今夏、読み直したい100冊。

 僕の心は、夏になるともうウキウキしてしまって、風景もゆがむ熱さの街へ飛び出し、さらに涼しい本屋へと浮遊していく。体と財布も後についてきて、大してバイトもしないくせに、文庫本を購わずにはいられない。つまり、出版各社夏のブックフェアが、盆と正月に圧倒的大差の上で君臨する、一年のうち最大の行事なのだ。今夏のため特別にデザインされた栞などのグッズをレジスターの所でもらって、有頂天になる。帰路では、脳内における夏のブックフェアが始まる。自室の本棚を鑑みて、近いうちに読み直したい100冊を選定する。まあ、100冊もひと夏に読破する集中力もないわけであって、孤独な妄想がメインディッシュである。
 
 生粋の太宰主義者である僕は、川端を貴族趣味と決めつけ、「雪国」も斜めの視線で初読してしまった。しかし、太宰の初期作品(例えば『晩年』収録の「列車」)は、川端や横光利一を中心とした新感覚派の影響下にあるのであって、今では正面から読み直してみたいと思うのだ。

1.       雪国 川端康成 新潮文庫 1947.07.16
2.       晩年 太宰治 新潮文庫 1947.12.10
3.       友情 武者小路実篤 新潮文庫 1947.12.25
4.       お伽草紙 太宰治 南北書園 1948.09.01
5.       ヰタ・セクスアリス 森鴎外 新潮文庫 1949.11.30
6.       坊ちゃん 夏目漱石 新潮文庫 1950.01.31
7.       斜陽 太宰治 新潮文庫 1950.11.20
8.       風立ちぬ・美しい村 堀辰雄 新潮文庫 1951.01.25
9.       津軽 太宰治 新潮文庫 1951.08.31
10.    大和古寺風物誌 亀井勝一郎 新潮文庫 1953.04.05
 
 69年中央公論社版の『不道徳教育講座』は、映画化に伴って再版されたものである。これがすごい。装幀は横尾忠則、表紙などに使われた三島のカラー写真は篠山紀信、挿絵のカットは横山泰三がそれぞれ受け持った豪華な一冊。特に、横山の細い線で飄々としたイラストは、『不道徳教育講座』の持ち味である、三島の逆説的な諧謔にぴったりだ。

11.    異邦人 カミュ(窪田啓作訳) 新潮文庫 1954.09.30
12.    破戒 島崎藤村 新潮文庫 1954.12.25
13.    潮騒 三島由紀夫 新潮文庫 1955.12.25
14.    夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録 ヴィクトール・E・フランクル(霜山徳爾訳) みすず書房 1956.08.15
15.    薔薇と海賊 三島由紀夫 新潮社 1958.05.30
16.    金閣寺 三島由紀夫 新潮文庫 1960.09.25
17.    老人と海 ヘミングウェイ(福田恒存訳) 新潮文庫 1966.06.15
18.    羅生門・鼻 芥川龍之介 新潮文庫 1968.07.20
19.    戯作三昧・一塊の土 芥川龍之介 新潮文庫 1968.11.15
20.    不道徳教育講座 三島由紀夫 中央公論社 1969.05.10
 
 夏の昼には、かっちりとしたものを読みたい。昼は、漱石の『こゝろ』。夏の夜には、艶やかなものを読みたい。夜は、谷崎の『刺靑』。どちらも近代文学館から出た初版復刻版であり、重厚な装幀が読書を彩る。

21.    貧しき人々 ドストエフスキー(木村浩訳) 新潮文庫 1969.06.20
22.    李陵・山月記 中島敦 新潮文庫 1969.09.20
23.    地下室の手記 ドストエフスキー(江川卓訳) 新潮文庫 1969.12.30
24.    黒い雨 井伏鱒二 新潮文庫 1970.06.25
25.    こゝろ 夏目漱石 新選 名著復刻全集 近代文学館 1970.10.01
26.    青の時代 三島由紀夫 新潮文庫 1971.07.23
27.    真夏の死―自選短編集― 三島由紀夫 新潮文庫 1979.07.15
28.    シューマン―愛と苦悩の生涯 若林健吉 新時代社 1971.02.28
29.    刺靑 谷崎潤一郎 新選 名著復刻全集 近代文学館 1974.01.01
30.    岬 中上健次 文春文庫 1978.12.25
 
 他では太宰作品を新潮文庫版で挙げているが、殊に『人間失格』は角川文庫版でなければならない。角川版には「桜桃」が併録されている。「人間失格」よりも濃縮された家庭の幸福を思う沈鬱さ、珠玉の一篇だ。

31.    サド侯爵夫人・わが友ヒットラー 三島由紀夫 新潮文庫 1979.04.25
32.    砂の女 安部公房 新潮文庫 1981.02.25
33.    小説家の休暇 三島由紀夫 新潮文庫 1982.01.25
34.    世界悪女物語 澁澤龍彦 河出文庫 1982.12.04
35.    私は何も考えない 蛭子能収 青林堂 1983.12.15
36.    チョコレートからヘロインまで A・ワイル/W・ローセン(ハミルトン・遙子訳) 第三書館 1986.10.01
37.    罪と罰(上・下) ドストエフスキー(工藤精一郎訳) 新潮文庫 1987.06.05
38.    人間失格 太宰治 角川文庫 1989.04.10
39.    新装版 エロスの解剖 澁澤龍彦 河出文庫 1990.07.04
40.    象 スワヴォ―ミル・ムロ―ジェック(長谷見一雄/吉上昭三/沼野充義/西成彦訳) 国書刊行会 1991.02.20
 
 「生きよ、堕ちよ」の『堕落論』を胸に抱いて今日まで落ちこぼれてきたが、今だ光明の一線すら掴むに能わず。もっと堕落しろ!

41.    失敗の本質―日本軍の組織論的研究 戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎 中公文庫 1991.08.10
42.    鬼太郎夜話(全) 水木しげる ちくま文庫 1992.07.23
43.    ねこぢるうどん(全2巻) ねこぢる 青林堂 1992.07.25 - 1995.07.20
44.    厄除け詩集 井伏鱒二 講談社文芸文庫 1994.04.10
45.    藤子不二雄Ⓐ ブラックユーモア短編集 Vol.3 藤子不二雄Ⓐ 中公文庫 1995.08.18
46.    快楽主義の哲学 澁澤龍彦 文春文庫 1996.02.10
47.    堕落論 坂口安吾 新潮文庫 2000.06.01
48.    日本三文オペラ 武田麟太郎作品選 武田麟太郎 講談社文芸文庫 2000.07.10
49.    美と共同体と東大闘争 三島由紀夫, 東大全共闘 角川文庫 2000.07.25
50.    言葉の標本函 オブジェを求めて 澁澤龍彦 河出文庫 2000.09.04
 
 ブコウスキーの「PULP」は、落丁本でもっている。しかし、それで一向に構わない。そのまま読む。このような賛辞も、小説に対してはあると思う。

51.    実録・外道の条件 町田康 メディアファクトリー 2000.10.16
52.    夫婦茶碗 町田康 新潮文庫 2001.05.01
53.    シュルレアリスムとは何か 巌谷國士 ちくま学芸文庫 2002.03.06
54.    百鬼園随筆 内田百閒 新潮文庫 2002.05.01
55.    PULP Charles Bukowski Ecco 2002.05.31
56.    血と薔薇 コレクション1 澁澤龍彦責任編集 河出文庫 2005.10.20
57.    カルチュラル・ポリティクス 1960/70 北田暁大/野上元/水溜真由美編集 せりか書房 2005.12.26
58.    権現の踊り子 町田康 講談社文庫 2006.04.15
59.    社会学入門 見田宗介 岩波新書 2006.04.20
60.    増補 サブカルチャー神話解体 ―少女・音楽・マンガ・性の変容と現在 宮台真司/石原英樹/大塚明子 ちくま文庫 2007.02.10
 
 とにかく「うわあ」って言う。そういう表現が満載なのが、つげ義春の作品集。

61.    ビギナーズ・クラシック 方丈記(全) 鴨長明(武田友宏編) 角川ソフィア文庫 2007.06.25
62.    解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 柴山雅俊 ちくま新書 2007.09.10
63.    告白 町田康 中公文庫 2008.02.25
64.    四畳半神話大系 森見登美彦 角川文庫 2008.03.25
65.    実話・コカイン密売最前線 新版 北井信一 第三書館 2008.09.15
66.    つげ義春コレクション ねじ式/夜が摑む つげ義春 ちくま文庫 2008.10.10
67.    つげ義春コレクション 李さん一家/海辺の叙景 つげ義春 ちくま文庫 2008.12.10
68.    つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人 つげ義春 ちくま文庫 2009.02.10
69.    人間の建設 小林秀雄/岡潔 新潮文庫 2010.03.01
70.    経済学・哲学草稿 マルクス(長谷川宏訳) 光文社古典新訳文庫 2010.06.20
 
 高校3年生の時、古典の勉強と称して『徒然草』を読んでいた塾の自習室。まあ、何だかんだあって受験には失敗したが、『徒然草』に何か重要な事の書いてあった感触だけが今日に残っている。それをはっきりさせたい。

71.    マイ仏教 みうらじゅん 新潮新書 2011.05.20
72.    政治学をつかむ 苅部直/宇野重規/中本義彦編 有斐閣 2011.07.05
73.    ぼくは散歩と雑学がすき 植草甚一 ちくま文庫 2013.03.10
74.    たったひとつの「真実」なんてない 森達也 ちくまプリマ―新書 2014.11.10
75.    新版 徒然草 現代語訳付き 兼好法師(小川剛生訳注) 角川ソフィア文庫 2015.03.25
76.    テロルと映画 四方田犬彦 中公新書 2015.06.25
77.    赤塚不二夫 実験マンガ集 赤塚不二夫 Pヴァイン 2015.09.30
78.    宮台真司 ニュースの社会学 社会という荒野を生きる。 宮台真司 KKベストセラーズ 2015.11.05
79.    ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 東浩紀/大山顕 幻冬舎新書 2016.01.30
80.    江戸川乱歩名作選 江戸川乱歩 新潮文庫 2016.07.01
 
 先進国の方が、国民の幸福度の概して高い傾向がある。一方で、国の経済成長によって、そこに住む国民の幸福度は向上しない。この「イースタリンのパラドックス」を授業形式で掘り下げるのが『An Economist’s Lessons on Happiness Farewell Dismal Science!』。幸福に代表されるような人生の意味や価値が、差異の中にしか見出されないのか、それとも絶対的なものなのか、僕は時々考える。その問にも、示唆を与えてくれる一冊だと思う。

81.    怖い浮世絵 日野原健司/渡邉晃 青幻舎 2016.08.02
82.    ビートルズにまつわる言葉をイラストと豆知識でヤァ!ヤァ!ヤァ!と読み解く ビートルズ語辞典 藤本国彦 誠文堂新光社 2017.07.18
83.    復刻版 私はバカになりたい 蛭子能収 青林工藝舎 2018.05.20
84.    不良少年とキリスト 坂口安吾 新潮文庫 2019.06.01
85.    きみの言い訳は最高の芸術 最果タヒ 河出文庫 2019.09.20
86.    告白 三島由紀夫未公開インタビュー 三島由紀夫(TBSヴィンテージクラシックス編) 講談社文庫 2019.11.14
87.    つげ義春日記 つげ義春 講談社文芸文庫 2020.03.10
88.    今夜、すべてのバーで〈新装版〉 中島らも 講談社文庫 2020.12.15
89.    神保町「ガロ編集室」界隈 高野慎三 ちくま文庫 2021.02.10
90.    An Economist’s Lessons on Happiness Farewell Dismal Science! Richard A. Easterlin Springer 2021.03.02
 
 『ニッポンの思想』では、日本の現代思想の変遷を見ることを、「シーソーで遊んでいる子供たちを、ずっと眺めているようなものだ」と例えている。転換期が度重なるが、よく見ると同じようなことを言っているという意味で。ある人間の読書も、一冊ごとに多様な点として散乱しているようで、それらが相互的に共鳴し、共鳴ネットワークが一つのコアを個人内部に構築する。読む本、読む本、そのコアの部分へと収斂され、その拡大に供される感覚。あれ、最初の話とは関係ない?

91.    Defying Hitler: The White Rose Pamphlets Alexandra Lloyd Bodleian Libraries 2022.03.25
92.    マイ遺品セレクション みうらじゅん 文春文庫 2022.07.10
93.    総員玉砕せよ! 新装完全版 水木しげる 講談社文庫 2022.07.15
94.    今を生きる思想 宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて 佐々木実 講談社現代新書 2022.10.20
95.    ルポ 特殊詐欺 田崎基 ちくま新書 2022.11.10
96.    オウム真理教の精神史[増補版] ロマン主義・全体主義・原理主義 大田俊寛 春秋社 2023.01.20
97.    音楽は自由にする 坂本龍一 新潮文庫 2023.05.01
98.    2023イタリア・ボローニャ国際絵本原画展図録 平岩茉侑佳/高木佳子/松岡希代子編 日本国際児童図書評議会 2023.06.23
99.    ニッポンの思想 佐々木敦 ちくま文庫 2023.12.10
100. アマゾン始末記 ハーポ部長 ヒビノクラシ出版 2023.12.11

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