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トウキョウ百景

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東京生まれ東京育ちの30代。 太と環は、それぞれの東京で生まれ育ち、二十歳の時に東京で出会いました。 2人が見てきた東京の景色、東京での物語を、紹介していきます。 ぼくらが育…
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2023年7月の記事一覧

吉祥寺のライブハウスを出ると、月が綺麗に見えていた

吉祥寺のライブハウスを出ると、月が綺麗に見えていた

いまから10年前。
大学4年生になったばかりの4月に、無事に働き先が決まった。
それと同時に、本来であれば最後のモラトリアムを、何も考えずに謳歌するような期間が始まった。
しかし、僕にはひたすら焦燥感があった。

本当にこの会社で良いんだろうか。
転勤がずっと付き纏うけど、本当に良いんだろうか。
面接で会った偉そうなおじさんたちみたいに、僕はなるんだろうか。
もらうことができる給料は見えたけれど、

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高校生の私は阿佐ヶ谷で熱唱した

高校生の私は阿佐ヶ谷で熱唱した

たしか火曜日だったと思う。私は男子バレーボール部に所属していたが、火曜日は体育館を使うことができず、筋力トレーニングしかできない日だった。体育館が使える日より1時間早く部活が終わり、放課後に時間があった。私は高校2年の約2ヶ月だけ、この火曜日にボイストレーニングに通った。

ボイストレーニングに通った理由をはっきり思い出せないが、歌いたかったというシンプルな気持ちだったと思う。高校生になり、本格的

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渋谷の明治通り沿いで迎えた絶望的な朝

渋谷の明治通り沿いで迎えた絶望的な朝

下北沢のチェーン店で「夜中に蕎麦をすするのが似合う」と言われてから7年の月日が経っていた。
秋から冬へと移る季節の変わり目のとある土曜日。僕は当時勤めていた制作会社の、渋谷にあるオフィスで眠い目を擦りながらパソコンに向かっていた。

担当していたイベント案件でトラブルが複数起きた。
朝7時に始業して、仕事が終わるのは翌朝5時。仕事を終えた2時間後には仕事を始めないといけないから、タクシーで退社して

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下北沢で太と出会った。だからこのエッセイが始まった

下北沢で太と出会った。だからこのエッセイが始まった

走った。大学の体育館で着替えると、先輩への挨拶もそこそこに駅へ向かった。小田急線の急行に乗り込んだ。到着するといつもの下北沢がなんだか違って見えた。

下北沢についてもなお呼吸が浅い。南口商店街をぐんぐんと進み、小さな事務所の扉の前に立っていた。そこは憧れの場所だった。

大学3年。就職活動が徐々に迫っていたが、周りに比べて私の計画は順調だった。大学へ進学する際、バレーボールに打ち込みながらマスコ

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