らくごたこ

文芸・映画・ロックの雑感を文章にしています。

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最近の記事

ざっかん/エレファントカシマシ: 2001.07.25-2002.04.17

 「敗北と死に至る道が生活ならばあなたのやさしさをオレは何に例えよう」エレファントカシマシが2002年に発表した「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」の一節だ。  エレファントカシマシ、もしくはヴォーカルである宮本浩次の詩、が扱ってきたテーマは1つに絞ることができないが、通史として眺めると、そのまま1つの人生におけるテーマの変遷のように見える。これは、同学年(1966-67年生まれ)で組まれたバンドであるからかもしれない。2007年の「俺たちの明日」は、そうした流れを自ら振

    • ざっかん/山岸外史「人間太宰治」

       太宰は、泳げない。僕は、すっかり欺かれていたようだ。鎌倉で起こした最初の心中未遂を書いて太宰は、「自分たちは海に投身したが、己は水泳ができたので助かってしまった」という風だ。これを真に受けた従順な読者であった。しかし、仲間と和舟に乗った際、明らかに怯えているが外形を取り繕う太宰をからかって櫓をこぐ速度を高めたところ、舟の縁にしがみつきながら太宰が「おれは泳げないんだよ。おれは金槌なんだ」と白状した挿話を『人間太宰治』に発見して、自分の誤認を正すことになった。「海に投身」とい

      • 今夏、読み直したい100冊。

         僕の心は、夏になるともうウキウキしてしまって、風景もゆがむ熱さの街へ飛び出し、さらに涼しい本屋へと浮遊していく。体と財布も後についてきて、大してバイトもしないくせに、文庫本を購わずにはいられない。つまり、出版各社夏のブックフェアが、盆と正月に圧倒的大差の上で君臨する、一年のうち最大の行事なのだ。今夏のため特別にデザインされた栞などのグッズをレジスターの所でもらって、有頂天になる。帰路では、脳内における夏のブックフェアが始まる。自室の本棚を鑑みて、近いうちに読み直したい100

        • ざっかん/ジョン・ウー「ワイルド・ブリット」

           「恥じて生きるより熱く死ね」は、ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」の日本語版キャッチコピーだ。この映画を2年前に初めて観た時、僕はあまりに感銘を受け、とにかく精神がオーバーヒートして、赤ん坊でもないのに知恵熱を出した。それを具体的に何とは知らないがとにかく重病の前兆であると早とちりし、十代にして遺言を書いた。戒名は「与其羞耻地活着不如激情地死去」とするように。必死の形相であった。  それでも、なぜとは言えないが、僕は生き残り、後追いで「男たちの挽歌Ⅱ」「男たちの挽歌Ⅲ アゲイ

        ざっかん/エレファントカシマシ: 2001.07.25-2002.04.17

          ざっかん/太宰治「右大臣実朝」

           ワタシハ、セイレンナ人間デス。  どうだろうか。清廉な感じが、暑中この頃の湿った肌には調度良いのではないだろうか。もしくは、宇宙人の感じだろうか。  「右大臣実朝」という歴史小説において太宰は、実朝の台詞を全て、漢字混じりのカタカナで書いている。神懸かりで品位ある人物とした実朝を描く技法である。  太宰が他に漢字混じりカタカナの台詞を書いたのは、処女創作集『晩年』の冒頭を飾る「葉」の一断章に登場するロシア人の少女と支那蕎麦屋の主人である。彼女らは、ともに外国人であり、その日

          ざっかん/太宰治「右大臣実朝」

          ざっかん/忌野清志郎「JUMP」

           どっぷりと太陽光が差して、僕の歩く並木通りは光がこぼれるほどだった。気持ちを象徴しているのではなかった。小説ではないから、単に景色が明るいだけだった。  先日、極私的な失敗、それも殆ど自爆のようなことがあった。そのために、ダウナー沼に足を絡めとられ、ここ数日、起きていても、夢を見ても、妄念を頭から振り落とすことができなかった。妄念に従ってはいけないと考え、その誤謬を理性に示せば示すほど、現実の行動や思念は妄念の方を好むように選び取った。その様子は、ポスト・トゥルース的とも言

          ざっかん/忌野清志郎「JUMP」