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お母さんに会いたい

「お母さんは寝ているの?」
「お母さんはおしゃべりしないの?」
「お母さんはもう笑わないの?」

3歳の ことちゃんを残し、お母さんは病気で亡くなってしまいました。

大勢の大人たちが、真っ黒な洋服を着て、お母さんの写真を見てシクシク泣いてお辞儀をしています。
ことちゃんには、不思議な光景でした。

「お母さんはどこにいるの?」
お父さんは、静かにお母さんの遺影をさしました。
ことちゃんは、お父さんが指を差す方向をじーっと見ていると
ニコニコ笑っているお母さんが見えるではありませんか!

「お母さん、やっぱり、いるんじゃん!」
それを見た ことちゃんもニコニコになりました。

それからしばらく経って、やっぱりお母さんはどこにもいないと分かりました。悲しくなりました。
ことちゃんは、どうしたらお母さんに会えるのか、いろいろ実験してみることにしました。

実験その1
ことちゃんは、大きなブランケットをいすの上にかぶせ、何やらおまじないの言葉を言っています。
アブラカタブラ~チチンプイプイ~と言うとお母さんが出てくるはずです。
でも、出てきません。

実験その2
お母さんが着ていたワンピースを床に置いて
アブラカタブラ~チチンプイプイ~と言うとお母さんが出てくるはずです。
でも、出てきません。

実験その3
お母さんの愛用していたご飯茶碗をこすって
アブラカタブラ~チチンプイプイ~と言うとお母さんが出てくるはずです。
でも、出てきません。

何回こすっても出てきません
すると、手がすべりガシャーーーン!
お母さんのご飯茶碗を割ってしまいました。

「どうしたらお母さんに会えるの!!」
「あのニコニコ顔のお母さんにどうしたら会えるの!!」

ことちゃんは、ついに泣き出してしまいました。
それを見ていたお父さんが何も言わず、ことちゃんをギュッと抱きしめました。ことちゃんが実験を繰り返すたびに、お父さんは、ことちゃんを抱きしめました。


・・・それから20年の月日が流れ・・・
今日は、ことちゃんの結婚式。最後のクライマックスの場面です。
ことちゃんが感謝の気持ちをお父さんに伝えていると、横にお母さんが立っているのが見えました。
あのニコニコ笑顔でお母さんが立っているのです。

ことちゃんは、言葉を失って呆然としています。まわりはどうしたのかとザワザワし始めました。
すると、ことちゃんは我に返り、感謝の気持ちを言い続けました。

「お母さん、3年間育ててくれてありがとうございました。お母さんが亡くなった後、私は一生懸命お母さんが出てきてくれないか、会いたくて、会いたくて、いろいろ実験をしました。その度にお父さんが抱きしめてくれました。それは同時にお母さんにも抱きしめてもらえていたのだと今、気付きました。ずっと見守っていてくれていたんですね。ありがとう。お母さん、これからも時々、出てきてくださいね」

結婚式の会場は、温かい雰囲気と感情に包まれました。
お父さんは自分の横にいるお母さんを見つめながら、うんうんとうなずいていました。

そして、ことちゃんは感謝を込めて両親に花束を渡しました。



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