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カフェ・ソスペーゾ【中編】

イタリアの片田舎にあるカフェ・スペラーレ(希望)
店主マティがソスペーゾ(助け合い精神)で一人の女性を雇った。
その女性の名はソフィア。
ソフィアはマティに恩返しをしようと一生懸命働き、彼女本来の明るさを取り戻しつつあった。
ソフィアが店先で掃除をしていれば、彼女見たさに近所の野郎どもが集まってくる。
つかさず、「おはようございます」と笑顔いっぱいで挨拶すると、途端に彼らは蜂の巣を突いたかのように散らばっていく。彼女は誰もが振り返る容姿端麗の美人だった。
ソフィアはカフェ・スペラーレの看板娘になっていった。そして店も繁盛していく。

心優しい紳士淑女がカフェ・ソスペーゾをしてくれる。マティは一つ一つに気持ちがこもっている伝票を数える。それを無駄にさせまいと、道端で物乞いをしている人や公園に集まるホームレス達にコーヒーを差し入れる。そこには必ず誰かの笑顔がある。
一杯のコーヒーが心と身体を温め、人の和が広がり、人生をあきらめかけている人達に活力を持ってもらえる。そしてこの町がより良い町になっていく。
マティはいつも思う。
『この町は美しい町だ』と。

忙しい毎日を送りながらも、ソフィアは楽しく、穏やかな日々を送っている。しかし、ソフィアにはひとつ気がかりな事があった。
日常の大半をカフェの一番隅っこで過ごしている店主の父親であるアンドレアの事が気になっていた。

「マティさん、お父様はいつもあそこに座っていらして退屈じゃないんですか?」
「ソフィア、それは違うよ。父はあそこにいる事が幸せなんだよ」
「えっ? 幸せ?」
「あぁ、そうだよ…」

ソフィアはアンドレアにゆっくりと近づき、向かいの席に座りニコニコと微笑みかけた。

「アンドレアさん、私にお話を聞かせてください」
「どんなお話がいいのかね?」
「アンドレアさんが、ここに座る事になるまでのお話を聞きたいです!」
「ほっ、ほう、大昔の話だよ…聞くかい?」


・・・時は1943年 春
マティが誕生。その小さい両手を握る5つ年上の双子の兄 サミュエルとジョバンニ、生まれたばかりの子を抱く優しい母親マーラ。にぎやかで明るい家庭。
アンドレアはぶどう農園で働いている。しかし、冬は仕事がないため都会へ出稼ぎに出ていた。春になり、今年もぶどう栽培のため出稼ぎ先から3ヶ月ぶりに帰ってきた。

「おお、なんと可愛いわが子よ」
「あなたの方に似ているわね」
「そうかぁ、立派な男になるぞー」
「ふふっ」
「お父さん!僕たちにも抱っこさせて」

この明るく穏やかな家庭に、だんだんと戦争の影が忍び寄ってくる。
1943年7月、連合軍がシチリア島に上陸しムッソリーニは逮捕された。いわゆるイタリアの降伏だった。ドイツ軍はこの降伏が刺激となりイタリア半島全土を占領した。
ドイツ軍はムッソリーニを救出し、連合軍と交戦を続ける。
そして、この戦争は1945年5月まで続くのであった。

言うまでもなくアンドレアは徴兵された。小さい子供3人と愛する妻を残し戦場へ旅立って行った。ごく一部の人間の強行が全国民の幸せを奪う。自由の許されない時代…

『まるで国や世界から、虐待を受けているようだ…やりたくもない銃で人を殺す。でも、やらなければ自分が殺される。殺されたら家族はどうなる?』

アンドレアはどうすることもできない現実にもがいていた…これが夢であってほしいと毎日思い、家族写真を見ては胸に込み上げてくるものをグッと堪える。そしてまた今日も戦い続ける。

『俺にできる事は何だ?家族を守るために何ができるのか?』


来週につづく・・・


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