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エッセイ

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【エッセイ】新年だもの

【エッセイ】新年だもの

新年のやる気の満ち溢れ方
あれがいつの間にか消滅してまた年末に「来年こそは」と意気込む。その繰り返しだなあともはや苦笑しながら、それでもやっぱり新年だから、と書くことをしています。

明けましておめでとうございます。吉岡雨です。
立派に安定した大人に見える人たちばかりが相互だからって安心して弱音をTwitterの小説アカウントに平気で書き込んでしまう、いい大人になってしまった吉岡雨です。
何回か見

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【エッセイ】はちみつの優しさが分からない

【エッセイ】はちみつの優しさが分からない

タリーズのハニーミルクラテを注文した。シロップのよく知っている甘さではなくて、もっと複雑で優しい味が欲しかったから。
はちみつは何度口にしても、絶対に想像と違う味がする。チューブに入っている定番のアレの、喉に刺さるような甘さが私は好きではないし、背伸びして買う瓶入りのものも、思っていた香りと違うなと毎度思う。私が思うはちみつは、どの花の蜜から作られるのだろう。

カウンター越しに店員さんがはちみつ

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【エッセイ】今日は絶対に定時で退勤するから

【エッセイ】今日は絶対に定時で退勤するから

雨、目黒駅。

行く約束をしていた東京タワーの展望台も、数日前から食べたいと二人で嘆いたモスバーガーも終わってしまう。駅までを走って、駅からも走っても閉店作業は見届けられるが、客になるには間に合わない。それくらいの時間。

この日、もう4月だというのにあたしはインナーに薄手のヒートテックを選んで出かけていた。

夜の東京タワーが見たかった。

だけどあたしは、ねえ、とメッセージを打つ。
この雨じゃ

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【エッセイ】ニベアソフト

【エッセイ】ニベアソフト

香水の強く香るところ。わざわざ無差別に自己主張をしたくない私はあまり得意ではない。ガラスやフォルムの美しさにはとても惹かれるのだけど。そんな私も香るもの自体は大好きなので、もっぱらハンドクリームを使っている。因みに今の一番のお気に入りは、クナイプのネロリの香りのハンドクリームだ。記憶が正しければネロリとは、オレンジの木から採れるオイルのことである。

しかし私の中での安定は、ニベアソフト。
なんと

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ゴミ箱

ゴミ箱

文章を書くことが上手かったことは無いと思う。それでも、あたしは忘れたくない感情と出会った時に、それを忠実にもう一度思い出せるように、自分に一番伝わる言葉と口調でそれをその都度書き留めている。あたしはそれを普段は備忘録、汚い感情を書く時はゴミ箱と無意識のうちに差別して呼ぶ。あたしの青臭くて時には汚い感情たちはみんな、iPhoneのメモの中にある。

手書きにはしない理由はちゃんとあって、それは単にア

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【エッセイ】かわいい、の呪い

【エッセイ】かわいい、の呪い

幼馴染の幼少期の容姿が、元モーニング娘。の加護ちゃんにそっくりだと古い写真を見て気付いた。つぶらな瞳と、笑うときゅっと上がる小ぶりな口元。肌も髪も透き通っていてあれは確かに可憐と言える。彼女が大人になった今でもそれは変わらない。

幼馴染に向けられる沢山のかわいいを、肯定も否定もすることなく、ひたすら聞いていないフリをして幼いながらにやり過ごした記憶がある。隣にいる幼馴染が可愛い、可愛いと言われる

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【エッセイ】水を抱く

【エッセイ】水を抱く

江國香織先生の作品に『きらきらひかる』という小説がある。アル中の妻と、恋人のいるホモの夫を描いた恋愛ものだ。その作品中に出てくる、「水を抱く」という言葉がどうにも忘れられない。悲しい響きだと思う。何も掴めない、しかし夫には妻がいるのであくまで空気ではなく水なのだと私は解釈している。

英語にも似た言葉があるのだろうかと、Hold waterと検索をかけてみた。

確かに漏れのないことを完璧と言う

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【エッセイ】アリピプラゾール

【エッセイ】アリピプラゾール

毎日正しくやってくる強い眠気の波に、上手く乗ることができるようになった。波のかたちを探り当てるのに一週間もかかってしまった。
最初の日はあまりの強い眠気に恐怖を覚えた。二日目は我慢できず就寝時間の二時間前に十五分の仮眠を取り、何とか生活リズムを崩さずにやり過ごした。

アリピプラゾールが私にもたらす「穏やかな生活」では、車の運転も飲酒も禁じられている。友人と話していても、上がるはずの気分が中途半端

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