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「為すすべのなさ」を抱えて──クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
先月末にようやく日本公開された、クリストファー・ノーランの新作映画『オッペンハイマー』を観て、しばらく茫然としていた。あまりの凄みに圧倒されて茫然としていながら、日常の音に劇中の音を想起するほど作品に頭が浸されてそれについて考えずにはいられず、しかしやはり思索はまとまらないという状態になってしまっていた。それでも考え続けているうちに、この茫然とするほかない感覚、言い換えれば「為すすべのなさ」のよ
もっとみる傷つきながら癒される
十一歳のある夜の遅い時間、芸能人から一般人まで複数人の出演者たちが、なにかシリアスなテーマについてテレビで議論していた。子どものころ、早く寝なさいと言われた記憶はほとんどなく、就寝する時間が親と一緒だったので、それを見ていた母の横にいただけだったのだが、ある俳優が「セックスこそが愛の究極だ」と真顔で語っていたりする、今にして思えば、その年齢で見るような内容ではとてもなかった。
その番組のことを
谺する聖愚者の予言──マリウシュ・トレリンスキ演出、大野和士指揮によるムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》
ひっそりとした闇に包まれた舞台に、各辺を光らせた立方体が並んでいる。上手側に置かれたその内側が照らし出されると、痩せ細った、身体に障碍を抱えている若者が、斜め上を見て椅子に座っている。その表情が背後のスクリーンに大きく映し出され、それが荒涼とした大地のような映像とクロスフェードするとともに、個人的な感情ではなく、もっと根源的な、この世界を生きる人間が抱えている宿命的な哀しみのようなものを湛えた嬰
もっとみる夜明けの鳥の歌を聞きながら
近くの林から鳥の歌が聞こえてきて、ああとうとう朝になってしまったと思う。恐らく四時を少し過ぎた頃だろうか。時計は見ないようにしている。時間を気にすると余計に眠れなくなるからだ。そんな時間になってしまったなら、もう諦めて起きてしまって、日中眠くなったら寝ればいいのにと思われそうだが、目覚ましが鳴るまでに少しでも眠ることを諦められない。それに、生活のリズムが狂うほうが、次の日の夜の睡眠にとってよくな
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