ガラスペン
立春の午前、ガラスペンを受け取った。
うつろい〈秋〉―― 命名されたガラスペンは、ペン軸が青紫・緑・茶と様々に違う色合いを見せてくる。岡山のガラス工房の作品だ。
三週間前。一月のことだ。
わたしは蔵前に立っていた。オリジナルのインクが作れる店があると云う。万年筆も、ガラスペンも扱っていると聞いた。
ガラスペン。いつか雑誌で見たことがある。
切子のようにきらきらしていた。捩られたペン先の書き味を想像するしかなかった。
連れて行ってくれた人々と、インクの調合を楽しんだ。採光の取れたスペースをぐるりと見まわす。小さな理科室の模型のような部屋に居た。小さなビーカー。ガラス棒。滴下できる、基本色となるインク瓶の虹色ラインナップ。そして試し書きのためのガラスペン。
初めて触るガラスペンの書き心地は、手に未知のものだから、誰もが一度は触るといい。
インクを作り終わると、ぐるぐると店の中を巡った。その中にうつろい〈秋〉は居た。心の中のアンニュイを溶かし込んで、鏡のようにガラスケースの中から映している。気づくと、わたしは購入を決めた後だった。
届いたうつろい〈秋〉をインクに浸すと、ペン先の溝にするりとインクが吸い上げられ均等な溝がはっきりと見えた。
それでは、紙に線を引こう。
第三詩集『耳に緩む水』の巻頭詩。
このガラスペンで線を書く――詩を書き始めるイメージで、詩集は始まりました。
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