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#音楽
「待つ」あいだの随想
そうたやすくは触れられない題材を扱ったある映画を先日観ていて、「自分が問い続けていることに安心しないこと」「答えが出ないということに甘えないこと」という言葉が浮かんだ。どちらも意味するところはほとんど同じだが、正解や答えのないあいまいな、あるいは困難な問題を自らに問い続けることのすぐ側には、「こんなに問いと向き合っている自分は大丈夫だろう」という安心感や甘えへの危うい誘いがある。もしそこに誘われ
もっとみる傷つきながら癒される
十一歳のある夜の遅い時間、芸能人から一般人まで複数人の出演者たちが、なにかシリアスなテーマについてテレビで議論していた。子どものころ、早く寝なさいと言われた記憶はほとんどなく、就寝する時間が親と一緒だったので、それを見ていた母の横にいただけだったのだが、ある俳優が「セックスこそが愛の究極だ」と真顔で語っていたりする、今にして思えば、その年齢で見るような内容ではとてもなかった。
その番組のことを
谺する聖愚者の予言──マリウシュ・トレリンスキ演出、大野和士指揮によるムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》
ひっそりとした闇に包まれた舞台に、各辺を光らせた立方体が並んでいる。上手側に置かれたその内側が照らし出されると、痩せ細った、身体に障碍を抱えている若者が、斜め上を見て椅子に座っている。その表情が背後のスクリーンに大きく映し出され、それが荒涼とした大地のような映像とクロスフェードするとともに、個人的な感情ではなく、もっと根源的な、この世界を生きる人間が抱えている宿命的な哀しみのようなものを湛えた嬰
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