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耳に緩む水

                          原島里枝                   歌うように流れ落ちていく。温水を湯船に張る間、ずっと湯の歌に聞き入るのは、空気が凍りつきそうだから。冬場、洗面台の傍に座り込み、しんしんと冷える水回りで一所懸命に待ってしまう。いつか窓ガラスの曇りが融けて光が柔らかく微笑むのを。   新月の翌日、「さようなら」と丁寧に書いたメッセージを送った。別れ     たくはなかったが、それ以外の書き方がもう分からなくなっていたの   で

    • 「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」感想レビュー(6/14までアーカイブ配信見れます)

      昨日(6/2)、どうしても身体が二つに分裂しないので諦めていたのだが、詩村あかねさんの出演された「うたのいと〜詩と音楽によるつむぎ〜」の有料配信チケットが、今も購入でき、アーカイブを期間限定で視聴できると知った(有料。ツイキャスアカウントが必要になる)。 詩村あかね様/和泉聰子様/大津美紀様/furani様によるコンサート。 配信チケットのご案内ポスト先(大島様のポストを引用しています) (現在は有料にてアーカイブチケットを購入・視聴できます。6/14まで) https:/

      • 7月、新詩集『常夜灯』を上梓します

        2024/6/11追記更新 2024/6/18 0時~ 予約受付開始と言う運びになりました。 詳細についてはその時に一斉に出すことになりましたので、あと一週間お待たせします。 出版社はライトバース出版です。 予約方法についてや、価格、仕様などは、予約開始と共にポスト予定です。 表題作は、トップに画像で入れています。クリックすると拡大できるので読んでいただけたら嬉しいです。 また2作ほど以下に掲載します。 蝸牛の歯列 届かない筆跡は幽かに奏でる簪となり、 髪を結わえる。

        • 西原真奈美詩集『迎え火』を読んで

          赤を纏う。 情熱、覚悟、光、炎……。 そんな風に表現されるかもしれない。 栞を書かれた峯澤典子氏は「受け入れる」とも表現した。 西原真奈美詩集『迎え火』は、美しいと呼ぶには艱難が滲み,痛々しいと呼ぶには凛としている。 静かだが、静寂なわけではない。 ひそやかな息遣いや、希望のような光のゆらぎが、生きる意志を語りかけてくるように、読み手である私へ届けられた。 娘や父母という近しい存在ーー家族へ捧げられた詩集のようにも思う。 どの詩も完成されていて印象的な詩を挙げようとするとかえ

        耳に緩む水

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        • 7月、新詩集『常夜灯』を上梓します

        • 西原真奈美詩集『迎え火』を読んで

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          橘しのぶ詩集「水栽培の猫」を読んで

          橘しのぶ詩集『水栽培の猫』を読んで     原島里枝 黒猫の写真が控えめに、しかし存在感強く表紙に「居る」。 繊細な装丁がこの『水栽培の猫』が愛猫への深い愛情を込めていることが感じられた。 私は詩集を頂くとあとがきから読む癖がある。 今回開くと野木京子さんの栞文が入っていたので、それから拝読した。 この詩集をどのように受け止めようか、野木さんのすんなりと吸い込めるように書かれた栞を拝読して、期待を抑えつつ僅かな高揚まで感じた。そうしてあとがきを開く。 この詩集への想いを知

          橘しのぶ詩集「水栽培の猫」を読んで

          ② わたし

          実家問題②わたしのこと どこまで書けるか分からないが、できるだけさらり/淡々と書いていきたいと思う。 勘違いしないでほしいのはこれから書くことは過去に基づいていて、 今現在の私はそうではないということだ。 大学生と大学院生の境目くらいで精神面を大きく崩してから 初めて長い入院をした。静養は5か月に及び、休学もしたし、 復学したもののもう馴染めず、私は結局院中退を選んでいる。 それから仕事をしたり倒れたりしながら、20代後半から30代頭くらいまで 年に一回くらいの入退院を

          ② わたし

          よくある話①「姉」

          私には兄姉がいる。あまり話すことはない。なぜかというと交流がないので人に話すだけの話題もない。一応、兄は姉と私とは関わらない独立した家庭で健勝に暮らしているようなので、心配はしていない。 私には歳の近い姉がいる。 姉とも直接の交流がない。ないというか取れない。 姉は世に言う「ひきこもり」になって長い。 姉は私達6人家族が生まれ育った築50年以上経った古い生家に今もひとりで暮らしている。私が現在実家と呼ぶ家はそこから徒歩で15分くらい離れたところに20数年前に建てられてた新居

          よくある話①「姉」

          I.D.

          この世界には選ばれた人間に天使がついている。 そのことを啓はこころよく思っていなかった。 啓には天使がついていない。 正確には自分専任の天使が見えない――天使が顕現しなかった人種だ。 人間は原則として誰にも一人ずつ天使がついている。 天使は人間に生まれてから死ぬまでついているが、そのうちのある一定の割合が「実存する天使」として顕現して人間と共に生きる。その天使は世界のあちこちにある「鍵穴」と言われるいくつかの歪んだ時空から現れ、専任するべき人間のもとへ飛び、一生をその人間と共

          しあわせな骨――やじままりさん同名詩篇の本歌取り短編小説

          ・短編小説(ショートショートくらいのごく短いお話です) ・注釈 ・この小説についてと元詩について(詩人について) の順で掲載しています。最後までお目通しいただけるとさいわいです。 ――――――――――――――――  日本では、ちょうど桜の咲く頃だ。  晩年パートナーとなった夫は、「私」の遺言通りに「私」をこの地へ連れてきた。小さく骨となった妻を納めた白い箱――が「私」だ。  大陸は何もかも日本と違う。風の匂いも、空の色も、夜の星の数も違う。  生前、「私」は友人たちと共に

          しあわせな骨――やじままりさん同名詩篇の本歌取り短編小説

          つきは

          この物語は、2018.2.13までのことを書いています。 つきはは、2020までのことが整理がつかないこともおおく、今も迷走を続けながら詩を書いています。前に進みたいとおもっているけれど、つきははずっと堂々巡りをしているのかもしれません。それでも、進みたいから、立ち止まることを選ばず、歩むことを、選んでいます。  つきは、というその人は、生来どちらかというと繊細で、あまり人付き合いを好みませんでした。しかしながら、人付き合いを好まないでいたことが起因して、なじめない環境で

          つきは

          不透明な未来へ

          以下は、次号の月の未明に載せようと思っているエッセイです。 *             新型コロナウイルスが、日本国内で新たなフェーズに入ったとニュースで言われるようになったのは二月十四日の夜頃だった。ふとマスクの残数を考える。冬はインフルエンザ対策、春は花粉症対策のため予めそれなりマスクを準備しておくのが毎冬の我が家の通例だが、新型コロナウイルスCOVID-19のための箱マスクまでは買い足ししていなかった。マスクはどこも売り切れで、消毒用エタノールも無くなっているらしい。

          不透明な未来へ