【マークの大冒険】 ブルートゥスとカッシウスの反撃
前回までのあらすじ
ブルートゥスとカッシウスは、失踪したマークを捕らえる手立てを考えていた。大空に飛翔していたウィクトリアの姿を見た彼らは、行く手を阻んだ槍を投げた者がローマの勝利の女神だったことを悟る。だが、マークがウィクトリアを意図して利用しているようには見えなかったため、彼らは疑問に思い、そして、ある仮説を立てた。自分たちとは異なる間接契約の場合、本人が意図しなくとも契約が一方的に結ばれている可能性があることを。二人は契約の証となる媒体をマークから奪うべく、反撃の策を考え、追跡を開始した。
カピトリヌス丘のユピテル神殿の外に二人の人影があった。マークを追跡していたブルートゥスとカッシウスだ。彼らは馬から降りると、神殿内に向けて叫んだ。
カッシウス「いるんだろ?出てこいよ」
カッシウスが腕を組みながら、余裕の表情で神殿の前に立っている。隣ではブルートゥスが不敵な笑みを浮かべていた。
マーク「何!?もうここの場所が特定されたのか?」
神殿内にいたマークは、追手の予想外の早さにひどく驚いていた。
カッシウス「ローマは俺らの庭だぞ?どこに逃げても無駄だ。カエサルの命は保障してやる。その代わり、お前の荷物を全てここに置いていけ。ホルスを降神させたウジャトもな、持ち物全てだ。それが条件だ。残念だが、ここはローマの神々にとって最も力が発揮できる神域なんだよ。抵抗しようとしても、お前はこの神殿から出てきた瞬間に即死することになる」
マーク「そんな嘘に応じるわけないだろう!仮にボクが交渉に応じたとして、カエサルを暗殺しない保険がない」
カッシウス「保険?この状況でお前にそんなものがあるとでも思うのか?どうせ時間の問題だ。諦めて出てこい。お前の持ち物をここに全て置いていけ。そうすれば、お前の命だけは見逃してやる」
マーク「……」
カッシウス「だんまりか?悪いが俺は短気なんだ、そう待ってやれないぞ。それに目的のためならこの神殿だって破壊する。覚悟が違うんだよ。神殿なら安全と思ったか?」
そう言うと、カッシウスの身体に再び剣の模様の降神陣が現れ始めた。そして、激しい閃光と竜巻とともに巨大な人型の骨格が出現する。骨には血肉が凄まじいスピードで付いていき、軍神マルスの姿が現れた。巨大なマルスは右足曲げると、神殿の屋根を思い切り蹴り上げた。屋根が全て吹き飛ばされ、中にいたマークたちの姿が剥き出しになる。
マーク「嘘、だろ……。そ、そんな」
*なぜマルスは神殿ごとマークらを踏み潰さなかったのか?
神は人間に直接手をくだせないルールがある。人間は人間にしか殺せないのである。これは、神と人間が実際は存在している次元が異なるからとも、神は人間の産み親であることから殺められないとも考えられている。だが、その真相は判然としていない。その逆も言え、人間もまた神を殺すことはできない。それゆえ、神は人間から永遠の生命を持つと考えられているが、実際は不死身ではない。神は神を殺めることができる。
唖然とするマークは一瞬静止したが、我に帰ると咄嗟に自身と瞳の周囲をアムラシュリングの守りの盾で覆った。
カッシウス「また、その貧弱な盾か。どうした?早く降神しろ。戦おうじゃないか。今度こそ、さっきの勝負の決着をつけよう」
マーク「クソう」
カッシウス「どうした、発動しないのか?」
マーク「……」
カッシウス「もしかして、できないのか?そうか、わかったぞ!お前の契約には、一定の発動待機時間がある。そうなんだろ?見抜いたぞ、お前がここまで追い詰められても降神しないのは、そういうことなんだな?それにしても、これはこれは、拍子抜けだ。心配し過ぎて損だったな」
マーク「さすがはカッシウス、全てお見通しなのか」
カッシウス「時間稼ぎで神殿に逃げ込んだわけか。神殿なら俺たちも手を出せない。よく考えたもんだ。だが、読みが外れたな。俺らはお前が思っているよりもずっと意志が固い。神殿ごときを盾にされたところで怯みはしない」
マーク「ダメだ、瞳。ここまでだ。降参しよう。やっぱり歴史のシナリオは変えられないんだ」
マークは降参し、カッシウスらの要求通り荷物を全て下ろすと両手を挙げた。カッシウスはマークのリュックの中身を確認すると、ウジャトを取り上げた。
カッシウス「ほう?これがあのホルスを降神させていたウジャトか。悪いが、これはいただく。だが、ウィクトリアの契約媒体はどこだ?」
マーク「ウィクトリア?」
カッシウス「お前、まだ何か隠し持ってるんじゃないか?」
マーク「荷物はそれで全部だ。確かめてもらってもいい」
カッシウス「もしや、ウィクトリアの契約者は、お前じゃなくて、そこにいる隣の女なのか?」
マーク「瞳は関係ない」
カッシウス「関係あるかないかは、俺が決める。お前、その髪飾りを取ってみろ」
瞳「これ?」
カッシウス「そうだ」
瞳「取ったけど」
カッシウス「それを渡せ」
瞳「ほら」
カッシウス「やっぱりな。この髪飾りの中に隠してたのは何だ?」
瞳「別に隠してたわけじゃない。それはマークから旅の途中でもらったお守りで」
カッシウス「ウィクトリアの銀貨だ。やはりこれが契約の媒体だったんだな」
ブルートゥス「読み通りだな」
瞳「何の話?」
カッシウス「本当に何も知らないのか?」
瞳「お守りとして、ただ身につけてただけだけど」
カッシウス「やはり間接契約の場合、意図せず一方的に神の恩恵を受けていることがあるのか。俺たちの推測は当たっていた。それにしても珍しいコインだな。デナリウス銀貨ではあるが、ずいぶん古い時代のものだ。俺たちの時代のものじゃない」
カッシウスが銀貨を覗き込んでいると、空が急に明るくなった。そして、急激に辺りの気温が上昇する。
ブルートゥス「カッシウス、上を見ろ!閃光だ」
カッシウス「二度も同じ手にかかると思うなよ。ブルートゥス、アポロの予知を解放しろ!」
カッシウスがそう叫ぶとブルートゥスは頷き、身体に竪琴の模様の降神陣を出現させた。閃光とともにアポロが現れる。その巨大な身体は、大理石彫刻のように白く無機質だった。
ブルートゥス「お前ら、ローマ人がどうしてここまで繁栄できたか知ってるか?失敗から学ぶことができる人間だったからだよ。カルタゴのハンニバルを倒したスキピオ ・アフリカヌスのようにな。ローマ人の学習能力をみくびられては困る」
先の元老院議場での戦いと同じく、激しい光と熱が発生すると、天空から無数の赤い槍が降り注いだ。マルスは巨大な盾を出現させると、それをアポロに渡した。マルスは大剣で槍をなぎ払い、アポロは盾を振り回して槍を粉々に破壊していく。アポロの予知の力で、槍の動きは彼らに完全に読まれていた。マルスとアポロの剣と盾で粉々にされた巨大な槍は、灰のようになって空気に溶けていく。
カッシウス「もう終わりか?」
ブルートゥス「勝負はついたな。さあ、カエサルはどこに隠した?素直に吐け」
ブルートゥスとカッシウスは、短剣プギオを握り、余裕の笑みを浮かべながら、マークらの反応を見ていた。二人の背後には、巨大なマルスとアポロが佇んでいる。その光景は圧巻で、マークたちに圧倒的な力の差を感じさせた。
To be continued...
Shelk 詩瑠久 🦋
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