マガジン

  • 長編小説(創作)

記事一覧

水たまり

                   空は今日も高かった 風は季節を運んできて涙腺を撫でる 口腔内、微かに残る渋味に宥め言い聞かせる (間断なく続く車道の往来を…

里枝
4日前
9

紙をめくるおと

薄いものが剥がれ 動き 畳まれる、おと 手が汗ばむ 紙が波打つ 波打った、紙のわずかな凹凸 呼吸している か み 職場まで電車に揺られる タブレットがメインで紙は稀 …

里枝
6日前
6

めしべの心皮

紋白蝶に愛でられて受胎/擬態 子葉の性(野生種のみの特権です 訪れる着床に濃グリーンが排斥する 穿刺された異端/花弁のモビール 「食べられませんとあるので頂戴します…

里枝
7日前
6

ガラスペン

立春の午前、ガラスペンを受け取った。 うつろい〈秋〉―― 命名されたガラスペンは、ペン軸が青紫・緑・茶と様々に違う色合いを見せてくる。岡山のガラス工房の作品だ。 …

里枝
7日前
9

新詩集2024/7/18発行と詩集への雑感

何から書けばいいだろう。 新詩集『常夜灯』の告知を前回の記事更新で取り扱った。今後、定期的に画像やリンクを貼るかもしれないが、今回はスマートフォンから書いている…

里枝
11日前
10

耳に緩む水

                          原島里枝                   歌うように流れ落ちていく。温水を湯船に張る間、ずっと湯の歌に聞…

里枝
3週間前
11

「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」感想レビュー(6/14までアーカイブ配信見れます)

昨日(6/2)、どうしても身体が二つに分裂しないので諦めていたのだが、詩村あかねさんの出演された「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」の有料配信チケットが、今も購…

里枝
3週間前
10

2024/7/18原島里枝新詩集『常夜灯』(ライトバース出版)を上梓します

2024/6/18追記更新 2024/7/18刊行、原島里枝新詩集『常夜灯』、予約開始をいたします。定価2400円+税。発売後はAmazonでも取り扱いますが、予約はありませんのでお含みお…

里枝
1か月前
59

西原真奈美詩集『迎え火』を読んで

赤を纏う。 情熱、覚悟、光、炎……。 そんな風に表現されるかもしれない。 栞を書かれた峯澤典子氏は「受け入れる」とも表現した。 西原真奈美詩集『迎え火』は、美しいと…

里枝
1か月前
13

橘しのぶ詩集「水栽培の猫」を読んで

橘しのぶ詩集『水栽培の猫』を読んで     原島里枝 黒猫の写真が控えめに、しかし存在感強く表紙に「居る」。 繊細な装丁がこの『水栽培の猫』が愛猫への深い愛情を…

里枝
1か月前
46

I.D.

この世界には選ばれた人間に天使がついている。 そのことを啓はこころよく思っていなかった。 啓には天使がついていない。 正確には自分専任の天使が見えない――天使が顕…

里枝
2年前
11

しあわせな骨――やじままりさん同名詩篇の本歌取り短編小説

・短編小説(ショートショートくらいのごく短いお話です) ・注釈 ・この小説についてと元詩について(詩人について) の順で掲載しています。最後までお目通しいただける…

里枝
3年前
9

不透明な未来へ

以下は、次号の月の未明に載せようと思っているエッセイです。 *             新型コロナウイルスが、日本国内で新たなフェーズに入ったとニュースで言われる…

里枝
4年前
8

水たまり

                  

空は今日も高かった 風は季節を運んできて涙腺を撫でる 口腔内、微かに残る渋味に宥め言い聞かせる

(間断なく続く車道の往来を 眺め歩い
 ていくうちに 私を齧っていく 世界
(剥がれた爪、胸腺の奥を毟られ、リン
 パ液は流れて河となる
(細胞の抵抗値は尸の数で数えられる

霊柩車が走り出して行った 道は淡い灰色の残り香がする
手の届かない青色は足元に深く、地

もっとみる
紙をめくるおと

紙をめくるおと

薄いものが剥がれ 動き 畳まれる、おと
手が汗ばむ
紙が波打つ
波打った、紙のわずかな凹凸
呼吸している か み

職場まで電車に揺られる
タブレットがメインで紙は稀
アラート! 
紙は紙でなく指でなぞるガラス面
精密機械の音階も、おと

――紙に似たとても違う別の何か
綴る心の体温までは変わらない、のか?

紙のおと、髪を搔き上げるおと、
神へ捧げる祝詞、噛み締めた歯の軋むおと

(いつか 上座

もっとみる
めしべの心皮

めしべの心皮

紋白蝶に愛でられて受胎/擬態
子葉の性(野生種のみの特権です
訪れる着床に濃グリーンが排斥する
穿刺された異端/花弁のモビール
「食べられませんとあるので頂戴します
「育てられませんとあるので唾棄します

柏葉を見上げて疎雨をやり過ごす
大音を立てて春仕舞う
「何処から雨を知ったのですか
「浄土の匂いが立ったものですから
心のかたちを手さぐりする、内腔
炙ってみれば浮かび上がるか檸檬湯

末端には

もっとみる
ガラスペン

ガラスペン

立春の午前、ガラスペンを受け取った。
うつろい〈秋〉―― 命名されたガラスペンは、ペン軸が青紫・緑・茶と様々に違う色合いを見せてくる。岡山のガラス工房の作品だ。

 三週間前。一月のことだ。
 わたしは蔵前に立っていた。オリジナルのインクが作れる店があると云う。万年筆も、ガラスペンも扱っていると聞いた。

 ガラスペン。いつか雑誌で見たことがある。
 切子のようにきらきらしていた。捩られたペン先の

もっとみる

新詩集2024/7/18発行と詩集への雑感

何から書けばいいだろう。
新詩集『常夜灯』の告知を前回の記事更新で取り扱った。今後、定期的に画像やリンクを貼るかもしれないが、今回はスマートフォンから書いているのでそれらはない。

先にもう一度新詩集の詳細に触れておこうと思う。
2024/7/18発行、現在予約中。
正規の価格は2400円+税となる。
ソフトカバー、A5。カバー写真提供はAugust氏。
内容はまだほとんど公開していないが、
月の

もっとみる

耳に緩む水

                          原島里枝
                

 歌うように流れ落ちていく。温水を湯船に張る間、ずっと湯の歌に聞き入るのは、空気が凍りつきそうだから。冬場、洗面台の傍に座り込み、しんしんと冷える水回りで一所懸命に待ってしまう。いつか窓ガラスの曇りが融けて光が柔らかく微笑むのを。

  新月の翌日、「さようなら」と丁寧に書いたメッセージを送った。別れ

もっとみる

「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」感想レビュー(6/14までアーカイブ配信見れます)

昨日(6/2)、どうしても身体が二つに分裂しないので諦めていたのだが、詩村あかねさんの出演された「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」の有料配信チケットが、今も購入でき、アーカイブを期間限定で視聴できると知った(有料。ツイキャスアカウントが必要になる)。
詩村あかね様/和泉聰子様/大津美紀様/furani様によるコンサート。

配信チケットのご案内ポスト先(大島様のポストを引用しています)
(現在

もっとみる
2024/7/18原島里枝新詩集『常夜灯』(ライトバース出版)を上梓します

2024/7/18原島里枝新詩集『常夜灯』(ライトバース出版)を上梓します

2024/6/18追記更新

2024/7/18刊行、原島里枝新詩集『常夜灯』、予約開始をいたします。定価2400円+税。発売後はAmazonでも取り扱いますが、予約はありませんのでお含みおきください。

ライトバース出版(公式販売サイト・聲℃ストア)

著者直販(予約販売)
BOOTH
原島里枝・月の未明BOOTH(通常郵送)

原島里枝・月の未明BOOTH(匿名配送)

XのDMでも承っており

もっとみる

西原真奈美詩集『迎え火』を読んで

赤を纏う。
情熱、覚悟、光、炎……。
そんな風に表現されるかもしれない。
栞を書かれた峯澤典子氏は「受け入れる」とも表現した。
西原真奈美詩集『迎え火』は、美しいと呼ぶには艱難が滲み,痛々しいと呼ぶには凛としている。
静かだが、静寂なわけではない。
ひそやかな息遣いや、希望のような光のゆらぎが、生きる意志を語りかけてくるように、読み手である私へ届けられた。
娘や父母という近しい存在ーー家族へ捧げら

もっとみる

橘しのぶ詩集「水栽培の猫」を読んで

橘しのぶ詩集『水栽培の猫』を読んで     原島里枝

黒猫の写真が控えめに、しかし存在感強く表紙に「居る」。
繊細な装丁がこの『水栽培の猫』が愛猫への深い愛情を込めていることが感じられた。

私は詩集を頂くとあとがきから読む癖がある。
今回開くと野木京子さんの栞文が入っていたので、それから拝読した。
この詩集をどのように受け止めようか、野木さんのすんなりと吸い込めるように書かれた栞を拝読して、期

もっとみる
I.D.

I.D.

この世界には選ばれた人間に天使がついている。
そのことを啓はこころよく思っていなかった。
啓には天使がついていない。
正確には自分専任の天使が見えない――天使が顕現しなかった人種だ。
人間は原則として誰にも一人ずつ天使がついている。
天使は人間に生まれてから死ぬまでついているが、そのうちのある一定の割合が「実存する天使」として顕現して人間と共に生きる。その天使は世界のあちこちにある「鍵穴」と言われ

もっとみる

しあわせな骨――やじままりさん同名詩篇の本歌取り短編小説

・短編小説(ショートショートくらいのごく短いお話です)
・注釈
・この小説についてと元詩について(詩人について)
の順で掲載しています。最後までお目通しいただけるとさいわいです。

――――――――――――――――

 日本では、ちょうど桜の咲く頃だ。
 晩年パートナーとなった夫は、「私」の遺言通りに「私」をこの地へ連れてきた。小さく骨となった妻を納めた白い箱――が「私」だ。
 大陸は何もかも日本

もっとみる

不透明な未来へ

以下は、次号の月の未明に載せようと思っているエッセイです。


          
 新型コロナウイルスが、日本国内で新たなフェーズに入ったとニュースで言われるようになったのは二月十四日の夜頃だった。ふとマスクの残数を考える。冬はインフルエンザ対策、春は花粉症対策のため予めそれなりマスクを準備しておくのが毎冬の我が家の通例だが、新型コロナウイルスCOVID-19のための箱マスクまでは買い足しし

もっとみる