小川葵

Dir直@choku1311の執筆アカです。 https://ja.wikipedia…

マガジン

  • 非正規戦闘員ケンタの休日

    シナリオ形式です。ゴレンジャー+山田太一+同志少女よ敵を撃て

  • きおいもん

    シナリオ形式の時代モノです。若き国芳、広重ら絵師達の青春群像劇。

  • 喫茶バンデシネ

    小説です。漫画家ばかりがたむろする喫茶店のお話。

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固定された記事

『きおいもん』 あらすじ

 文政の江戸。  版元、永寿堂の店主・西村屋与八は、旅に出て一向に帰らぬ人気絵師・北斎に代わり、北斎の娘のお栄に筆を取らせ、北斎の新作と偽り店に並べていた。しか…

小川葵
10か月前
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『きおいもん』 第六話

○屋台のそば屋・中(日替わり・夜)  芳三郎、重右衛門、お栄、そばを啜る。  × × ×  屋台の上に置かれる空のどんぶり。 芳三郎「ごちそうさん」 そば…

小川葵
10か月前
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『きおいもん』 第五話

○居酒屋いせや・店の奥、お栄の占い屋  頬杖をついてぼんやりしているお栄。    芳三郎、お栄の前に腰をおろす。 芳三郎「姐さん、また一つ頼むよ」 お栄「……もう治…

小川葵
10か月前
3

『きおいもん』 第四話

○まる正・お豊の部屋(昼・日替わり)  老舗の呉服問屋、まる正の一間。  床の間に飾られた掛け軸、錦絵版画ではなく、  手描きの肉筆絵、赤い椿。  床で体を起こし、…

小川葵
10か月前
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『きおいもん』 第三話

○馬琴の屋敷・書斎  縁側に座る馬琴。   馬琴「(大声で)みち! みちはおるか!」  虚をつかれ、困惑する西村屋。  庭の反対側の襖をスっと開く、  馬琴の義理の…

小川葵
10か月前
2

『きおいもん』 第二話

○同・店前  重右衛門を見送る西村屋と九兵衛。 重右衛門「……では明後日に」  西村屋「誠に、ご足労をおかけいたします」  西村屋たち、うやうやしく頭を下げる。 重…

小川葵
10か月前
2

『きおいもん』 第一話

○長屋の火事場(夜)  鳴らされる半鐘。飛び交う怒号。  打ち壊される家屋。振りかざされるまとい。  派手な装いの町火消し達、  いたるところで喧嘩沙汰。 NA「火…

小川葵
10か月前
4

『喫茶バンデシネ 』 ―第14話―

 真冬でも、スケボーに乗る少年たちは半袖のTシャツだった。  新年早々の中央高架下広場は、いつもと変わらぬ風景で、子連れの大人たちは少年たちに迷惑そうな視線を送…

小川葵
1年前
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『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

「……どう? 出来そう?」 「やってみる」  一子は窓辺バンデシネのソファ席に座り、隣のさつきにサインペンを渡した。窓からのどかな日曜の日差しが差し込んでいた。さ…

小川葵
1年前
7

『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

 一子はテーブルに漫画用の原稿用紙を置いて、Bluetoothイヤフォンを両耳に差した。キャンパスノートに作ったネームを傍に置きながら、一子はシャープペンシルで、枠線の…

小川葵
1年前
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『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

 誰かが肩を軽く揺すった。 「あ……すいません」美波は思わずそう洩らして、机から上体を起こした。眼鏡のないボンヤリした視界に、巽が立っていた。巽は自分の人差し指…

小川葵
1年前
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『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

 十一月も半ばになり、バンデシネが休業して一ヶ月が経とうとしていた。   井の頭公園の樹々も秋色を過ぎ、園内は落ち葉で埋め尽くされつつあった。  三絵子は二階の仕…

小川葵
1年前
4

『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

 朝の交差点で、ママチャリのハンドルを握り、次子は学校や会社に向かう人々と共に赤信号を待っていた。この日は曇った白い空だった。肌寒い風も吹き、少し早く冬が訪れた…

小川葵
1年前
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『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

 駐輪場から見える井の頭線の高架に遮られた狭い空は、夕暮れに差し掛かろうとしていた。  次子はママチャリのハンドルを握り、はす向かいのセントラルコーヒーを見上げ…

小川葵
1年前
6

『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

 朝の吉祥駅近辺は健やかに慌ただしく、無表情だが、どこか溌剌と人々が、京王線の高架下にある駐輪場に次々と自転車を突っ込んでいく。  セントラルコーヒーの二階には…

小川葵
1年前
7

『喫茶バンデシネ』 ―第6話―

 バンデシネの二階の仕事場で、美波は背もたれにちょこんともたれ、エネルギー補給ゼリーを咥えていた。美波の背後で帰り支度の橋下が立ち上がった。橋下が左手のスマート…

小川葵
1年前
6
『きおいもん』 あらすじ

『きおいもん』 あらすじ

 文政の江戸。
 版元、永寿堂の店主・西村屋与八は、旅に出て一向に帰らぬ人気絵師・北斎に代わり、北斎の娘のお栄に筆を取らせ、北斎の新作と偽り店に並べていた。しかし、父親譲りで気まぐれなお栄は扱いづらく、西村屋は、番頭が止めるのも聞かず、“きおいもん”の絵師・芳三郎に北斎の偽モノを描かせる。
 “きおいもん”とは気負った者、血気盛んで向こうっ気が強い者のこと。芳三郎は喧嘩っ早いが、筆はさらに早く、北

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『きおいもん』 第六話

『きおいもん』 第六話

○屋台のそば屋・中(日替わり・夜)
 芳三郎、重右衛門、お栄、そばを啜る。
 × × ×
 屋台の上に置かれる空のどんぶり。
芳三郎「ごちそうさん」
そば屋「へえまいど」   
芳三郎「お代はこいつがまとめて払うからよ」
 芳三郎、まだ食べている重右衛門を指す。
 お栄もまだ食べている。
重右衛門「……早いな」
芳三郎「おうよ。さっさと食えよ二人とも。もう今晩でおわらせっぞ

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『きおいもん』 第五話

『きおいもん』 第五話

○居酒屋いせや・店の奥、お栄の占い屋
 頬杖をついてぼんやりしているお栄。  
 芳三郎、お栄の前に腰をおろす。
芳三郎「姐さん、また一つ頼むよ」
お栄「……もう治ってんじゃねえか?」
芳三郎「いやおれじゃねえ。ちょっと知り合いの婆さんがよ、洗濯もんも干すと、どうも腰が痛えって」   
お栄「もう。どいつもこいつも。あたしは占い屋だよ。医者じゃないっての」
芳三郎「ああ……じゃあよ。知り合いの妹が

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『きおいもん』 第四話

『きおいもん』 第四話

○まる正・お豊の部屋(昼・日替わり)
 老舗の呉服問屋、まる正の一間。
 床の間に飾られた掛け軸、錦絵版画ではなく、
 手描きの肉筆絵、赤い椿。
 床で体を起こし、椿の絵をみつめている、
 まる正の女将、お豊(58)。
 お豊の傍、お栄、栗蒸し羊羹をほおばる。
お豊「いい赤だ」
お栄「本当なら山茶花だったけど。椿はまだちょっと早い」
お豊「いいんだよ。椿で。椿は散るとき、首からぽろっと落ちるだろ?

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『きおいもん』 第三話

『きおいもん』 第三話

○馬琴の屋敷・書斎
 縁側に座る馬琴。  
馬琴「(大声で)みち! みちはおるか!」
 虚をつかれ、困惑する西村屋。
 庭の反対側の襖をスっと開く、
 馬琴の義理の娘、みち(36)。
みち「はい」
 馬琴、無言でみちに合図を送る。
 みち、書机の前に座り、速やかに筆を用意する。
 とまどう西村屋。
馬琴「(目を閉じ)伏姫は思ひかけなく、竒しき童に説き諭されて、無明の眠り覚めながら、夢かとぞおもう跡

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『きおいもん』 第二話

『きおいもん』 第二話

○同・店前
 重右衛門を見送る西村屋と九兵衛。
重右衛門「……では明後日に」 
西村屋「誠に、ご足労をおかけいたします」
 西村屋たち、うやうやしく頭を下げる。
重右衛門「いえ。こちらこそありがとうございます。頑張ってみます」  
 ふり返り、去っていく重右衛門。

○同・店内
 西村屋と九兵衛、店の中に戻りつつ、
九兵衛「本当に描くって言ったんですか?」
重右衛門「ああ。無理だ無理だとうるさかっ

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『きおいもん』 第一話

『きおいもん』 第一話

○長屋の火事場(夜)
 鳴らされる半鐘。飛び交う怒号。
 打ち壊される家屋。振りかざされるまとい。
 派手な装いの町火消し達、
 いたるところで喧嘩沙汰。
NA「火事と喧嘩は江戸の華」
 
○火事場周辺の通り(夜)
 腰に矢立を下げた芳三郎(24)、
 集まった野次馬達をかき分けていく。
芳三郎「どけどけ!」
NA「時は文政十二年。江戸。のちに文政の大火と呼ばれるこの大火事に、それぞれあい対する三

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『喫茶バンデシネ 』 ―第14話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第14話―

 真冬でも、スケボーに乗る少年たちは半袖のTシャツだった。
 新年早々の中央高架下広場は、いつもと変わらぬ風景で、子連れの大人たちは少年たちに迷惑そうな視線を送っていた。
 晴は広場の隅で地べたに座っていた。傍にスケボーを置き、手にしたスマホで漫画を読んでいた。『十二月の子供たち』というタイトルで、表紙はスケボーに乗る少年だった。作者は文月ルナだった。

 さつきは塾の自習室にいた。
去年、一子に

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『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

「……どう? 出来そう?」
「やってみる」
 一子は窓辺バンデシネのソファ席に座り、隣のさつきにサインペンを渡した。窓からのどかな日曜の日差しが差し込んでいた。さつきは渡されたサインペンの太い方を使って、原稿に小さくバツのうたれた部分を黒く塗っていった。
 ベタ塗りと言われる、漫画原稿の黒い部分を塗る作業を一子はさつきに教えていた。
「少しぐらいムラになっても気にしないで。そうそう……」
 一子は

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『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

 一子はテーブルに漫画用の原稿用紙を置いて、Bluetoothイヤフォンを両耳に差した。キャンパスノートに作ったネームを傍に置きながら、一子はシャープペンシルで、枠線のアタリをつけ、下描きをしていった。イヤフォンから、御代川のように音漏れをさせる事もなく、一子は淡々と作業を進めた。
「……そうだよね。うん。ごめんね。大丈夫大丈。急にごめんね」
 合間に一子は喫煙所で電話をした。喫煙所には疲労感を漂

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『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

 誰かが肩を軽く揺すった。
「あ……すいません」美波は思わずそう洩らして、机から上体を起こした。眼鏡のないボンヤリした視界に、巽が立っていた。巽は自分の人差し指を口もとに持っていき、ソファの方を目配せした。
 ソファで三絵子がふんぞり返って爆睡しているのが、裸眼の美波にも分かった。
 早朝のバンデシネの二階に居るのはこの三人だけだった。巽は手に提げていた小さなコンビニ袋を美波に掲げ、「休憩しない?

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『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

 十一月も半ばになり、バンデシネが休業して一ヶ月が経とうとしていた。  
井の頭公園の樹々も秋色を過ぎ、園内は落ち葉で埋め尽くされつつあった。
 三絵子は二階の仕事場のソファで、寝巻きのようなパーカー姿でリラックスし、スマホで漫画を読んでいた。しかし、先程から目でコマを追ってはいるものの、視界の端で、ペンタブレットに向き合う美波が悲壮感を漂わせ、三絵子の有意義な読書の邪魔をしていた。
「……」三絵

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『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

 朝の交差点で、ママチャリのハンドルを握り、次子は学校や会社に向かう人々と共に赤信号を待っていた。この日は曇った白い空だった。肌寒い風も吹き、少し早く冬が訪れたような朝だった。
 信号が青に変わる。ペダルを踏み込んで、次子は井の頭通りを真っ直ぐ進む。吉祥寺通りの交差点を過ぎでも右に曲がらず、井の頭公園に入る事なく、京王線の高架下に向かってペダルを漕いだ。次子はいつもの駐輪場に向かっていた。
 駐輪

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『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

 駐輪場から見える井の頭線の高架に遮られた狭い空は、夕暮れに差し掛かろうとしていた。
 次子はママチャリのハンドルを握り、はす向かいのセントラルコーヒーを見上げていた。
「……」
 次子は大きく深呼吸して、車輪留めの少し手前にあった前輪を、勢いをつけガコンと突っ込んだ。カゴから薄っぺらいエコバックを取って、次子はセントラルコーヒーに向かっていった。
 入り口にはまだパート募集の張り紙があった。

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『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

 朝の吉祥駅近辺は健やかに慌ただしく、無表情だが、どこか溌剌と人々が、京王線の高架下にある駐輪場に次々と自転車を突っ込んでいく。
 セントラルコーヒーの二階には、全面窓に面したカウンター席が四つだけあった。そのひとつに三絵子は座っていた。ガラス越しに駐輪場をぼんやり見下ろしていた。一席空けて、隣に座った橋下が眠たげに珈琲カップに口をつけた。
「……バイト代入ったら、ホテル代半分払うね」
 三絵子は

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『喫茶バンデシネ』 ―第6話―

『喫茶バンデシネ』 ―第6話―

 バンデシネの二階の仕事場で、美波は背もたれにちょこんともたれ、エネルギー補給ゼリーを咥えていた。美波の背後で帰り支度の橋下が立ち上がった。橋下が左手のスマートウォッチをみた。時刻は十一時を過ぎていた。橋下は美波に声を掛けた。
「……帰らないんすか?」
 美波は振り返った。
「あ、お疲れさま。うん、あたしはもうちょっと。折り返しのメール、待ってて」
「うす。じゃお先します」
「お疲れさま」
 美波

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