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#短編小説
SINGER~シンガー~【後編】
あのオーディションから一ヶ月経ったある日、両親から大事な話を打ち明けられた。
『私は里子であること』
『本当の母親は歌手であること』
『私がオーディションで歌っていた時、涙を流していたその女性審査員が実の母だということ』
『DNA鑑定ではっきり親子関係だと結果が出たということ』
DNA鑑定?……私の中で ” あの時だ!” と思い出した。
オーディションを終え、控え室に戻る時に声をかけられた時だ
SINGER~シンガー~【前編】
小さい頃から歌うことで、心を慰めてきた。
私の魂は、歌うことに位置づけられている。
そう、あの時で人生が決まった。
子守唄が優しく聴こえる。母の歌う子守唄。抱かれたその腕の中でスヤスヤと眠る私は、お腹の中にいた時と同じように安心していた。
しかし、いつの頃からかその母の子守唄は消え、違う腕の中で眠るようになった。
私に何が起きているのか、知る由もない。
物心つくようになって、学校の音楽の授業
MODEL~モデル~
「コノおはなのいろは…あかいね。コッチのは、きいろいね」
「どれも綺麗で可愛いね」
「ねぇねぇ、どうしてこんなに、たくさんのキレイなおはながあるの?」
「お花にもね、個性があるんだよ」
「コセイ?」
幼い我が子と公園に来て散歩している。花が何千種類もある公園だ。
子供って素直で見たものを全て吸収している。水を吸うスポンジのように。
太陽に照らされているこれらの花の美しさに癒されて、心がニュートラ
カフェ・ソスペーゾ【最終編】
マーラが亡くなって2年が過ぎた頃、今度はイタリア全土にインフルエンザが流行った。
その頃、同じくして双子の兄弟サミュエルとジョバンニもインフルエンザにかかってしまった。薬を買おうにもお金がなく、相次いで亡くなってしまったのだった。
『なぜ、神様は私達をこんなにも苦しめるのか』
残された自分と小さな子供……生きる希望を失いかけ、アンドレアはマティを抱いて当てもなく山を登っていた。辺りはどんどん暗
カフェ・ソスペーゾ【後編】
ソフィアはアンドレアの話を静かに聞いていた。どこまで続くとも分からぬ戦争に心を痛めていた。辛く悲しい体験をしてきた人が目の前にいる…ソフィアは神妙な面持ちで聞き入った。
終戦後、アンドレアは無事に帰還した。心待ちにしていたマーラを強く抱きしめ、子供達と一緒に再会の喜びを分かち合った。戦場では味わえない人の温もりがそこにはあった。
長く苦しい時代が終わったのだ。
これからは希望を持って生活ができる
カフェ・ソスペーゾ【中編】
イタリアの片田舎にあるカフェ・スペラーレ(希望)
店主マティがソスペーゾ(助け合い精神)で一人の女性を雇った。
その女性の名はソフィア。
ソフィアはマティに恩返しをしようと一生懸命働き、彼女本来の明るさを取り戻しつつあった。
ソフィアが店先で掃除をしていれば、彼女見たさに近所の野郎どもが集まってくる。
つかさず、「おはようございます」と笑顔いっぱいで挨拶すると、途端に彼らは蜂の巣を突いたかのように
カフェ・ソスペーゾ【前編】
1995年
イタリアの片田舎の川沿いに、50年以上にわたって営んでいるカフェがある。
そのカフェの名は ” スペラーレ ” イタリア語で ” 希望 ” という。
朝、店主マティがカフェの出入口を掃き掃除していると、道沿いを向こうから女性が一人、とぼとぼと歩いてくる。どことなくフラついているようにも見える。マティは注意深くその女性を見守った。
疲れ切った顔、目はうつろで遠くを見ていて焦点が合って
『お母さん、どうしちゃったの?』~キッチンドランカーになったわけ~
なっちゃんのお父さんとお母さんは、同い年で学生の頃からお付き合いしていた。
そして、二人とも同じ年に大学を卒業した。
お父さんは、成績優秀で上場企業の会社に入社。
お母さんは、大手の広告代理店に勤めたが2年後、結婚を機に寿退社した。
順風満帆な新婚生活。
お母さんは、とっても幸せな気分でお父さんに食事を作ってあげたり、
スポーツジムに行っては、身体を鍛えプロポーションを維持する。
洋服もハイブ
ドラレコとあおり運転と俺
最近、”あおり運転”の影響もあって、会社の車にドライブレコーダーが設置された。
前後に一つずつカメラが付いている。おまけに、運転技術が採点される機能付き。
毎日運転するたびに、誰かに見張られているようで緊張する。
今日も取引先を回るため、車に乗らなければならない。
乗車する前には、必ず点呼をする。
『お酒を飲んでいませんか?アルコールチェックお願いします。』
『薬を飲んでいませんか?』
『睡眠時