宮本洛伍

みやもと らくご。文芸・映画・ロックについて文章を書きます。

宮本洛伍

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記事一覧

太宰逸話のネタ本

 昔、こう考えていた。「走れメロス」は教科書レベル、または、太宰の爪先、色々ごちゃごちゃ言ってるけどつまり、作家の本質を示すような作品ではないと。今、違った風に…

宮本洛伍
1か月前
16

「敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさをオレは何に例えよう」

 「敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさをオレは何に例えよう」エレファントカシマシが2002年に発表した「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」の一節だ。 …

宮本洛伍
1か月前
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太宰治を描いた青春文学

 太宰は、泳げない。僕は、すっかり欺かれていたようだ。鎌倉で起こした最初の心中未遂を書いて太宰は、「自分たちは海に投身したが、己は水泳ができたので助かってしまっ…

宮本洛伍
2か月前
16

今夏、読み直したい100冊。

 僕の心は、夏になるともうウキウキしてしまって、風景もゆがむ熱さの街へ飛び出し、さらに涼しい本屋へと浮遊していく。体と財布も後についてきて、大してバイトもしない…

宮本洛伍
2か月前
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恥じて生き熱く死ねない

 「恥じて生きるより熱く死ね」は、ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」の日本語版キャッチコピーだ。この映画を2年前に初めて観た時、僕はあまりに感銘を受け、とにかく精…

宮本洛伍
3か月前
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太宰治作、そして出演「右大臣実朝」。

 ワタシハ、セイレンナ人間デス。  どうだろうか。清廉な感じが、暑中この頃の湿った肌には調度良いのではないだろうか。もしくは、宇宙人の感じだろうか。  「右大臣実…

宮本洛伍
3か月前
14

不全感、清志郎で飛べ。

 どっぷりと太陽光が差して、僕の歩く並木通りは光がこぼれるほどだった。気持ちを象徴しているのではなかった。小説ではないから、単に景色が明るいだけだった。  先日…

宮本洛伍
3か月前
14

太宰逸話のネタ本

 昔、こう考えていた。「走れメロス」は教科書レベル、または、太宰の爪先、色々ごちゃごちゃ言ってるけどつまり、作家の本質を示すような作品ではないと。今、違った風に考える。「走れメロス」は、アイロニカルな太宰文学だと。
 メロスを書く背景になった、と一般に言われている事件がある。「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」という名言を生んだとされるあれだ。1936年、太宰は熱海に滞在していた。太宰の妻初

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「敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさをオレは何に例えよう」

 「敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさをオレは何に例えよう」エレファントカシマシが2002年に発表した「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」の一節だ。
 エレファントカシマシ、もしくはヴォーカルである宮本浩次の詞、が扱ってきたテーマは1つに絞ることができないが、通史として眺めると、そのまま1つの人生におけるテーマの変遷のように見える。これは、同学年(1966-67年生まれ)で組まれた

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太宰治を描いた青春文学

 太宰は、泳げない。僕は、すっかり欺かれていたようだ。鎌倉で起こした最初の心中未遂を書いて太宰は、「自分たちは海に投身したが、己は水泳ができたので助かってしまった」という風だ。これを真に受けた従順な読者であった。しかし、仲間と和舟に乗った際、明らかに怯えているが外形を取り繕う太宰をからかって櫓をこぐ速度を高めたところ、舟の縁にしがみつきながら太宰が「おれは泳げないんだよ。おれは金槌なんだ」と白状し

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今夏、読み直したい100冊。

 僕の心は、夏になるともうウキウキしてしまって、風景もゆがむ熱さの街へ飛び出し、さらに涼しい本屋へと浮遊していく。体と財布も後についてきて、大してバイトもしないくせに、文庫本を購わずにはいられない。つまり、出版各社夏のブックフェアが、盆と正月に圧倒的大差の上で君臨する、一年のうち最大の行事なのだ。今夏のため特別にデザインされた栞などのグッズをレジスターの所でもらって、有頂天になる。帰路では、脳内に

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恥じて生き熱く死ねない

 「恥じて生きるより熱く死ね」は、ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」の日本語版キャッチコピーだ。この映画を2年前に初めて観た時、僕はあまりに感銘を受け、とにかく精神がオーバーヒートして、赤ん坊でもないのに知恵熱を出した。それを具体的に何とは知らないがとにかく重病の前兆であると早とちりし、十代にして遺言を書いた。戒名は「与其羞耻地活着不如激情地死去」とするように。必死の形相であった。
 それでも、なぜ

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太宰治作、そして出演「右大臣実朝」。

 ワタシハ、セイレンナ人間デス。
 どうだろうか。清廉な感じが、暑中この頃の湿った肌には調度良いのではないだろうか。もしくは、宇宙人の感じだろうか。
 「右大臣実朝」という歴史小説において太宰は、実朝の台詞を全て、漢字混じりのカタカナで書いている。神懸かりで品位ある人物とした実朝を描く技法である。
 太宰が他に漢字混じりカタカナの台詞を書いたのは、処女創作集『晩年』の冒頭を飾る「葉」の一断章に登場

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不全感、清志郎で飛べ。

 どっぷりと太陽光が差して、僕の歩く並木通りは光がこぼれるほどだった。気持ちを象徴しているのではなかった。小説ではないから、単に景色が明るいだけだった。
 先日、極私的な失敗、それも殆ど自爆のようなことがあった。そのために、ダウナー沼に足を絡めとられ、ここ数日、起きていても、夢を見ても、妄念を頭から振り落とすことができなかった。妄念に従ってはいけないと考え、その誤謬を理性に示せば示すほど、現実の行

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