変の勃発により、ヒマラヤへのチャレンジは実現しませんでした。

ジャンプ台や小屋を自力で建てることは困難極まりない作業かもしれませんが、その方法はわかっています。『雪に生きる』では、建てた小屋の平面図が掲載されています。しかし、奇想天外な登山服は完全にオリジナルであり、ジャンプ台や小屋とは異なる思考が発動したと思います。設計図が存在しないからこそ自由に発想し、そのアイデアが彼の心に深く刻まれたのでしょう。

破天荒な生き方と思考


『雪に生きる』は、現代の私たちが忘れがちな破天荒な生き方と思考を教えてくれます。私たちは安定や合理性の追求に囚われ、自らの好奇心や情熱を抑えてしまうことがあります。しかし、猪谷さんのように自分の好奇心を追求することで、初めて得られる喜びと輝きがあり、世界を動かす原動力にもなるのです。


猪谷六合雄著『雪に生きる』


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