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喫茶バンデシネ

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小説です。漫画家ばかりがたむろする喫茶店のお話。
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記事一覧

『喫茶バンデシネ 』 あらすじ

 売れっ子から駆け出しまで、漫画家ばかりが集まる吉祥寺の喫茶店・喫茶バンデシネ。  バン…

小川葵
1年前
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『喫茶バンデシネ 』 ―第1話―

 路面に積もった紅葉はしっとり濡れている。   夜通しの秋雨が止んだ早朝、神職者たちの古…

小川葵
1年前
12

『喫茶バンデシネ 』 ―第2話―

 バンデシネの看板に昼下がりの斜めに日が射した。表玄関の扉がドアベルを鳴らして開き、サラ…

小川葵
1年前
6

『喫茶バンデシネ 』 ―第3話―

 バンデシネの閉店時刻は一応、夜の七時だった。表玄関の札はクローズとなってはいるものの、…

小川葵
1年前
11

『喫茶バンデシネ』 ―第4話―

 三絵子がアイス珈琲をテーブルに置いた。 「お待たせしましたー。ガムシロは? いらないよ…

小川葵
1年前
5

『喫茶バンデシネ』 ―第5話―

 夕暮れのバンデシネのソファ席に、英国の紳士もしくは諜報部員さながらの、仕立ての良い背広…

小川葵
1年前
12

『喫茶バンデシネ』 ―第6話―

 バンデシネの二階の仕事場で、美波は背もたれにちょこんともたれ、エネルギー補給ゼリーを咥えていた。美波の背後で帰り支度の橋下が立ち上がった。橋下が左手のスマートウォッチをみた。時刻は十一時を過ぎていた。橋下は美波に声を掛けた。 「……帰らないんすか?」  美波は振り返った。 「あ、お疲れさま。うん、あたしはもうちょっと。折り返しのメール、待ってて」 「うす。じゃお先します」 「お疲れさま」  美波はなんとか微笑んだが、疲労を隠せなかった。しかし、心地よい疲れだった。   橋下

『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

 朝の吉祥駅近辺は健やかに慌ただしく、無表情だが、どこか溌剌と人々が、京王線の高架下にあ…

小川葵
1年前
7

『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

 駐輪場から見える井の頭線の高架に遮られた狭い空は、夕暮れに差し掛かろうとしていた。  …

小川葵
1年前
6

『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

 朝の交差点で、ママチャリのハンドルを握り、次子は学校や会社に向かう人々と共に赤信号を待…

小川葵
1年前
8

『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

 十一月も半ばになり、バンデシネが休業して一ヶ月が経とうとしていた。   井の頭公園の樹…

小川葵
1年前
4

『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

 誰かが肩を軽く揺すった。 「あ……すいません」美波は思わずそう洩らして、机から上体を起…

小川葵
1年前
9

『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

 一子はテーブルに漫画用の原稿用紙を置いて、Bluetoothイヤフォンを両耳に差した。キャンパ…

小川葵
1年前
5

『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

「……どう? 出来そう?」 「やってみる」  一子は窓辺バンデシネのソファ席に座り、隣のさつきにサインペンを渡した。窓からのどかな日曜の日差しが差し込んでいた。さつきは渡されたサインペンの太い方を使って、原稿に小さくバツのうたれた部分を黒く塗っていった。  ベタ塗りと言われる、漫画原稿の黒い部分を塗る作業を一子はさつきに教えていた。 「少しぐらいムラになっても気にしないで。そうそう……」  一子はさつきに優しく言った。 「……でも本当に大丈夫? 私、美術だけは三だし。もうこれ