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記事集・K

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川端康成関連の連載記事、および緩やかにつながる記事を集めました。
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織物のような文章

織物のような文章

【※この記事には川端康成作『雪国』の結末についての記述があります。いわゆるネタバレになりますので、ご注意ください。】

縮む時間の流れる文章

 川端康成作『雪国』の終章の前半である、縮(ちぢみ)について書かれた部分には――「縮」だから「縮む」というわけではありませんが――縮む時間が流れています。

 この小説では、縮織は縮(ちぢみ)と書かれていますが、縮は産物であり製品です。

 たとえば、ある

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山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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わける、はかる、わかる

わける、はかる、わかる

 本記事に収録した「同一視する「自由」、同一視する「不自由」」と「「鏡・時計・文字」という迷路」は、それぞれ加筆をして「鏡、時計、文字」というタイトルで新たな記事にしました。この二つの文章は以下のリンク先でお読みください。ご面倒をおかけします。申し訳ありません。(2024/02/27記)

     *

 今回の記事は、十部構成です。それぞれの文章は独立したものです。

 どの文章も愛着のあるも

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目まいのする読書

目まいのする読書


目まいのする読書
 目の前に三冊の本を置いて、同時には無理ですから、それぞれをつまみ食いするようにして読んでいるのですが、さすがに目がまわってきます。あちこち視線を移動させるせいか、読んでいて頭の中がこんがらがるせいか、目まいに似た感覚に襲われます。

 本物の目まいは不快だし苦しいですが、目まいに似た感覚はときとして快感である気がします。

 現在読んでいるのは小説で、次の場面で始まります。

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ひとりで聞く音

ひとりで聞く音

 ひとりで聞く音は寂しいものです。ひとりだけに聞こえる音は不気味さをもたらします。寂しいと感じ不気味だと思うそばには他人のまなざしがあるのではないでしょうか。その他人は、おそらく最期の自分でもあるのです。

「おずれ」と「おずれ」
 川端康成の『山の音』の冒頭には、主人公の尾形信吾(おがたしんご)の家に半年ばかりいて郷里に帰った「女中」の加代の話が出てきます。

 散歩に出るために下駄を履こうとし

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