小川志津子

20年来、フリーライターとして暮らしてきたけれど、 今は早めの「ご隠居さん」として、に…

小川志津子

20年来、フリーライターとして暮らしてきたけれど、 今は早めの「ご隠居さん」として、にまにまと暮らしております。 https://note.com/ogwszk/m/m66bf62a41963

マガジン

  • 小川志津子の文。

    20年来取り組んだライター職を離れたアラフィフが、日ごろ見聞きし感じたことを記す随筆マガジン。

記事一覧

光浦靖子『ようやくカナダに行きまして』を読みました。

「ゆかいなおばあちゃんになるためのレールを敷きたい」と前作エッセイを締めくくった光浦さんが、いよいよ身ひとつでカナダへ渡った奮闘記。 思うようにいかないコロナ界…

16

1DKで大騒ぎ。

なんでもない昼下がりに、なんでもないつぶやきを。 半分くらい残ってるアイスコーヒーのタンブラーを、左手で持ちあげて、右手でお菓子の空袋をつかみ、ゴミ箱の上でなぜ…

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人生半世紀、「恋愛アレルギー」を考える

例えば、空を飛べる少年の物語。ロンドンに住まう3人の姉弟を冒険の旅へ誘って、みんな一斉に夜空へ飛び立つ。 あるいは、果物から生まれた正義のヒーローの物語。おばあ…

小川志津子
13日前
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土曜朝のメモ書き。

今日実家に帰る予定だったけど、実家モードになれそうになくて母にLINE。実家だとどうしても気を使ってしまうこと、それが昔から、母をおそれての反応であること(前回note…

小川志津子
2週間前
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51歳、親との日々を考える

実家にて、親たちと水入らずの日々は楽しい。掃除や洗濯や食器洗い程度で、大いに喜んでくれてしまう。自分のしたことが人から喜ばれることが、そういえばこのところ、あま…

小川志津子
2週間前
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連ドラにおける「ベランダの網戸」を語ろう

私の実家マンションに今月、外装工事が入るんだそうだ。そのために、ベランダの網戸をはずしておかなきゃいけないって父が言う。 我が家の構成員は、父・母・私の3名。私…

小川志津子
3週間前
24

51歳のご隠居ライフ

人並みに働いていた頃。「時間ができたらあれやろう♪」って心に秘めていたことがいくつかあった(はずだ)。読みたい本。観たい映画やドラマ。でも、いざ時間ができてみる…

小川志津子
3週間前
17

「はたらかない」をやってみて。

朝は、意外と7時ごろ起きたりする。7時15分のNHKBS、朝ドラ『オードリー』の再放送と、7時半の『虎に翼』をおふとんの中で観て、のっそりと起き出す。 おふとんを畳んで食…

小川志津子
1か月前
57

「はたらかない」をやってみる。

結局、仕事を辞めた。 様子がおかしくなったのは7月の半ばだ。仕事中なのに、流れる涙を止められなくなった。 上司たちはとても優しかった。ゆっくりでいいよ、しばらく…

小川志津子
1か月前
77

ああ、春が来た。

母が、銀杏を植木鉢に植えた。 いくつかの季節を超えて、枝が伸びてきて、あたりまえではあるけれど、イチョウの形をした葉っぱが生えてきた。 世界はシンプルにできてい…

小川志津子
5か月前
15

「旅」の困難をかたろう。

旅って、むずかしい。 日本中、いや世界中のなかからひとつだけ、目的地を選び出す。その時点で、選ばなかった選択肢たちを、すでにざぶりと切り捨てている。 それから、…

小川志津子
8か月前
20

ハハの推し活がバズった日のこと

コトの発端は、今年の大河ドラマだ。 『光る君へ』。紫式部をヒロインに据え、平安時代の紆余曲折を描く意欲作。その初回の放送を観終えて、思い出したことがあった。 80…

小川志津子
9か月前
402

年の瀬のごあいさつ

ご無沙汰している皆々さま。 お元気ですか。いかがお過ごしでしょうか。 小川志津子でございます。 小川の2023年は、なんとも激動でございました。 あちらこちらへ職場を…

小川志津子
9か月前
16

激動の秋、アリ地獄にはまる。

ちょっと今までにない秋を過ごしている。 10月になったとたん、コロナになった。びゅんびゅん上がっていく自分の体温。しかもなかなか下がらない。痛むノド、痛む節々。1…

小川志津子
11か月前
8

「イラ立ち」の知覚過敏

研修の日々である。 小さいころから、人の声にひそむニュアンスに知覚過敏だ。喜びや、悲しみや、孤独や、イラ立ちが、その人の声にまみれて聞こえるのだ。ひとりっ子の私…

8

こちらが思うより、優しかった人たち

3年間勤めた会社の、最後の勤務日を昨日終えた。 どんなに居心地のいい職場でも、「派遣法」とやらで、派遣社員は3年以上、同じところで働いてはならないと決まっていて…

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光浦靖子『ようやくカナダに行きまして』を読みました。

光浦靖子『ようやくカナダに行きまして』を読みました。

「ゆかいなおばあちゃんになるためのレールを敷きたい」と前作エッセイを締めくくった光浦さんが、いよいよ身ひとつでカナダへ渡った奮闘記。

思うようにいかないコロナ界隈の手続きや、「学校」「クラス」という小さな世界に自分を順応させることなど、だいたいの大人が「自分にはもういいかな!」って足抜けしちゃってるであろう沼のひとつひとつに、ざぶーん!と身体ごと飛び込んでおられる光浦さん。

自分はこの人とは合

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1DKで大騒ぎ。

1DKで大騒ぎ。

なんでもない昼下がりに、なんでもないつぶやきを。

半分くらい残ってるアイスコーヒーのタンブラーを、左手で持ちあげて、右手でお菓子の空袋をつかみ、ゴミ箱の上でなぜか左の手を離した。

コーヒーはド派手に飛び散って、アイボリーのベッドカバーがコーヒー色になったので、あわててはがしとって洗濯機へ。

ついでに他の洗濯物もほうりこんで、意気揚々とスイッチオン。

洗濯が終わって干そうとしたら、大好きな青

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人生半世紀、「恋愛アレルギー」を考える

人生半世紀、「恋愛アレルギー」を考える

例えば、空を飛べる少年の物語。ロンドンに住まう3人の姉弟を冒険の旅へ誘って、みんな一斉に夜空へ飛び立つ。

あるいは、果物から生まれた正義のヒーローの物語。おばあさんが川で拾った大きな桃を、真っぷたつに割ったら赤子が現れる。

子どもだった頃は、あらゆる物語を楽しむことができていたはずだ。それがたとえ「自分には起こらないこと」であっても。

そのはずなのに。

物語を楽しむ能力って、年齢とともに薄

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土曜朝のメモ書き。

今日実家に帰る予定だったけど、実家モードになれそうになくて母にLINE。実家だとどうしても気を使ってしまうこと、それが昔から、母をおそれての反応であること(前回note参照)を簡単に伝えると、

「今になってお母さんの人生を否定されても」
「過去を変えることはできないし」
「今はお薬のせいで攻撃的になってるだけ」
「過ぎるのを待ちましょう」

……終ーー了ーーーー。(←浜ちゃんの声で)

私は何が

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51歳、親との日々を考える

51歳、親との日々を考える

実家にて、親たちと水入らずの日々は楽しい。掃除や洗濯や食器洗い程度で、大いに喜んでくれてしまう。自分のしたことが人から喜ばれることが、そういえばこのところ、あまりなかったなあと思う。

喜ばれると、うれしい。調子に乗る。応えたくなる。特に親たちには、笑っててほしい。ここ数年の父母のことが、私はとっても好きである。1ミリも怒らせたくない。私はゆかいで気がきくひとり娘。これまでも、そしてこれからもずっ

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連ドラにおける「ベランダの網戸」を語ろう

連ドラにおける「ベランダの網戸」を語ろう

私の実家マンションに今月、外装工事が入るんだそうだ。そのために、ベランダの網戸をはずしておかなきゃいけないって父が言う。

我が家の構成員は、父・母・私の3名。私には夫も子供もない。こういう力仕事のたぐいを、ある時点で父が完全放棄宣言をしたため、それ以降は母か私がその任にあたってきた。もちろん、今回は私がそれにあたった。この中では私が、いくつになろうと、一番の若手だからだ。

がこん、と持ち上げて

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51歳のご隠居ライフ

51歳のご隠居ライフ

人並みに働いていた頃。「時間ができたらあれやろう♪」って心に秘めていたことがいくつかあった(はずだ)。読みたい本。観たい映画やドラマ。でも、いざ時間ができてみると、案外、やらないもんである。 

「◯◯したい」を並べた時点で、それらが「◯◯しなくちゃ」に変わっちゃうからだ。

で、「ああ、『◯◯しなくちゃ』って思っちゃった!」ってなる。「思っちゃダメ!」ってなる。そして、「別に期限があるわけじゃな

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「はたらかない」をやってみて。

「はたらかない」をやってみて。

朝は、意外と7時ごろ起きたりする。7時15分のNHKBS、朝ドラ『オードリー』の再放送と、7時半の『虎に翼』をおふとんの中で観て、のっそりと起き出す。

おふとんを畳んで食卓へ行くと、母が簡単なサンドイッチを残してくれている。コーヒーを淹れて、もそもそと食す。『THE TIME』の安住アナが、番組終わりに『ラヴィット!』の麒麟川島と言葉をかわすくだりが好きだ。

『ラヴィット!』を観ながら、リビン

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「はたらかない」をやってみる。

「はたらかない」をやってみる。

結局、仕事を辞めた。

様子がおかしくなったのは7月の半ばだ。仕事中なのに、流れる涙を止められなくなった。

上司たちはとても優しかった。ゆっくりでいいよ、しばらく休憩室で深呼吸してきて全然いいよと言ってくれた。私は、とりあえずトイレの個室に飛び込んで、涙がすべて出がらしになるまで泣いてみる。よし、気が済んだ、と思う。席につく。やっぱり声が震える。涙が止まらない。それがまた上司の目に留まる。

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ああ、春が来た。

ああ、春が来た。

母が、銀杏を植木鉢に植えた。

いくつかの季節を超えて、枝が伸びてきて、あたりまえではあるけれど、イチョウの形をした葉っぱが生えてきた。

世界はシンプルにできている。ああすれば、こうなる。わかりきったことだ。そのはずなのに、生きることは、なかなかそこそこ難しい。

コールセンターの仕事に就いて2ヶ月だ。研修を終えたのが1か月前。私は今、最初からわかりきっていた壁の前にいる。

そもそも、電話応対

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「旅」の困難をかたろう。

「旅」の困難をかたろう。

旅って、むずかしい。

日本中、いや世界中のなかからひとつだけ、目的地を選び出す。その時点で、選ばなかった選択肢たちを、すでにざぶりと切り捨てている。

それから、日程を決める。1年365日ある中で、ほんの数日間を選びとる。その時点で、それ以外の季節を味わう可能性を、またもざぶりと切り捨てている。

選び取った選択肢が楽しいかどうか、自分に合っているかどうか、まるでわからないのに、である。

人に

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ハハの推し活がバズった日のこと

ハハの推し活がバズった日のこと

コトの発端は、今年の大河ドラマだ。

『光る君へ』。紫式部をヒロインに据え、平安時代の紆余曲折を描く意欲作。その初回の放送を観終えて、思い出したことがあった。

80歳を超えつつある私の母が、かつて50代や60代の頃、『源氏物語』の現代語訳に猛然と打ち込んでいたのだ。

そのパワーたるや、えらいものだった。地元の地区センターの『源氏物語』の講義に出かけ、取ってきたノートと参考書を広げては、束ねてあ

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年の瀬のごあいさつ

年の瀬のごあいさつ

ご無沙汰している皆々さま。
お元気ですか。いかがお過ごしでしょうか。
小川志津子でございます。

小川の2023年は、なんとも激動でございました。
あちらこちらへ職場を点々としたり、
行き着いた職場でハラスメントに出くわしたり、
うっかり新型コロナにかかったり。

そういうときの心の動きを、
自分で見つめるうちに、気がついたことがあります。

私は自分から、積極的に、
「不安要素」を探しに行ってい

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激動の秋、アリ地獄にはまる。

激動の秋、アリ地獄にはまる。

ちょっと今までにない秋を過ごしている。

10月になったとたん、コロナになった。びゅんびゅん上がっていく自分の体温。しかもなかなか下がらない。痛むノド、痛む節々。1日に2回、母に必ずLINEをするという約束を交わし、粛々とそれを遂行した。生きてます、今日も生きてます、おかーさん。味も匂いもしないけれど、でも「黒糖フークレエ(蒸しパン)」と「ロッテ クーリッシュ」だけは美味しいです。だから明日も生き

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「イラ立ち」の知覚過敏

「イラ立ち」の知覚過敏

研修の日々である。

小さいころから、人の声にひそむニュアンスに知覚過敏だ。喜びや、悲しみや、孤独や、イラ立ちが、その人の声にまみれて聞こえるのだ。ひとりっ子の私にとって、まわりの大人たちを味方につけておけるか否かは死活問題だったので、各種の匂いをいち早く嗅ぎ取っては、先回りしておどけてみせる。それが当時からの、私のファースト・ミッションだった。

大人になってもその習性は変わらない。相手が自分に

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こちらが思うより、優しかった人たち

こちらが思うより、優しかった人たち

3年間勤めた会社の、最後の勤務日を昨日終えた。

どんなに居心地のいい職場でも、「派遣法」とやらで、派遣社員は3年以上、同じところで働いてはならないと決まっていて、昨日がちょうどその最終日だったのだ。

ここを去るぞと決まってから、不思議現象がいっぱい起きた。極度のめんどがりの私は、毎日のお昼ごはんを「一日分の野菜ジュース」「サラダチキンスティック アヒージョ味」「おかかおにぎり」の3点に決めてい

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